南部侵攻の終結
味方がいるとはいえ、基本的にやることは変わらない。魔法を繰り出し魔物を滅し続ける。ただ今回は俺が全力で戦える点と、ソフィアを始めとした援護があるということが大きな違いだ。
ただ、この状況をアルトに言わせれば次のようになる。
「……なんというか、軍という概念が意味を成さないな」
ごもっとも。ただ俺は例外みたいなものだからなあ……と、考える間にさらに迎撃。
魔王軍の方針としてはソフィア達を狙っている動きに変わりはないようだったが、人間側は上手く対処できており被害はそう出ていない。さらに道中でリチャルについての説明を行ったことで、彼が使役する魔物達とも連携を行うことができた。結果、予想以上のペースで敵を倒すに至る。
「退却してもよさそうな状況ですが、それもないですね」
ソフィアが言う。確かにここまでズタボロにやられるような状況だと、退却してもおかしくない。もっとも、俺は容赦なく追撃を仕掛けるので、どの道魔族達の結末は変わらないのだけど。
「さて、この調子なら思った以上に早く敵を……」
そう呟いた時、さらに攻め込んでくる魔物達を発見。いや、これは――
「前衛の部隊を三つに分けたか」
カナンが言う。言葉通り左右に展開する魔物の群れを視認できる。さらに方針を変更したか?
「ルオン殿、真正面から突撃してくる魔物達を倒してくれ」
カナンの指示。そちらはどうするのか問い返そうとした時、さらに指示が。
「左右を進む敵は片方を私達が食い止める。もう一方をリチャル殿の魔物で。伝令は既に送った」
「……わかりました」
頷くと、カナンは騎士達に指示を行い右方向へ。視線を転じると、カナンの他に後方から騎士達が押し寄せ、激突するような状況となる。
そして左側はリチャルが使役する魔物達。数については少ないが、それでも食い止められるだけの質を兼ね備えている。
最後に中央の部隊……俺が受け持つ相手であり、レスベイルが気合を入れ直すべく翼を広げる。
「援護します」
ソフィアが言う。護衛のシルヴィやエイナも同調する構え。さらにフィリを始めとした冒険者勢や、バルザードを始めとした騎士達がいる。
なんとなく、俺が指揮するような立場になっている気がする……性に合ってないけど、やるしかないな。
「やり方はさっきと一緒だ。俺が魔法を使って混乱させる。それでも突破しようとする魔物や悪魔がいるだろうから、それを倒してくれ」
ソフィアが頷く。俺は「頼む」と告げ、詠唱を開始。悪魔達が突撃し激突する寸前に、魔法を解放した。
使用したのは風属性上級魔法『ルーンサイクロン』だが……加えた魔力は全力そのもので、暴風とでも言うべき風の刃が魔物へ放たれる。旋風が軍を形成する魔物達を前線から吹き飛ばす。
悪魔も力の差については認識したはずだが――なおも迫る。やはり退くという選択肢はない。どれほど力の差があろうとも襲い掛かってくる。
対する俺はさらに詠唱。その間に、悪魔が一体俺の近くに到達する。
けれど、それを俺は剣を抜き放ち一閃し滅した。続けざまに襲い掛かって来た悪魔も同様の結末を与える。横を抜けようとした者は、ソフィア達が対処。能力の高さから普通の騎士では対応できないくらいの強さだが、冒険者勢の戦力もあって犠牲はない。
「さて、次の魔法だ――」
声と共に放ったのは雷撃。雷属性上級魔法『アークライトニング』――中級魔法の『ライトニング』と似たような見た目だが、直撃すると雷撃が爆散して広範囲に影響を及ぶす魔法だ。
雷撃が途轍もない速度で魔物に直撃。刹那、閃光と雷撃特有の弾ける音が耳に響き、雷撃が拡散。敵を大いに消滅させる。
閃光が消えた段階で、前線は完全に崩壊していた。俺はそこへさらなる駄目押しとして『ルーンサイクロン』を放つ。風の刃が再度魔物達を襲い、一気に数を減らす。
ここで左右に目を向け、援護するべきかどうか考える。リチャルの方はどうやら問題ない。カナン達は……状況的には拮抗している感じだろうか。
「――魔族達が近づいてくるぞ」
そのセリフはクウザからのもの。見れば、彼の言う通りこちらへ迫る黒衣の魔族。しかも複数。
「俺が対処する」
言葉と共に剣を握り直し、走る。魔法を放とうかと考えた矢先、魔族が迫る速度がさらに増す。魔法を使わせない内に決着をつけるつもりか――けれど、それもまた無謀な行為。
魔族は急接近し、とうとう間近に。直後、拳を放ったが俺は容易く見切り……反撃とばかりに魔族に対し剣戟を叩き込んだ。
全力の一撃。当然魔族が耐えられるはずもなく、消滅。後続の魔族達も迫って来るが、剣を構え直した直後動きを止めた。
合計で三体。攻めあぐねている様子。なら、こちらからいかせてもらおう。
俺は走り出す。魔族達は素早く散開したのだが――俺は動きを見切りつつまずレスベイルを左に放つ。一体の魔族に対し大剣を振りかざすと――相手が反応する前に剣戟が炸裂。消滅した。
続いて俺から見て右を駆け抜けようとする魔族を捉え、中級魔法『ホーリーランス』を放った。相手はそれを見て回避に移ったようだが、反応するよりも早く光の槍が魔族に到達し直撃。撃破に成功。
こうなると最後の一体は動けない。視線を向けると厳しい表情を伴い後退しようとする魔族の姿。
そこに、俺は容赦なく斬り込んだ。相手は反応したが、俺の一撃を受け切ることはできず、消えた。
まだ後続の魔物達は残っていたが……俺は即座に『ルーンサイクロン』により吹き飛ばす。次いで、ソフィア達の援護。ここで魔物達がほとんどいなくなり、俺は仲間達に指示を出す。
「カナン王の援護に向かう! すぐに戻るからここで待機を!」
一方的に告げた後、俺は右方向へ。カナン達はやや押し返している状況だったが、そこへ魔法により援護を行う。側面を突かれた魔王軍はいとも容易く統制を失い、カナン達へ形勢が一気に傾いた。
「ルオン殿、悪いな」
カナンが言うと俺は首を振り、
「まだ敵は多い……このままの勢いで進みましょう」
「ああ」
返答の後、騎士達は魔物を撃滅。俺は残るリチャルを援護に向かい――彼らと共に、戦いを続けた。
――そうして戦い続け、終わったのは夕焼けが見え始めた時刻だった。
「やれやれ、人生で一番長い日だったよ」
アルトは地面に座り込み、そんな言葉を漏らす。周辺には冒険者勢に加え、ソフィアやシルヴィ、クウザもいた。
カナンやバルザードは騎士達を引きつれ、残る魔物を掃討している。数が相当だったため多少なりとも四散してしまったが、騎士いわく「そう時間は掛からない」とのことだった。
「ルオン様、お疲れ様でした」
ソフィアが近寄り声を掛ける。俺は頷き、
「ああ、ソフィアもお疲れ」
「……私は、そう大したことはしていませんし」
「陣頭に立って戦っていたじゃないか」
「ま、ルオンの働きぶりからしたら、誰もが戦っていないも同然ということだろう」
割って入るようにシルヴィが述べる。
「報告は聞いている。西部、北部、ついでに魔王とも遭遇し、ほとんど休むことなくここに来たらしいな? どれだけ化け物なんだ」
「……まあ、さすがに無茶し続けたせいかちょっと眠いよ」
「それだけ暴れてちょっと眠いレベルか。魔族も恐ろしいだろうな」
「かもな」
「それで、今後は?」
「……カナン王と話をしないといけないだろうな」
俺は息をつく。犠牲が少ないよう動いた結果、俺の存在は人間側にも認知された。その辺りのことも含め――話し合わなければと思った。




