騎士の謎
外観の損傷具合とは異なり、町の中はそれなりに人の往来があった。
俺達に襲い掛かって来た騎士がいたことから、この場所は何かしら支配を受けているというのを想像していたが、そういうわけではなさそうな雰囲気。
「さっきみたいな騎士の姿がないな」
リチャルが言う――確かに、支配しているというのなら俺達に襲い掛かった騎士が多数いてもおかしくないのだが、その姿もない。
街角にいる兵士についてはごくごく普通の姿をしているし……ふむ、町が損傷したのはだいぶ前で、現在は復興途中とかなのだろうか? けど、そうなると先ほどの騎士がなぜあの場にいたのかわからない。遺跡のある場所を知っていて、人目を避けるように活動していたのか?
もっとも、ああいった騎士による支配が無くとも町を歩く人々の顔はどこか暗い。圧政が原因であるのは間違いないだろう。
その辺りのことを解決する前に、道具などを買い取ってくれる店へと入る。中の雑貨などに目を移しつつ、俺は手持ちの物をいくつか売り払う。
はした金にはならないと思うが……渡された金額はまあそこそこのものだった。雑貨などの金額から考えるに、それなりの期間旅費としてどうにかなりそうだ。
で、その間に情報収集も行う――その結果、予想通りではあったが、物語のようには進んでいないらしかった。
「ルオン様の知る物語とは異なる流れですが……例えば見知らぬ敵がいる、というわけではなさそうですね」
ソフィアが言う――店を出て通りを眺めながら会話を行う。
「まあ、そうだな。物語に沿っているわけではないけど……」
俺は彼女の言葉に頭をかきつつ答える。
まず、いまだ四竜侯爵は撃破されていない……というか、戦ったなどという話もなさそうな状況。なおかつ皇帝も存命とのこと。
で、皇帝に反旗を翻す抵抗勢力もいるようだが……それが次第に不利な状況となっており、その組織がいよいよ壊滅しそうという状況。
うーん、首謀者が勝利しそうなパターンに入っている……このまま放置しておくとどうなるか想像してみる。首謀者だって侯爵達の戦闘データは取れていないが、資料の提供はされているだろう。となればいずれ、研究を完成させ動き出すはずだ。
「……どうしますか?」
ソフィアが問う。俺は口元に手を当て思考する。
「やっぱり放置しておくのはまずいな。この調子だと、首謀者が最終的に勝利する」
「首謀者が本格的に動き出すタイミングは……」
「推測だが、反乱組織を潰してから実行する気なんじゃないか?」
リチャルが見解を述べる。
「現在、圧政はあれど国内の混乱は収まりつつある。それならゆっくりと首謀者は研究できるだろうし」
「そうなると首謀者の脅威となる存在は四竜侯爵ですよね。現在双方は手を組んでいるわけですが……」
「確か、ネフメイザは元々始末する気でいたんだったかな」
俺は記憶を頼りに発言。
「ネフメイザと侯爵達との間には利害関係しかない。侯爵達は様々な報酬と引き換えに色々と動いているんだ。元々、侯爵達は現皇帝に忠誠を誓っているわけじゃないからな……中には毛嫌いしている者もいるくらいだし」
「つまり……」
「反乱軍を鎮圧した後、ネフメイザは皇帝を殺害。その後侯爵達を呼び寄せ、報酬に関する話をするフリをして……皇帝の竜魔石を使用して始末、かな」
たぶんネフメイザ自身こういう算段を立てていただろう。ゲームではその相手が反乱組織になったというだけの話だ。
「さて……ある程度状況は確認できた。で、ここから俺達のやることを相談だ」
「その前に、縛り上げた騎士達の状況は?」
リチャルの言葉。俺はここで状況を確認する。どうやら目覚めたらしいが、動けないらしい。
「彼らについてもどうするかな……一応騎士身分だろうから、引き渡そうとしてもまずいだろうし」
あのまま放置するのが一番かなあ……そう思った矢先、拘束する騎士達に近づく人影が。
「あ、別の騎士がやってきた。もしかすると、隊をいくつかに分けて行動していたのかもしれないな。そのうち一つと俺達は遭遇した」
「他に天使の遺跡があったということでしょうか?」
「あるいは、天使の遺跡以外にも目的があったのかもしれない」
監視を続けていると、別所からやってきた騎士が拘束を解いた。この町に来るようなことがあれば、対処法を考えなければならないが……。
彼らは移動を開始する。その方向は、この町とは逆。
「こっちには来ないみたいだな」
「あの騎士達は何が目的だったのでしょうか?」
「……騎士達の装備は、侯爵に関連する物で間違いない。つまり彼らは密命を帯びここまで来た……うーん、これがネフメイザと関係があるのか、それとも侯爵独自の行動なのかわからないな」
「物語の中で、このような事例は?」
「天使の遺跡は存在していたし、ダンジョンとしてユスカが潜るようなこともあったけど……侯爵達が関わっているという情報はなかったな」
これをどう見るか……ま、どちらにせよこの事実については記憶に留めていた方がいいだろう。
「とりあえず、この情報は憶えておくとして……今後、俺達がどう行動すべきか相談しようか」
そう言いながら、俺は一つの店を示す。看板から察するに、飯屋だ。
「まずは腹ごしらえといこう」
注文を済ませた後、最初に切り出したのはソフィア。
「反乱組織と合流しますか?」
「それも一つの手だな……どういう選択にしろ、彼らについて調べる必要がある。きっと物語の主人公であるユスカもいるだろうし」
「他には……直接首謀者を叩きますか?」
「一番早い解決策だから、わかりやすくていいんだけどなあ」
「問題が?」
「ああ」
俺は困った顔をしつつ、ソフィアに言う。
「簡単に言うと、現段階でネフメイザを倒すと国が崩壊する」
「は?」
「物語はいくつもの流れがあって、どのタイミングで最後の敵であるネフメイザを倒すかというのも重要だった」
――ゲームでは、二周目以降ボーナスで色々なことができるようになる。その中の一つとしてあるのが、ネフメイザの撃破。帝都の城にはいつでも忍び込めるようになっており、彼を倒すことができる。その結果、例外なくエンディングを迎えるのだが――
「ネフメイザは力を手に入れていない状況なら戦闘能力は皆無であり、倒すこと自体は楽勝だ。俺達なら城に忍び込んで寝首をかくくらいのことは間違いなくできる」
「でもそれをすると、国が崩壊する?」
「えっとだな、現在国は皇帝が執政を行っているわけじゃないんだ。基本的にネフメイザと彼の息がかかった大臣が行っている。その中で頭が失われれば……」
「混乱しますね」
ソフィアが断言。俺はゲームのバッドエンディングを思い出しながら語る。
「今よりさらに国が混乱する可能性が極めて高い……現在四竜侯爵が全員生きているため、辿る道筋は彼らが大規模な反乱を起こし、国がバラバラになる終わり方だな」
「そういう結末は避けるべきだと、俺でもわかる」
リチャルが述べる――四作目の特徴としては、どこか重苦しい雰囲気だった。魔王との戦いを行った『スピリットワールド』においても戦争などが繰り広げられる以上シリアスであるのは間違いないが、サブイベントなどについては牧歌的なものも多くあったし、暗い一辺倒というわけではなかった。
けれど『エデン・オブ・ドラゴンズ』は違う。容赦なく暗いエンディングを用意するなど、ずいぶんと作風が異なっている。実際、マルチエンディングということもあってエンディングの種類は多かったが、その多くが暗い結末を迎えるいわゆるバッドエンドだ。
「四竜侯爵を一人、二人、と撃破しても状況的には同じだ。結局生きている侯爵が混乱を巻き起こすだけ……全て倒した場合、物語通りの流れとなるのかな。まあ、無理矢理にでもその形にもっていくことが最善なのかもしれない。残る問題は、現皇帝の処遇かな」
「現在、民の恨みを買っている状況ですよね」
ソフィアは言う。その通り。ただ彼も犠牲者なわけだが――さて、どうするか。
議論はさらに進む、次に声を発したのは、リチャルだった。




