共に歩む者達
城は魔王が語った通り崩壊することなどなく……俺達は、魔物が消えた城内を歩き、外に出た。
直後、騎士達の歓声が上がる――魔物が消えたことにより、魔王を討ち滅ぼしたのだと認識したようだ。
フィリ達が騎士達に囲まれ会話をする中で、俺は後方で一人、魔王が発した呟きを頭の中で反芻し続ける。
――お前ならば、全てを救えるかもしれん。
「ルオン様」
ふいにソフィアが声を発する。
「魔王は……何を思って、あのような発言を?」
彼女もまた聞こえたようだ。
「それが目的に関することなんだろうけど……ああやって語ったということは、魔王は知っていたということなんだろうな」
「知っていた? 何をですか?」
「……あの不可思議な魔力について」
ソフィアは眉をひそめる。俺が詳細を話していないので、その反応は当然だ。
「魔王がどういう意図をもってこの大陸に侵攻していたかは、いずれ調べないといけないかもしれないな」
「調査、できるんですか?」
「あてが全くないというわけじゃないから。とはいえ、まずはこの大陸に存在する魔力から調べようかな」
その言葉と共に、ソフィアは何か言いたそうに視線を向ける。けど、
「さて、凱旋ですね」
話を変えた。俺は小さく頷き――歓声が鳴りやまない騎士達の輪の中へ身を投じた。
――魔王を打倒したという話は、すぐさま大陸を駆け巡った。人々は長い戦いを終え安堵し、また歓喜に沸いた。
カナンが配慮したかどうかわからないのだが、大陸を解放したということで宴が行われることとなった。場所はアラスティン王国の王城。そこではバルザードを始めとした騎士達を始め、戦線に参加し続けた冒険者達も参加した。
……その主役は当然ソフィアと俺。ただし、俺についてはカナンが話をしたかったらしく、宴が始まって少しして部屋に呼ばれた。
「すまないな、わざわざ来てもらって」
「いえ、大丈夫です」
夜、王の私室……城の一階にある大きな広間から宴を行う人々の声がここにも聞こえる。
「ルオン殿のことだ。宴が終わり次第、旅立つだろうと思ったからな」
……俺の心情は察しているらしい。
「この調子だと宴は数日は続くかもしれない。だがルオン殿は、明日には発つのだろう?」
「はい」
即答した俺に、カナンは「わかった」と応じる。
「では質問だが……訊きたいことはいくつかあるのだが、まず最初に確認したいのは、ソフィア様に関することだ」
「どうするかは、事前に話し合っています。とはいえ、きっとカナン王が望むような形ではない気がします」
「……その辺りについては、とある人物の話を聞く必要がある」
それは――聞き返そうとした時、ノックの音が。
「丁度よかったな」
王が扉へ向かう。開けた先にいたのは、ソフィアの父親であるバールクス国王、クローディウスだった。
「ルオン殿、時間をとってもらいすまないな」
「……お二方が俺と話を?」
「そういうことだ」
王二人が俺と対峙する。こういう展開は予想していなかったため、少しばかり緊張する。
「魔王を倒して以後のことは、多少なりとも聞いている」
話し出したのはクローディウス。
「色々と旅をして回ることに加え、ソフィアと約束をしたらしいな」
「……それは」
「この件については、宴が終わった後にでもソフィアと話すことになる」
語った王の表情に、笑みが。
「ルオン殿としては、戦いが終わった以上危険な目に遭わせるべきではないと考えているのかもしれない。とはいえ、これについては話をして、明日その回答を示そう」
「回答、ですか。しかし――」
「ルオン殿がどのような形で城を出るかはわかっている。それに合わせるようにするさ」
クローディウスの言葉に、俺は頷く他なかった。
続いてカナンが声を発する。
「ルオン殿、これからも旅を続けるそうだが、いずれ魔王のような脅威が出現するのか?」
「それはわかりません……が、魔王の言葉がヒントになっているかもしれませんね」
『お前ならば、全てを救えるかもしれん、か』
ガルクが右肩に出現し、声を上げた。
『お二方、ルオン殿は我に任せておけ』
「神霊の助力があれば、問題はなさそうだな」
カナンが言う。というか結局、ガルクはついてくるのか。
『ルオン殿、これからも頼むぞ』
「わかったよ……それはそうとガルク。フェウスやアズアは?」
『我の本体を含め、色々と動いている。この大陸の混乱を少しでも早く収めるために』
「そっか。俺はそっちまでさすがに手が回らないだろうから、頼むよ」
『うむ……そういえば、レーフィンから言伝を預かっていた。もし何かあれば協力すると』
――ソフィアと契約していた精霊達は、魔王の魔法によって裏切った精霊達のこともあり、戻っている。契約が解除されなければそのままソフィアと共にいた感じではあったけど。
『魔王が施した魔法は、戦いの後も尾を引いている。人間の中には精霊に敵対感情を抱く者までいるらしい』
「それを是正するために……ガルク達は動くのか?」
『ここからは、精霊と人間がどう歩み寄るかだな』
「こちらも善処するが、時間が掛かるのは間違いないだろう」
カナンが俺へ言う。
「少なくとも、人間と精霊達とが戦うような事態にはならない……と言いたいところだが」
「もし何かあれば協力しますよ」
「すまないな、ルオン殿」
カナンの言葉に俺は頷く……クローディウスもまた「頼む」と言い、宴の合間に行われた話し合いは、終了した。
――翌日。
城は前日の騒ぎによる反動か、誰もが眠りこけひどく静か。その中で準備を済ませ、城の正門から出ようと歩き出す。
その途中、俺の背後から足音が。
「ルオンさん」
リチャルだった。彼にだけは事前に俺が朝出ることは伝えていた。
「他の人達に挨拶はしないのか?」
「そんなことしたら、引き留められて城から出られなくなるって」
「それもそうか」
「……確認だが、本当にいいのか?」
魔王との決戦前、俺は彼に魔力の解析について依頼した。よって、彼は同行することになったわけだが――
「大陸を救った英雄に協力してほしいと言われたんだ。同行しない理由がないな」
彼の言葉に俺は笑う。
「そうか……なら、頼むよ」
「で、今からどこに向かうんだ?」
「神霊達から天使の遺跡に関する情報を貰っている。地底とか、山の中とか色々あるらしいけど……それらを逐一当たっていこう」
「俺が生み出した竜を使えばそう時間は掛からないと思う」
「ああ、頼む」
会話をしながら城を出る。そこには――
「ルオン様」
当たり前のようにソフィアが立っていた。
共に旅をしていた時と同じ装備。ただ剣だけは精霊コロナに預けたので、以前南部の町で作ってもらった物に変わっている。
「……説得、できたのか?」
「お父様は即座に頷いてくれましたよ」
何やってんだあの人……と思ったのだが、
「それに、お父様もルオン様が何を成すのか……それについてはいたく気にしていました」
「だからといって、ソフィアを同行させるとは――」
「魔王を討ったその力が必要だと考えたのでしょう」
ソフィアの言葉に、俺は思わず苦笑した。詳細は話していないけど、事の重大さについては深く認識している、といった感じだろうか。
「……大変だぞ」
「わかっています」
まあ、止めても無駄だろうな。
「いいだろう。それじゃあ行こうか」
『よろしく頼むぞ、ルオン殿』
「ルオンさんと王女……お二人にどこまでついていけるかわからないけど、頑張るさ」
「よろしくお願いします、ルオン様」
会話を重ね、俺達は歩き出す……新たな目的を携えて。
次回から新たなエピソードということになりますので、よろしくお願いします。




