魔王を倒すために
その日は騎士団が整然とした動きで準備を済ませ、静かに終わった。
誰もが明日に備え静かに休み――翌日。リチャルの魔物達も既に動く準備を済ませ、さらに竜や魔狼も途中で合流する算段を整えた。
この戦いにおけるリーダーは誰なのか、というと一人しかおらず、その人物が出発の際、口を開いた。
「……大陸を脅かす魔王を、打ち倒す時がきました」
ソフィアの言葉……誰もが耳を傾ける。
「苦難に満ちた戦いであるのは間違いありません。しかし、我らなら必ずやり遂げられると確信しています――必ず、勝ちましょう」
騎士達が鬨の声を上げる。そうして、行軍が始まった。
騎士団を率いるのはバルザードであり、またナテリーア王国の魔法使いを始め、精鋭も存在している。リチャルの魔物は周囲を警戒するべく展開し、フィリを始めとした冒険者勢は後方に構えることになった。
「魔王に、俺達の動向は筒抜けのはずだ」
俺は騎乗し隣で馬を駆るソフィアに告げる。
「その中で、魔王はいたずらに戦力を減らしたくはないと考える……俺の事を知っている以上、生半可な戦力を投入すれば返り討ちにあうと確信しているはず。となれば、居城付近に戦力を集中させている……道中はそれほど脅威はないはず。警戒する必要はもちろんあるけど」
「作戦としては……魔王の軍と接触しても、私達は居城へ踏み込むべく前進する」
「そうだ。騎士団や竜に食い止めてもらっている間に、居城へ侵入したい。クウザ」
「ああ」
後ろにいる彼が応じる。アレーテは前線にいるのだが、クウザはシルヴィと同様ソフィアの傍にいる。
「ソフィアと共に踏み込むメンバーは、賢者の力を持つ面々が中心……この場にいる冒険者勢が中心となる。加え、その仲間達も援護を。ただ、魔王との戦いの際は攻撃が通用しない以上、完全に後方支援になってしまうけど」
色々と考慮した結果、最終的にこうなった。南部侵攻でも冒険者勢は共に戦っていた。連携も十分なはず。
「俺を忘れてもらっては困る」
オルディアだった。こちらは当然とばかりに頷き、
「賢者の力を持つ面々と、その仲間……これが魔王の城に踏み込む面々となるだろう。ただし魔物の質は当然ながら高い。孤立しないようにする必要はある」
南部侵攻が終了して以後、ソフィアを含め仲間達はさらに訓練を重ねていた。ソフィアも剣の制御もしっかりと行うことができるようになった。
とはいえ、五大魔族を同時撃破した余波で、レベル的には多少低め……ただ、ここに秘策がある。
「で、全員俺の資料は読んだのか?」
問い掛けに、ソフィア達は頷いた。
事前に、出現する魔物の能力などについては俺が資料を作成し目を通させた。数値化された部分については概算でしか語ることはできないが、弱点や注意すべき特性などについてはしっかりと資料を通し伝えた。
もっとも、俺の資料はあくまで「ゲーム上で出現した魔物」であるため、それ以外の敵が出る可能性はある。見たことのない魔物が出現する可能性もゼロではないため、警戒する必要は十分あるわけだが……魔王は俺が全ての魔物を把握しているといった予想まではしていないだろう。となれば、知識内の魔物がいる可能性は高いはずで……戦いは、かなり楽になるはずだ。
「俺が知る物語の中と比べ、この場にいる面々の能力は低くなっている。これは五大魔族同時撃破の余波だから仕方がないが、それを知識で補うわけだ。もし疑問があったら質問してくれ」
そんなやり取りをこなしつつ――行軍は順調に進んだ。多少なりとも魔物の襲撃があるのではと思っていたのだが、まったくない。これは魔王側も意図的にやっているのだろう。
少しでも戦力集中をさせようとしているためか……などと考えながら、とうとう俺達は北部へと足を踏み入れた。
その直後に、竜と魔狼達と合流。魔狼については俺も顔を合わせているので問題はなかったが、竜の方は――
『――貴殿がルオン=マディンか』
エルダードラゴン――俺にとってちょっとばかり苦手意識のある竜が、先んじて声を掛けた。
体表を銀の鱗で覆う竜であり、その雰囲気は他の竜をも圧倒する。彼らが戦いに加わってくれるだけで、相当な戦力強化となる。
『我らや魔狼も協力して戦うことになる。覚悟はいいか?』
「ああ、もちろん」
頷いた俺にエルダードラゴンは納得の表情を見せ――俺達はさらに歩を進める。
やがて――ガルクからの報告があった。城外に魔物が出始めたとのこと。それは紛れもなく俺達の動きに呼応したものに違いなかった。
俺達は魔王の城が見える近くまで何事も無く到着。高台と言える丘の上に拠点を構え、戦闘準備を始めた。
「魔物がうようよしているみたいだな」
城を観察する俺の横にアルトが現れる。
「魔王の城までは道が存在しているが……正面突破でいくつもりか?」
「リチャルの魔物を利用し空から接近というのも手ではあるけど、さすがに危険だという判断だ。俺は平気だけど、他の面々がどうなるかわからないからな」
「それもそうだな」
「――ルオン様」
ソフィアの呼び掛け。振り向くと、硬質な顔をした彼女が。
「再度、魔王との戦いについて整理を。私は基本『スピリットワールド』を使用するつもりなのですが……」
「ああ、それで構わない。発動までの時間はどのくらいだ?」
「わかりませんが……すぐに発動というのは厳しいですね」
ここまで訓練を重ねてきたが、やはり時間をゼロにすることは無理だった。しかし、俺がカバーできる時間であるのは間違いない。
「俺なら猛攻をしのぐことができる……ソフィアは技を発動させることだけに集中してくれ」
「はい」
「ルオン殿」
そこへ今度はバルザードの声。
「ひとまず準備は整った。また陛下から連絡も来た」
「カナン王が?」
「後続に、さらなる援軍を配置したそうだ。最後の戦いということで、各国も協力態勢に入った様子」
「それはよかった」
「ルオン殿が使い魔を展開し、さらにリチャル殿の魔物の目……この二つにより挟撃の可能性は低いが……囲まれる心配もこれでなさそうだ」
「やれることはやったという感じだな……騎士バルザード、よろしくお願いします」
「うむ」
報告が終わり彼が去る――と、今度は入れ違いにリチャルがやって来た。
「ずいぶんと忙しいな」
アルトは一声発した後、この場を去る。ソフィアが隣へやって来て、そこでリチャルが口を開いた。
「周囲を確認したところ、神霊達の障壁の外側にいる魔物は、俺達から距離を開けてこちらの動向を窺っている様子だ。数は、南部侵攻の時よりもずっと少ない」
「わかった。ただ居城にいる魔物の質は南部の戦いより上だ。気を付けないと」
そこで、俺は改めて宣言する。
「明日、全てを終わらせる」
俺の言葉を受け、ソフィアとリチャルは頷く。すぐさまそれについて連絡し、騎士達が粛々と動き始める。
決戦……俺は居城をどこまでも眺める。あの場所が最終目的地であることは間違いなく、いよいよという気持ちが芽生えながら、気合を入れ直す。
「……行くか」
そうした呟きの後、俺は居城に背を向け休むべく歩き出した。
――翌日、全員の表情が精悍なものとなり、ソフィアが号令をとる。
「最後の戦い――この戦いをもって、終止符を打ちましょう!」
声に応じる騎士。さらに竜や増援に駆け付けた魔狼も呼応し、一体となる。
感慨深いものがありながら、俺は内に秘める興奮を抑えつけた。ゲームで言うならばラストダンジョン。いよいよだという感覚がありながら、ふんどしを締め直すが如くそれを抑えつける。
浮ついた感情は危険だ……そういう考えの後、行軍を開始。
大陸を蹂躙した魔王……奴との最後の戦いが、幕を開けた。




