選択肢
夕刻が過ぎ、夜。魔物の掃討を完了したカナンに呼ばれ、本陣にある天幕に呼ばれた。
そこにいたのはカナンとボスロ。そしてソフィアとシルヴィとクウザの五人――つまり、以前から事情を知る面々。
「まずは、礼を言う」
カナンが口を開く。
「今回、戦いに協力してもらい感謝している……と、言葉では言い足りないほどの功績だな。あなたがこの大陸を救ったと言っても過言ではない。何か目に見える形で報酬を、と思っているのだが」
実際、俺が神霊と共に動かなければ大陸が崩壊していたはずで――そういう意味では事実なのだが、俺は苦笑した。
「……いえ、大丈夫です」
「報酬はいらないのか?」
「元より、金は腐る程あるので」
そんな言葉を述べるとシルヴィが吹き出した。
「なんというか、どこまでも無茶苦茶だな、ルオンは」
「言いたいことはわかるけど……それでカナン王、聞いていただけるのなら、一応要望はあるのですが」
「主張したいことはわかっている。政治に関わるつもりはない、ということだな?」
――何かを見透かすような目を伴いカナンは言う。俺はそうだとばかりに頷いた。
正直、俺は活躍しすぎたと言ってもいい。情報封鎖をしようにも連合軍の戦場で大暴れした事実は残る上、西部の軍を撃滅したなんて話もきっと広がってしまうだろう。
どう考えても、俺の存在を取り込もうとする勢力が出てくるはずだ。犠牲を少なくという考えから行動した故に仕方のないことなわけだが――
「魔王との決戦までは、特段問題はないだろう」
カナンが言う。それは――
「魔王が健在であることに加え、これからその準備に入るべく賢者の血筋が動く……と、説明を行った。私と友好関係を結ぶ国の王達が了承し、他の国々の重役に説明している。混乱が起きないようにはできるだろう」
「わかりました。となると、その後は――」
「それについて一つ訊きたかった。ルオン殿、戦いが終わった後どうする?」
問い掛けに、俺は一度黙する。正直、不安を煽るようなことはしたくないが――
「……やることがありますから」
「それは、この大陸を脅かすことか?」
「そうなる可能性はゼロではありません。しかし、一年や二年といった話ではないと思います」
「なんだか、曖昧な表現だな」
カナンはそう口にしたが、これ以上の言及はしないつもりの様子。
「わかった。理屈としては、魔王の影響が残っていないか様々な国を見回るということにしよう。加えあなたは神霊達とも繋がりがある……そう説明しておけば、少なくともルオン殿に手出しするような輩も出ることも少なくなるだろう」
「大丈夫でしょうか?」
「神霊達を従えているという事実は、この大陸のどんな国にとっても恐ろしい事実だよ」
――なんというか、イレギュラー過ぎて逆に関わらない方が身のため、という感じか。なんか複雑な気分だけど……ま、それが一番か。
「わかりました。ではそのような形に。何か問題が出たら都度相談させてもらってもいいですか?」
「無論だ。それで次の話だが、ルオン殿のことについては、仲間内に多少なりとも説明するんだな?」
「はい」
「どこまでの範囲に話す?」
「……正直な話、魔王に力を露見した時点で俺のことについてはオープンにしても支障はないと思います。変に噂を立てられると困りますけど」
「信頼における人物ならいいということか」
「はい……賢者の血筋の面々については説明してもいいかと思います」
「そうなると、彼らの仲間にも事情を説明した方がいいだろうな。血筋以外の面々は話せない、となると納得いかない者も出るのではないか?」
俺は頷く。するとカナンはさらに述べた。
「軍関係者についてはこちらから当たり障りのない程度に話すとしよう。冒険者の方々はルオン殿から直接話を聞きたいはず。そこはあなたの判断にゆだねる」
「わかりました。あ、それと今日中にここを離れますか?」
「いや、もう夜だ。魔物の存在も気になるため、明日の朝まではここにいる」
「そうですか。ならば私も待機しています。何かあれば報告を」
「うむ。ありがとう」
カナンの言葉に俺は頷き、話し合いは終わった。
その日は疲れもあってかカナンと話した後すぐに眠った。仲間達も疲労が溜まっていたかすぐに眠り、翌朝を迎えた。
カナンの指示により、冒険者勢はソフィアがいた砦まで戻ることになった。道中でアルトなんかが事情を聞きたそうにしていたが、俺が「砦まで我慢してくれ」と説明。また、この面々の中にはリチャルもいた。
「王様に礼を言われたよ。報酬について言及はあったが、全ては戦いが終わった後だな」
ここで、彼は肩をすくめる。
「……ま、ルオンさんの働きからすれば微々たるものかもしれないが」
「ルオンから比較したら誰もが微々たるものだよ」
シルヴィがそんなツッコミを行いつつなおも進み……俺達は、拠点となる砦へと辿り着く。そこでオルディアとも合流。紹介すると一様に驚いた様子だったが、賢者の血筋であると俺が説明したことから、仲間として認識してもらえたようだった。
そして話し合いの場を設けた。砦内にある一番大きな会議室を貸切、説明を始める。物語として知っているという点を含める場合、俺が前世の記憶を保有していることから説明しなければいけなかったが……そう長くはかからなかった。
「――概要は以上になる」
そうして話をした後、反応は様々だった。壁に背を預け立っているアルトは興味深そうな表情。同じように壁近くにいるリチャルについても同様で、席に着くフィリやキャルンなんかは話についてこれなかったのか少々首を傾げていたりする。
エイナについては訝しげな顔を最初は見せていたが、事情を知るソフィアがいるためか、すぐにその表情を収めた。
「なんというか、もっと上手いやり方があるんじゃないかと考えた時もあったけど、結局の話誰も彼もが生き残るなんて無理な話で、だからこそ俺は魔王を討つための行動をしていたということになる……えっと、何か質問はあるか?」
「なら、私から」
そう言って手を上げたのはキャルン。
「私と出会った時も、物語の枠内だったの?」
「……キャルンと関わることになる出来事はあったし、実際その流れをとっていたよ。ただ、遭遇する場所は違ったけど」
「そっか」
「とはいえ、その強さはやはり驚愕すべきものだが」
次に語ったのはリチャル。彼のことについてはまだ詳しく語っていないが――
「ルオンさん、俺のことも説明していいか?」
「……リチャルの判断に任せるけど、話すのか?」
「ま、一応事情を知っていてもらっといてもいいかなと」
そう述べてリチャル自身のことも語る。転生者と時を巻き戻した人物……奇妙な取り合わせにも思えるが、こうして出会って話をすることが、どこか自然のようにも思える。
「――そして、俺は賢者の血筋でもある。ま、魔力が減っているから最終決戦の時は援護ぐらいしかできないだろうけど。で、ルオンさん。話の続きを」
「わかった……それじゃあ、一通り事情を話し終えたから、これからのことについて語ろうか。当初の予定では、魔王を討つ武器の素材を求めに精霊コロナの所へ行くことになっていた。けど、魔王が強化されなかったこともあって、もう一つ選択肢が出てきた」
俺の言葉にソフィア達の顔が引き締まる。
「俺の存在を認識したことで、魔王も相当警戒をしたはず。大陸崩壊の魔法を発動させなかったから魔王は強化していないけど、何かしら対策を行うのは間違いない」
「つまり、その対策前に一気に決着をつけるべく動くという選択肢がある、というわけですね」
エイナが語る。俺はそうだとばかりに頷いた。
「一気に決着をつける、というやり方と多少時間を掛けてでも強力な武具を生み出すという方法……どちらが正解なのか難しいが――」
『それについては、こちらから意見がある』
ガルクの声。俺の目の前に出現し、唐突に話を始めた。




