遭遇戦
作業自体はひたすら岩を消すだけだったのでそんなに時間は掛からなかった。ただ結構な距離塞がっており、ガルクが一つ推測をした。
『故意にこの遺跡を塞いだという可能性もあるな』
「……何が目的で?」
『ここに遺跡があることを悟られないように……もしくは、ここで何かをやったことを隠そうとする意図があるか』
どっちにせよ、ロクな理由じゃないだろう……そう確信しつつ、俺はソフィア達と共に外に出た。
そこは――予想した通り、見覚えのない景色。
周囲を眺める。入った時と同じく山中で、無骨な岩肌と、見下ろす形で平原が広がっている。
背後を見れば山の頂上。といっても標高はそれほど高くない。なおかつ街道が存在するということで、人が暮らすような地域であるのは間違いない。
「うーん、さすがに地形だけを見てどこだとは言えないな」
リチャルが語る。うん、俺もまったくわからない。
見えるのは平原と、整備された街道だけ。そして、道の先に町が一つ見える。
「とりあえず、ここから見える最寄りの町へ行くとしよう」
俺の言葉にソフィアとリチャルは頷き移動を開始しようとした――だが、
「……気配?」
俺が声を発した――直後、周囲の物陰から人影が。
「……遺跡から現れるとは、貴様達何者だ?」
視線を巡らす。そして見えた相手に――絶句した。
全部で四人。その全てが統一された装備を身にまとい、騎士か兵士のような存在であるとわかる。
「何だ、お前ら?」
リチャルが聞き返す。そう言うのも無理はない。
全身鎧姿の、騎士のようではあったのだが――顔を兜と鉄仮面で覆っている。なおかつ着ている鎧が不気味だった。
色は青。ただし、その鎧には紋章のような物が赤く刻まれており、まるで呪詛のように見える。
「貴様らは何者だ? それと、後方にいる天使は何だ? 使い魔か?」
相手――騎士の一人が問う。こちらの質問は受け付けないらしい。まあ当然か。
俺の方も硬直が解け、口を開く。
「……遺跡の探索者だよ」
さすがに転移装置が起動したなんて言えないのでそう返答してみたが、効果はなかった。
「ふざけるなよ、お前達。我らが塞いだ時点で遺跡には誰もいなかった。いや、隠れていたのか?」
「……どうします?」
ソフィアが俺の隣に来て小声で問う。俺の方もどう答えていいかわからない。ただ――
「遺跡内の魔力が消え失せていたのは、お前達が何かやったのか?」
――質問した途端、騎士達の動きが止まった。こっちから視線は見えないのだが、たぶん凝視しているだろう。
「……生かす必要はなさそうだな」
いきなりかよ。まあなんとなく察しはついていたけど。
ただ、色々と情報は読み取れた。どうやらこいつらは眠っていた天使の遺跡の中で色々とやっていたということ。なおかつ、知られるとまずい。
「一応確認だが、このまま双方何もせず、というのは無理か?」
俺が尋ねてみる。結果は――
「無理だな」
端的な返事。それと共に四人全員が剣を抜く。
「人が来ると面倒だ。一気に終わらせるぞ」
騎士の中で一番奥にいる存在……よくよく見ると鎧の所々に銀色の装飾が。こいつがリーダーと考えてよさそうだ。
「……どうします?」
新たにソフィアが尋ねる。さっきの質問は「対処をどうするか」についてで、今回のはたぶん「生かすか殺すか」といったところだろうか。
「とりあえず……寝かせておくか」
言葉の直後、リーダーを除く騎士三人が襲い掛かってくる。それぞれまったく隙のない動き。人数は四人と少ないが、きちんと隊を成し統率がとれているのだとわかる。
「速いな」
リチャルが感想を述べる。俺も内心同意なのだが……はっきり言って、彼らは相手が悪すぎる。
俺がまず前に出た。すると先陣を切る騎士の一人が突撃してくる。
中々の速度で、俺をひき殺そうかという勢いなのだが……見切ってかわした。
次いで、すれ違いざまに剣を薙ぐ。とりあえず刃の威力を鈍らせる。しかし、そうであっても剣は刃に平然と潜り込み軋んだ音を立てた。
「がっ!?」
途端、騎士が呻く。勢いよく振り抜くと、突撃した騎士は時間が巻き戻ったかのように後方にすっ飛んでいく。
間合いを詰める他の騎士二人がどう思ったのかはわからないが……構わず突き進んでくるところを見ると、戦意は喪失していないらしい。
「――雷光よ」
そこへ、ソフィアの『ライトニング』が放たれる。雷撃は残る二人の片方に直撃。破裂音が周囲を包み――騎士は倒れ伏した。
こうなると残る一人も立ち止まるしかない。俺が吹っ飛ばした奴も倒れているし、状況的に相手は不利。
「――貴様らは」
リーダー格の騎士が声を発した直後、俺は突撃した三人目の騎士を蹴り飛ばす。相手は避けられず、顔面に直撃。まあ兜を被っているので本来ならダメージはないのだが……魔力による衝撃波を付加しているので、それが頭部に注がれる形となる。
「ぐ……」
倒れる騎士。兜は多少なりとも魔力を防ぐ構造にはなっていると思うけど、さすがに耐え切れなかったらしい。
で、残ったリーダー格の人物。剣を握り締め絶句する姿は、どことなく哀れに見えた。
「……一つ問いたい」
この様子だと答えてくれるかな、などと思いつつ俺は口を開く。
「あの遺跡で、何をしていたんだ?」
質問に対し、騎士は背を向けることで応じた。部下を見捨てて逃げるらしい。
そこへ、ソフィアが『ライトニング』を決め……リーダー格も倒れ伏した。
「弱いな……というか、ルオンさん達が強すぎるのか」
リチャルが声を上げつつ頭をかく。
「しかし、問答無用で襲い掛かって来るなんて物騒だな。そもそも、こいつらの装備は何なんだ?」
「……心当たりがある」
俺はそう答えると、手近に倒れている騎士へ近寄る。そして、仮面部分をはいだ。
「――これは」
ソフィアが驚く。無理もない。
頭部の顔立ちは、人間のそれとは違う。この騎士の場合、赤い皮膚と鱗を持つ……竜だ。
「人間の体を持つ……竜ですか?」
「竜人というやつだな」
リチャルが興味深そうに呟く。
「人と便宜上は呼んでいるけど、実際は竜が人間のように変化した姿だ」
「竜が……人に?」
「竜といっても、魔王との戦いで共に戦った竜とは異なる、そう力の大きい種族じゃないんだ……だからこうして武装している。見た目が人間に近くなるほど、その力も大きくなるって話だ」
ここで、リチャルは俺へ視線を送る。
「もっとも、基礎的な身体能力は人間と比べ高いから、直接やり合ったら人間が負けるケースも多いけど……ま、ルオンさん達ならそんな不安を抱く必要もないか」
と、彼は肩をすくめた。
「で、だ。この竜人が存在しているということは――」
その時、鳥の鳴き声が周囲に響いた。空を見上げると、俺達のいる場所から山の反対側へ向かっていく鳥の姿。
なんとなくそれを目で追っているうちに……ふと、反対側がどうなっているのか気に掛かり、歩き出そうとした。しかし、
「……騎士達を拘束しておくか。魔法を使うか?」
「ここは俺に。彼らの動きを封じるくらいはできる」
リチャルが申し出て、彼らを魔法の縄で拘束。とりあえず使い魔を生み出して監視し、状況を確認したらどうするか改めて相談することにして……俺達は山頂へ。
そして見えた反対側……そこに、大きな町が存在していた。だが、まるで戦争に巻き込まれたかのように、山から見てもわかるほど町の中が損傷していた。




