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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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シルフの住処

 山をひとしきり見回した後、俺は精霊の住処へ続く道がきちんと存在していることを確認し、ソフィアへと言う。


「さて、行くか」

「は、はい……あ、ルオン様」

「ん?」

「山に入るんですよね? その、装備は大丈夫でしょうか?」


 ……言われてみれば、と思ったが山に入るといっても何も山頂に向かわなければならないわけじゃない。


「どれだけ進むにしても山の中腹くらいだ。今の時間は朝方……日帰りできるくらいの距離だと思うぞ」

「そ、そうなんですか?」


 聞き返すソフィア。行ったことがなければ精霊がいる場所なんて相当奥深くだと思うのは当然なんだが……ゲーム上は街道を逸れ少し歩くと村があって、そこから少ししたら到着みたいな感じだった。


 ゲームなので行程が省略されているのは間違いないが、これまでのダンジョンを振り返ればそう極端に省略されているわけではなかった。よって、大丈夫だろう。もし遠いとわかったら、引き返せばいいし。


 というわけで俺達は二人して山道へ。そこから十五分程経過した後村に到着。話を聞くところによると、精霊の住処までここからおよそ一時間程度らしい。


「道中魔物も出るから注意しなよ」

「はい、ありがとうございます」


 礼を述べつつ俺はさらに進む。やがて道の左右に森が出現し、それを見ながら山へと進んでいく。

 その時、ソフィアからふいに声が。


「ルオン様」

「ん?」

「精霊との契約ですけど……風の精霊と契約した後は、別の精霊も習得するのですか?」


 ――この大陸にいる精霊は、四大元素に関わる地水火風の四種類が存在している。属性としては他に雷とか氷とも存在するのだが、それぞれ風と水の精霊と契約すれば使えるようにはなる。


 うーん、他の精霊との契約か……四精霊はそれぞれが互いに離れているので、もし契約するとしても時間は結構かかる。主人公の動向も確認しなければならないし……考え、俺はソフィアに返答した。


「とりあえず、精霊と契約した後に相談しよう」

「わかりました」


 ソフィアは承諾。以後、会話もそこそこに俺達はどんどんと突き進んでいくのだが……途中、二度ほど魔物に遭遇した。ここにいる敵は依頼を受けた森と比べて同じか多少強いくらいなのだが……単独で森を斬り抜けたソフィアにかかれば、上手く対応し問題なく撃破することができた。


 それからさらに歩き――やがてゲーム上で『風の故郷』と呼ばれていた、精霊シルフの住処が見えた。山を背にして存在する岩壁にはあちこち洞窟が存在し、迷路のようになっている。

 洞窟はシルフの住んでいる場所。ちなみに現実となった今では、精霊の山とかシルフの住処とか色んな呼ばれ方をしている。


 俺は目を凝らしてみる。シルフは小さいのだが……遠目から見ても精霊が飛びまわっている様子はわかった。


「よし、進もう」


 言葉と共に歩き出す。その後ろをソフィアは歩き、程なくしてシルフの住処へと踏み込む。直後、俺達の存在を見つけた茶髪のシルフが近寄り、声を掛けてきた。


「契約を、お望みの方々ですか?」


 口調は非常に丁寧……風という属性もあってか、シルフという精霊は他のゲームとかで自由奔放で勝手気ままな性格という感じにされている場合もあったりするわけだが、このゲームにおけるシルフは非常におとなしく、また口調が丁寧だったりする。


 それに、この世界のシルフはある能力を持っている。攻略本か何かの説明では、シルフは人の感情を察する能力を持っているという記述があった。人と接することで、その感情は風などを通してシルフに伝わる。相当な力を有している場合、嘘を見破ることだって可能らしい。この世界に転生して以後精霊に関する文献を読んだこともあるが、同じことが書いてあったので間違いないだろう。


 あと、腰の低そうな態度はきっと対外的なものだろうな。人間がちょくちょく来るような雰囲気だし、シルフ達もそういう対応をするよう通達されているのかもしれない。


「ああ。ただ俺は契約しなくていい。契約するのは彼女だけ」


 ソフィアを手で示すと、彼女は精霊に対し小さく頭を下げた。


 ちなみに俺の方は、そもそも精霊魔法が習得できない。理由は単純で、神聖魔法を習得しているからだ。この二つは体の内で競合するため、俺については基本、精霊との契約をあきらめるしかない。

 まあその必要性も感じられないし、別にいいんだけど……考えつつシルフに目を向けていると、彼女は俺達へ声を発した。


「わかりました……契約は基本、相性の問題があります。同胞と話をしてみて波長が合う者がいれば、願いに従い契約を行うことができますよ」


 説明はそれだけで、シルフは飛んでいってしまった。ゲーム上では確か特定のシルフに話し掛けることによって誰かが精霊と契約することができたはず。ただし制約があって、精霊と契約できるのはパーティ内で二人。それ以上は確か、精霊同士の力が衝突しあって精霊の力が思うように発揮できない……そんな感じだったはずだ。


 ちなみに今回風の精霊と契約しても他の属性との契約はできる……が、三体以上契約する場合は一定以上の能力が必要となるので、レベルを上げないといけなかったはずだ。


 取り残された俺達は、一度互いに目を合わせた後、歩き始めた。現実ではシルフと話して即契約、とはいかないらしい……結果、精霊探しを行うこととなった。ソフィアが契約する以上、当然ながら彼女と相性の良い精霊を探さなければいけないのだが――


「基準が何もないので、困りましたね」


 ちょっと歩いてソフィアは呟いた……こればかりは俺も加勢できない。なので、彼女が行動するままに任せるしかない。


「私との相性……シルフ側は、そういうのわかるものなのでしょうか?」

「人より魔力を知覚するのは上だろうし、歩いていたら近寄ってくるのだっているかもしれないな」

「なら、少し散策しましょうか」

「ああ、いいよ」


 俺達は特に目的を定めず歩き出す……時折近寄ってくる精霊もいたが、結局契約せずにそのまま去っていく。

 ゲーム上ではこの辺り簡略化されていたけど、実際はこんな風に歩き回っていたのだろうか……そんなことを考えつつ洞窟に入ってみたりする。そこにもシルフはいたが、やっぱり契約には至らず。


 結果、俺達はどんどん上に進んでいく。上の方だとシルフの数も少なくなっており、これは引き返すべきかと思った――その直後、


「契約を望む御方ですか?」


 とあるシルフが近寄ってくる――俺は精霊を見返し、少しばかり他とは違う気配を感じ取った。


 髪色は青。人間の女性が着るような白い貫頭衣姿なのだが……顔つきがどこか大人びており、気品がある。

 加え、先ほど発した声も他のシルフと比べずいぶんと清楚な感じ。ちょっと偉いシルフなのかと思っていると、彼女はソフィアに視線を移した。


「……ふむ、あなたは」

「はい?」


 聞き返すソフィア。その間もシルフは無言で小首を傾げている。


 もしかすると、目の前のシルフはソフィアを見て思う所があったのかもしれない。もし正体に気付いているならば王女であることを先に言及すると思うので、違うだろう。賢者の血筋であるため、なんだか普通の人と違うような気がする――そんなところだろうか。


「ようこそお越しになりました」


 シルフは言う。それと共に少しばかり悲しげな表情。


「おそらく、魔王の脅威から私達の協力を仰ぎにきたのでしょう……私達もまた魔族の脅威にさらされる存在。共に戦いましょう」

「はい」


 ソフィアが返事をした。とりあえず正体そのものはバレていない……そう思った時、


「……ん?」


 俺は視線を上に……山頂付近――そこに、一瞬だが魔物の姿を見て取った。


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