賢者と精霊の力
フィリはコロナの下で色々と教えを受けるためひとまず聖樹の近くに留まり、ソフィアについては俺やガルクが相談しつつ検証することにして、今後のことを相談。
引き下がったエイナはどうするのかと思ったのだが――
「連絡役、ですか」
「リチャルさんをそのまま残しておくこともできないから」
ソフィアが彼女へ述べる――状況を報告する役割が必要だということで、ソフィアがエイナに指示を出した。
エイナとしては、ソフィアとあまり離れたくはないと思うんだけど……というか、現在進行形で微妙な表情をしている。さらに、俺へと度々視線を向けている。
――言いたいことはわからなくもないんだけど、もう少し信用してくれないだろうか。
「エイナ、お願い」
ソフィアはさらに請うと、エイナもとうとう同意した。
「わかりました……ルオン殿、王女を頼みます」
「ああ」
複雑な心境を覗かせる視線を投げた後、彼女は去った。
ここで俺達は移動を開始。フィリ達の邪魔にならないよう移動し、ちょっと開けた場所を発見。そこで向かい合う。
「……さて、それじゃあ始めるか」
「はい」
頷くソフィア……なんだか嬉しそうな表情をしている。
「どうした?」
「ああ、いえ。その」
と、彼女は照れ笑いのようなものを浮かべ、
「ふと立ち返ってみれば、ルオン様がこうして私と共に訓練する機会はほとんどなかったと思いまして」
……言われてみれば確かに。基本ソフィアが強くなるためにどこかへ連れて行くという構図だったからな。俺が直接教えるって、あんまりないな。
「それと、エイナについては申し訳ありません」
「ん? 何でソフィアが謝るんだ?」
「ルオン様については色々と事情を説明しているのですが、なんだか完全に信用してもらえていないというか……」
……むしろ逆なのではないだろうか。ソフィアから色々と言われた結果、エイナとしては王女が俺の事を相当信頼していると理解しただろう。それが逆に不安にさせる――色々な意味で。
その意味を認識できない俺ではないけど、変に話し出すと逆にこじれる気がするし、何も語らないことにしよう。うん、それが一番に違いない……たぶん。
『我らは別所で待機していようか。邪魔にならないよう』
「何言い出すんだよガルク……」
俺は肩に乗るガルクに零した後、話を本題に戻す。
「で、早速訓練を始めるわけだけど……具体的にどうしようか」
「賢者の力を引き出す方法……想像がつきませんね」
ソフィアとしても困り顔。俺としても、賢者の力は所持していないので説明も難しい。とはいえ――
「ヒントとなるのは、物語の出来事かな」
「どのようなものですか?」
「五大魔族を一人が倒して、覚醒することになる場合……魔王と対峙し魔法が発動した段階で、主人公は対抗する術を生み出すわけだ」
「興味深いですが、それは賢者の力が集結していないと難しいのでは?」
「さすがにそこまでのことはできないと思うけど、ヒントにはなるんじゃないかな」
そう述べつつ俺は思考する。
賢者の力を上手く引き出す訓練……口で言うのは簡単だが、そもそもそれを利用した技や魔法なんてないからな。とっかかりもない。
ゲームでは紛れもなく魔王と戦うための切り札的な役割を担っていたが、戦闘などで活躍することはなかった。つまり賢者の力はイベント的なものであり、こうなってくると俺としても指導が難しい。
『まずは自発的に賢者の力を出せるかどうかだな』
ガルクが言う。うん、確かにそれができなければ話にならないな。といっても、すぐに結論が出るわけではないだろう。まずは――
「期間は三日。ガルクとレーフィンが協力して、その方法を探っていくしかないな」
『我とレーフィンが?』
「魔力を分析してどうすればいいのかは、俺よりもガルク達の方がいいだろうし……俺の方は物語の中であった賢者の力について色々と思い出してみるよ。けど、どこまで役立てるかどうかはわからない」
「お願いします」
ソフィアが言う。俺はそれに頷き承諾し――かくして、検証が始まった。
正直、一日目は魔力の流れを調べるだけで手一杯だった。フィリはコロナにつきっきりで面倒見てもらっているわけだが、やはり精霊の扱い方と賢者の力に対する扱いは違うようで、フィリの方が進展している。
一日目が終わった時点で、ソフィアの中に眠る賢者の力についてレーフィン達は認識した様子。けれどゲーム上に存在する魔法や技を使用しても、ほとんど出てこなかった。どうやって表に出すのか――つまり自発的に力を引き出せるのかまでは、解明できていない。
「フィリ、賢者の力を自由に出し入れできるわけではないだろ?」
夕食の時、俺はフィリと合流しシチューを食べながら問い掛ける。ちなみに俺達は海岸近くで野営を行い、食料なんかはリチャルに空輸してもらっている。
「はい。けど、コロナさんが言うには自然に使えていると」
「無意識の内に?」
「そのようです」
ふむ、フィリができてソフィアができないのは、魔力の扱い方が違うということだろうか。疑問が色々と湧き出る中、今度はソフィアが口を開いた。
「私自身、難しいのであればフィリさんにお願いするしかないですね」
「……精霊の力を扱う術は、精霊と契約していない俺からすればかなり大変ですよ。お互い一長一短ということではないでしょうか」
「今から契約を行わないのですか?」
「剣を極めることを優先しましたからね。ここで下手に精霊と契約する場合、逆に本来の技のキレが失われる可能性がありますから」
……序盤なら間に合うが、上級技などを使いこなすくらいのレベルに到達したフィリにとって、余計な力の介入は逆に障害となるというわけか。
「ともあれ、三日でどうにかなるか頑張ってみますよ」
「私も。しかし、こちらは厳しいですね」
ため息を吐くソフィア――魔王を自分自身の手で打倒することを望むとしたら、現状としては不利なわけだ。
「……明日、次第だな」
俺が言うと、ソフィアは同意するのか大きく頷いた。
その後、夕食を食べ終わり早い段階で休もうかと思ったのだが……ソフィアは海岸を歩き始めた。
「フィリ、ソフィアと少し話をしてくる」
「どうぞ」
一声かけた後に、俺はソフィアに近づく。
「ソフィア」
「……ルオン様」
「そんな意気消沈とするなよ。あと二日しかないけど、焦っても良い結果にはならないぞ」
「それはわかっています……」
けれど口から出るのはため息。よほど入れ込んでいるな。
「……直接、魔王を討ちたいと思っているのか?」
疑問を寄せると、ソフィアは俺を見返す。
「決して、固執しているわけではありませんが」
「俺からすれば、ずいぶんとこだわっているように見えるけど」
その言葉に、ソフィアは苦笑した。
「……見えますか?」
「ああ。フィリに負けないように、とか思っているように見える」
こちらの言葉にソフィアは笑みを収めた。
「……フィリさんが剣を手にするのであれば、それを援護するべく動くつもりではいますよ」
「わかっているよ。けど、今は負けたくないと」
「……はい」
とうとう同意するソフィア。ま、そういう負けん気があるのも彼女らしいか。
「こういう時は、そうだな……下手に思いつめるより、一度頭の中をリセットするのがいいかもしれないな」
助言した俺に対し、ソフィアは海岸に座り込んだ。その隣に俺も座る。
何を話すかな……頭の中で色々浮かべた時、ソフィアがふいに話し始めた。
「……ルオン様は」
「ん?」
「現在の魔王との戦い……戦況に満足していますか?」
どういう意図で尋ねたのか……ともあれ、俺は口を開いた。




