新たな協力者
――俺とフィリは、一度海岸に戻る。ソフィアはコロナの所に留まり、素材の作成を始めた。理由としては、他者が近くにいない方がいいとのことだ。
森の外に出ると、リチャルとエイナが待っていた。二人に状況を説明すると、エイナが言葉を口にした。
「わかりました。私もまた王女の盾に」
「ああ。ソフィアにもしものことなんて絶対ないようにしないといけない。魔王との戦いでは、俺達が守らないと」
「はい」
フィリもまた頷く――おそらく『スピリットワールド』が戦いの切り札となるだろう。となれば最後はこの技を当てるために俺を含めた仲間達が魔王の攻撃を食い止める……といった感じになるだろうか。
「……魔王の居城における戦いだけど、賢者の力を持っている面々がソフィアと共に行動することになるかな。奴の持っている賢者の力自体はまだ残っているから、資格を有している人間でなければ攻撃が通用しない。普通の人は傷一つつけられない以上、動きを食い止めるのも難しいだろうし」
「ルオンさんは?」
フィリの質問。ここで俺は肩をすくめる。
「俺の場合は上級、最上級魔法を駆使して力押しすることができるから、どうにか立ち回ることができると思う。もっとも、ダメージはまったく与えられないけど」
「ルオンさんだけでもよさそうな気がしますけど」
「魔王がどんな手で打ってくるかわからないからな。ソフィアを守るためには万全を期するべきだと思う」
こちらの言葉にエイナは同意するように頷いた。
「さて……ガルク、魔王の様子はどうだ?」
『居城から出てはいない。地底の魔力を観測しても、目立った動きはなしだ』
「とすると、何もしていない?」
『我らが居城を隔離して以後は』
ふむ……結局魔王の動向については不明のまま戦うことになるか。ま、こればかりは仕方がない。奴の策を上回る力を用意する。これしかないな。
「……まずは、剣を生み出してからですね」
エイナが述べる。俺は頷き、
「そこから、剣を扱う訓練が必要だろうな……魔王との決戦まではまだ多少時間があるか」
「その間に、私達もひたすら鍛錬ですか」
「ああ。ソフィアを護るため……あるいは、彼女が戦えなくなってしまった時のことを考えて、かな」
こういうネガティブな考えはよくないと思うし、俺が全力で対応するつもりではいるが……しかし、魔王がどんな策を用いてくるかわからないため、どこまでも不安がつきまとう。
神霊達の妨害を受けている以上、策といっても多量の魔力を用いてというのは難しいと思うのだが……今まで予定外のことがあったとはいえ、大筋シナリオ通りになってきた。ここにきて最後の敵である魔王については不明なことも多い……不気味ではある。
『そう悲観的になる必要はあるまい』
ガルクが語る――と、フィリやエイナが賛同するように頷いた。
『ルオン殿の力ならば、おおよその戦局をひっくり返すことができるだろう? 無論、他の面々はそれに頼るつもりなどないとは思うが』
「そうですね」
フィリが賛同するように声を上げる。
「決して、ルオンさんに頼りきるつもりはありませんよ」
「……そう言ってもらえると助かるけど、俺は俺でソフィアを守るべく全力で動くからな。よろしく頼むよ」
そう述べた後、俺はエイナに視線を移す。
「……その、色々と懸念を抱くのは理解できるんだが――」
「私としても、ルオン殿がしてきたことを否定するつもりはありませんよ」
苦笑しながらエイナは語り出す。
「ルオン殿が王女を護りながら戦ってきたことはしかとわかっています。ただ、そうだとしても王女と近しい存在となっている以上――」
「そこは、信用してもらうしかないな」
肩をすくめる。この調子だとソフィアが従者を続けるということを宣言したことは、言わない方がいいかもしれない。それを話題に出したら「自分もついていく」などと言い出しかねない。
話はここで打ち切り、しばし沈黙――やがて、森から魔力を感じ取ることができた。大気を震わせるような圧倒的なものとは異なり、地面から少しずつ湧き上がってくるような感覚。
「始まったか」
俺は呟き森を見据える。剣の作成についてはどうなるか……俺は森を見上げながら、ソフィアが帰ってくるのを待ち続けた。
最初に魔力を感じ取ってからおよそ一時間後、ソフィアがコロナと共に森の奥から出てきた。
「終わったみたいだな」
「はい」
その言葉と共に、俺は彼女が抱える素材を見据える。長剣一本を丁度作れるくらいの大きさで、鉄のように光沢のある物。色は白銀だが、どこか青みがかってもいる。
「それが、素材?」
「はい。見た目はごくごく普通の金属ですが……」
「ま、色々と調整はしたわ」
と、コロナは胸を張る。
「ただ、剣を作成する時も色々と私が確認しないといけない部分があるから、これから付き合うことにするわ」
一緒に来てくれるのか。ここでなんとなく視線を投げていると、コロナは笑みを浮かべた。
「魔王との戦いも協力してくれって言いたいのかしら?」
「……この場にいる面々は、口に出さないけどそういう気持ちだと思うぞ」
「そうね。けれど私に神霊のような攻撃能力はないからね。ガルクのように戦えればよかったのだけれど」
『得手不得手というものがある。あまり気にするな』
と、ガルクが肩に出現して述べる。
『コロナの協力を得られるというのなら、それだけでありがたい。だが、聖樹はいいのか?』
「森の中にいる他の精霊達にしばしの間任せるわ。それで支障はない。それに、魔王との戦いを優先すべきところでしょうし」
にこやかに語るコロナ。なら――
「それじゃあ剣の作成に入るとするか……と、その前に、コロナ」
「何?」
「この素材はどう加工するんだ? 精霊の力で生み出すということだったから、魔法を利用する準備をしているはずなんだが」
「ああ、それで問題ないわよ。というか、火を入れて打つというやり方なんて無理だし」
……剣の作成自体は、普通に鍛冶を行うパターンもあれば、魔法を利用する場合もある。ただ魔法を利用する場合は結構大がかりな設備が必要で、資金もいる。よって鍛冶によって剣を作成し、それに魔力を付与して剣を生み出すという方法が一般的。
ただし、火を入れても意味のない素材も存在するわけで、その場合は魔法を使うしかない。今回生み出した素材もそれだ。
「魔力を付与すれば、自ずと形を変えるわよ。剣のデザインについては、ソフィアさんが考える?」
「あ、えっと……考えておきます」
「そ、なら頼むわね。で、場所はどこなの?」
コロナの質問に、ソフィアが答える。
「バールクス国内に場所を用意しました。工房に必要な物資なども運ばれているはずです」
「よし、なら早速行きましょうか」
――ということで、俺達はリチャルの魔物によって移動を開始。その途上で、ガルクとコロナが話し合いを始めた。
『魔王との戦いには参戦するのか?』
「もしそうなるとしても、私は特性上裏方に回るわ」
『そうか……ならば、魔王の動きを封じる障壁の加勢をしてくれ』
「いいわよ。ちなみに城に踏み込むときはあなた達も参戦する?」
『それが望ましいとは思うが、魔王がそれを許すかどうか、だな』
……まあ神霊達が敵に回り、なおかつ俺という存在がいる時点で、その戦力を分散させる手を打ってくるのは自明の理。魔王はソフィアを始めとした賢者の血筋が突入してくるのがわかっているはずで……それと一緒に神霊達が城に入ると、さすがに魔王も対応に苦慮するだろう。となれば、何かしらの形で神霊や精霊の動きを縫い止めるよう作戦を立てるはず。
その辺り、こちらが対策できれば魔王撃破が大きく近づくわけだが……目的地へ向かう途中、俺はひたすら頭の中で思考し続けた。




