竜の楽園
「これは……」
損傷した町を見て、ソフィアが声を発する。
「先ほどの騎士……竜人がいたということは、あの町を支配しているのでしょうか?」
「かもしれないなぁ……しかし、そうなると拘束した彼らをどうするかな」
頭をかくリチャル。支配している場所の役人に引き渡しても意味はないだろうし、むしろ俺達が捕まってもおかしくない。
そこまで考えて……俺は、動きを止める。
「まずは、あの町で情報収集を……ルオン様?」
問い掛けに反応できなかった。それにより様子がおかしいと察したか、リチャルが質問する。
「ルオンさん……どうしたんだ?」
「……なぜ」
呟く。ソフィアやリチャル。さらにガルクが視線を集めた時、俺は続けた。
「この町が……襲われているんだ?」
「場所に、心当たりがあるのか?」
リチャルが問う。だが俺はなおも呟く。
「ちょっと待て、戦いの中で町が被害に……? いや、どの話の流れでもこの町は無事だったはず――」
「ルオンさんって、シェルジア大陸出身じゃないのか?」
さらなるリチャルの質問。それに反応したのはソフィアだった。
「それ、どういう意味ですか?」
「竜人がいたということは、ここはナーザレイド大陸……つまり、俺達は転移装置で大陸を渡ってしまったということ」
「大陸外に……!?」
「そういうことだ。ま、さっきの騎士と会話できたように、大陸内の人と意思疎通についてはできるから、そこは幸いだったな。ただ帰るのは面倒そうだ。確か王様……じゃなかった、ここでは皇帝か。皇帝が代替わりして、他の大陸とは最低限の交易以外、鎖国に近い政策を取っていたはず。国外に出られるのは許可された人だけ……ソフィアさんのことを信じてもらえれば、その辺り打開できるかな?」
会話を聞きながら、俺は使い魔との連絡を試みる。シェルジア大陸内に魔王との戦いから存在している使い魔がいるのだが……無理だった。収納箱を呼び寄せることができないのと同様、遠すぎるのだろう。
そして俺は、さらに疑問を連ねる。
「どういうことだ……? そもそも入手していた情報では主人公側が有利だったはず――」
『ルオン殿、落ち着け』
ガルクが肩に出現し言う。ここで俺は頷き、一度頭の中を真っ白にした。
「……ごめん、ガルク」
『目の前の状況に動揺するのは理解できたが、一つ一つ片付けていこう。まずルオン殿はあの町を知っているのか?』
「ああ、知っている」
頷く俺。城壁に囲まれた堅牢な町で、中央にシンボルとなる茜色の時計台が存在する。損傷して格好は変わっているが、知識の底に眠っていた憶えのある町。
俺は頭の中を整理し……まず――
「ガルク、確認だが」
『うむ』
「俺達は転移した……のはわかるけど、例えば時間移動を行い過去とか未来に来たという可能性はあると思うか?」
『それはない。時空干渉系の魔法は術式が特殊だからな。魔法が発動した瞬間わかる』
「……そういう魔法を使ったことがあるのか?」
『精霊の中にも魔法を研究する変わり者がいて、その者と少々交流があるだけの話だ』
「そうか。ならガルク、本体と連絡はできるか?」
『いや、無理だな』
「とすると、現在は本体と繋がっていないのか?」
『うむ。とはいえ分身である以上は本体に接近すれば記憶等は共有できるぞ』
「そっか」
『何がわかったのだ?』
その問い掛けと同時、ソフィアやリチャルが視線を送っていることに気付く。
「……えっと、どこから説明するべきか」
「あの町も、物語の枠の中にあったのですか?」
ソフィアの質問。俺はしばし沈黙し……頭をかきつつ、
「まあ、そうだな」
「なんだか煮え切らない返事ですが……しかし、以前聞いた話では魔王との戦いはシェルジア大陸内における出来事ですよね?」
「ああ……それを説明する場合、まず物語の根幹設定を語らないといけない」
俺は町を眺め――ソフィアが質問。
「根幹、ですか?」
「俺が語ったのは『エルダーズ・ソード』という名の物語なのは、ソフィアもリチャルも理解していると思う」
「副題は『スピリットワールド』ですね」
「ああ、それで――」
俺は一拍置いた後、二人へ述べる。
「この『エルダーズ・ソード』というのは、シリーズものなんだ」
沈黙が生じる。やがて応じたのはソフィア。
「シリーズ、というのは?」
「製作者の意図なのか知らないが、この『エルダーズ・ソード』は一つの世界を舞台にした話であり、大陸ごとにエピソードが存在する」
『――ああ、なるほど。そういうことか』
ガルクは理解したようで、声を上げる。
『ルオン殿、その辺りを説明しなかったのは――』
「もし俺達と関わりがあるとしたら、このナーザレイド大陸の件だとは思っていた。旅をしている間、その辺りは調べてはいたんだ……リチャルが言ったように鎖国しているような状況だったから苦労したけど……もし関わることになったら話をしようかと思っていた」
『なるほど……で、だ』
ガルクが問う。
『魔王と戦った『スピリットワールド』という物語は、『エルダーズ・ソード』の中で何作目に当たるのだ?』
「……五作目だ。そして、この大陸の話は四作目」
――ナンバリングがされていないのは、製作者もインタビューなどでぼかしていた。それについて意味があるのかないのかは、俺にもわからない。
また、二作目なんかは結構人気があったため本編以後の話が続編としてゲームになっている。それについては『2』と数字がつけられていた。もしかすると『スピリットワールド』の続編ができた場合、『スピリットワールド2』という形になっていたかもしれない。
俺は一度間を置いた後、さらに説明を行う。
「時系列で言うと、二作目は今から二十年ほど前の話なので既に本編は終了している。三作目は孤島が舞台でやや番外編という形だったから、この大陸とは関係ないな……で、四作目と五作目が同時進行。もっと言うと、俺が前世で死ぬ前に発表されていたシリーズ新作……これが四、五と関連があって、三部作の最終章という位置づけだった」
「理解できました。それでルオン様、あの町が襲われているという事実に、何か問題が?」
「あの町は、本編で襲われることはなかったんだ。時間移動していたのなら話は別だったけど、それはガルクが否定した」
俺の言葉に、ソフィアやリチャルも状況が理解できたらしい。
「つまり、予定外の出来事が起こっている?」
「みたいだな。四作目の主人公は一人だけ。その人物が動いていないか、何かあったか……」
四作目は戦闘システムなどは似通っていたが、ストーリー自体はマルチエンディング方式を採用していた。主人公はこの大陸の皇帝となる資格を持つ三人の誰かと共に戦うことで、到達するエンディングが変わったのだが……目の前の状況は、そのどれとも一致していない。
『シナリオが上手く進んでいないと?』
ガルクの問いに、俺は肩をすくめる。
「内乱は起こっていたけど、それが次第に収束していたという情報は手に入っていた。しかもそれは主人公側にとって優勢というものだったんだが……」
「実際は、違うというわけですか?」
「その情報は正しくて、物語とは違う方向に解決しているという可能性もあるよ……けど、嫌な予感がするな」
天使の遺跡のことを含め、謎もある。果たしてこの状況は――
「ならば、どうしますか?」
ソフィアが問う――瞳には懸念が。
「というより、ルオン様。事態が悪化しており、それを放置した場合、シェルジア大陸にも何らかの余波が出るのでは?」
「……否定できないな。竜人達は好戦的で、物語のバッドエンディングの中には『他の大陸も蹂躙した』なんて話もあった。支配が完了すれば、魔の手が伸びる可能性は十分ある……とはいえ、まずはどういう状況なのかを調べないと。その上で判断するか」
「わかりました」
頷くソフィア。リチャルやガルクも同様の反応を示し――
『ルオン殿、もう一つ質問だ。四作目にも副題はあるのか?』
「ん、ああ、あるよ……名は――『エデン・オブ・ドラゴンズ』だ」
『楽園とは、皮肉のようにも聞こえるな』
俺はその言葉に苦笑する。
「そうだな……さて、まずは町へ入るとしようか」
俺の言葉を受け、全員が歩み始めた。




