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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王との決戦

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魔王の言葉

 魔王の策の果てに辿り着いたのは、単純な力と力の勝負――魔王にとって非常にやりやすい状況かもしれない。実際、魔王の魔力は人間を遥かに超える。こんな形の勝負では負けないと確信しているだろう。


 しかし――俺が全力で注いだ魔力は、魔王を力で押し返す。


『何……?』


 最終決戦が始まり、初めて魔王は驚愕の声を漏らした。


 ガルクが操作するレスベイルにより、俺にもどのような魔力の流れなのか理解できてくる……魔王がソフィアの力を奪い取ろうと見えない腕で彼女の力を引っ張り上げようとするような構図。そこへ俺が介入し、魔王の腕を抑えた。


 そこからは力の勝負。結果、俺の力が魔王を押し返そうとした。


『このまま一気に引き離す!』


 ガルクが言う。いくら俺であっても長期戦は不利だと思ったのだろう。よってレスベイルが力を発揮し、魔王の見えない腕を突き飛ばそうとする。


 しかし、


『なるほど……だが、これで終わりと思うな!』


 魔王は吠え、魔力を噴出した。周囲に存在する渦が呼応し、旋風さえ生まれる。俺達は竜巻の中心にいるような状況で、漆黒の力が壁となり仲間の存在すらまったく確認できなくなる。


 次いで感じたのは、魔王がさらに腕を伸ばしてきたこと。数を増やしただけではない。それは紛れもなく、賢者の力。


『同じ力同士は引き寄せられる。私の魔力を利用し、一気に奪わせてもらおう!』


 言葉と共に、強引にソフィアの力を引っ張り上げようとする。俺はすかさず抵抗したが、まだ魔王の方が強い。

 どう、する……頭の中で必死に考えるが、策は思い浮かばない。


 だから、俺ができる唯一のことを実行した。


「――おああああっ!」


 咆哮。次いであらん限りの力を込め、抵抗を行う。


 ――俺と魔王の攻防は、時間にすればほんの数秒に違いなかった。その一瞬の間に俺は魔王を見据える。表情など見ることのできない無機質な、仮面のような顔立ち。


「ルオン様……!」


 ソフィアが驚き思わず声を上げる。そしてそれは相手も同じだったらしい。


『何……!?』


 魔王もまた、同じように驚いた声。全くの予想外――人間がこれほどの力を生み出せるのかという、紛れもない驚愕。


『これならば……!』


 ガルクが吠えた。その直後、レスベイルを通し俺にも理解できる。ソフィアの力の流れが反転し、一気に戻っていく。


 加え、それだけではない――


『ぐっ……!?』


 魔王が呻き、魔力の渦が一気に消失する。次いで剣を引き一気に後退。オルディア達が追撃を掛けようか迷った様子だったが……攻撃しなかった。


「これは……」


 その中で、ソフィアが声を発した。原因は俺にもわかっている。


「……これはさすがに、魔王も誤算だったようだな」


 俺は息をついた後、口を開いた。


「取り込もうとした賢者の力を取り戻しただけじゃなく、逆にお前が持っていた力をこっちに引き寄せるとは」


 ――賢者の力を利用し力を奪おうと画策した魔王だが、それは賢者の力を表に出すということ。つまり、やりようによっては俺達がその力を奪うことも可能だったということ。


 これは俺の無茶な力によって成功した。狙って行ったわけではないが、ガルクは奪えると判断し、すぐさまレスベイルに指示を送ったようだ。


『ルオン殿の力が決定打となったな』


 ガルクが話し出す。


『戦況を逆転させる最高の功績だったぞ』

「ありがとう、ガルク……ソフィア」

「はい」


 返事と共にソフィアは『スピリットワールド』を発動。精霊との契約が失われたことで威力は減じたが収束は早くなった。そして魔王から賢者の力を奪った……いや、この場合は取り返したとでも言うべきか。


『大勢は決した』


 ガルクが言う。一方の魔王は、沈黙。

 俺とソフィアは同時に走り出す。魔王が大剣を構え、迎え撃つ姿勢となる。


 オルディアやエイナも走る。それに対し魔王は、大剣に魔力を収束させた。

 おそらく『ダークノヴァ』であり――俺は、レスベイルへ指示を出す。


「いけ!」


 その言葉と同時、レスベイルが一気に魔王へ接近する。同時、漆黒の衝撃波が放たれ――それをほぼゼロ距離からレスベイルの大剣が受けた。

 当然、黒い衝撃波は周囲に拡散――本来ならばそういう形となるのだが、レスベイルが障壁を形成し完全に防いだ。


 そして魔王には隙が生じる――先に剣を放ったのはエイナ。縦に放たれた斬撃は、見事魔王の右肩口を捉える。続いてオルディアの番。放たれた剣戟は僅かに白い光が舞い、魔王の動きをさらに止める。


 そこへ、ソフィアが踏み込んだ。自身が持っていた力と、魔王から奪い返した力……それが合わさり、『スピリットワールド』は炸裂する!


 魔王も抵抗しようと動いたが、ソフィアの一撃の方が早かった。彼女は声を上げ放った必殺の一撃――魔王に直撃した瞬間、凄まじい衝撃波を生む。

 声には出さなかったが、明らかに先ほどと比べダメージを受けている。しかし、一撃ではない。


「もっと威力を……!」


 ソフィアは呟き第二撃を放つ準備をする。その間に俺がソフィアの真正面に立つ。そこで、俺は――魔王の呟きをしかと聞いた。


「……っ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は短く呻く……その時、ソフィアのさらなる剣が魔王へ迫った。

 今までと比べても遥かに強力な一撃。手に入れた賢者の力と、契約していた精霊達が残した魔力が合わさり、それこそ契約解除される前に収束させていた力にも引けを取らないほどへと技が高められていた。


「ソフィア様!」


 エイナが叫ぶ。興奮してのことだったのかもしれないが、当の彼女は何も声を発しないまま、魔王へ剣を振る。

 それを魔王は最後の抵抗とばかりに大剣で抑えようとしたが――俺がそれを渾身の力で弾き返した。


 隙が生まれる魔王。そこに、ソフィアの斬撃が炸裂した。


 魔力が渦を巻くように荒れ狂い始める。先ほどの漆黒とは異なり、発生したのは白い奔流。魔王はそれに飲み込まれ、吹き飛ぶ――どういう意味を持つのか、この場にいる誰もが理解できた。


 斬撃を決めたソフィアは、即座に後退を選択。俺もまた引き下がる。


 今のは彼女にとって最高の一撃だった。『スピリットワールド』を立て続け……しかも二撃目は凄まじいものであり、いくら魔王でも無事では済まないはず――

 白い奔流が消える。魔王はその場に超然としていたが、動かない。


 これは……警戒する間に、魔王が発言した。


『……これほど、とは』

『勝負あり、か?』


 ガルクが問う。すると魔王は大袈裟に肩をすくめた。人間が見せるような態度は、ひどく奇妙に映る。


『ああ、直に私は滅びる』


 はっきりと明言……それを裏付けるように、魔王の魔力が次第に途絶えていく。


『私が滅びた瞬間城が崩れるなどという結果にはならんから安心しろ』

『そうか……消える前に、一つだけ質問に答えてくれ』

『どうした?』

『ソフィア王女の技が入る寸前、お前は一つ呟いたな?』


 ――お前ならば、全てを救えるかもしれん。


 確かに魔王はそう言った。


『その言葉、我には理解できん。貴様はこの大陸に滅びをもたらしに来たはずだ』

『……どういう意味なのかは、自力で解明するのだな』


 魔王はそう語る……と、視線が俺に向いた気がした。


『その表情……お前は、気付いているのかもしれんな』


 俺は何も反応しなかった。そして、


『……お前がどのように歩むのか、奈落の底で見ているぞ』


 魔王が、消える――長きに渡った戦いが、終わった。


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