王女の力
前線で戦っていたカナンとソフィア達が合流し、いよいよ戦いが始まった。上空にいる使い魔からは声は聞こえない。だが、今まさにソフィアが声を上げ騎士達を鼓舞しながら剣を振るのがわかる。
『――どうやら、士気を上げるのはソフィア王女の役目みたいだな』
ガルクの声。リチャルが語った士気を高める手段。それを彼女が実行し、物量で押し潰そうとする魔物達に対抗しようとしている。
おそらく、カナンはこうした役目をソフィアに頼んでいたのかもしれない。初日は連合軍の総指揮であるカナンが前に出て士気を高める。そして窮地に陥った場合――賢者の血筋であるソフィアを前に出すことで、兵達を奮起させる。
加え、彼女の能力も士気を上げることに役立った。彼女が放つ雷撃が敵を射抜き、消し飛ばす。さらに風が敵を大いに吹き飛ばし、その剣が敵を易々と撃破する。
彼女を守るようにしてシルヴィとエイナも動き回る。そこにクウザの魔法が降り注ぎ、確実に敵を倒していく――
「狙いは、魔族か」
魔物を指揮する魔族に標的を定め、一気に攻勢を仕掛ける……相手の魔族はソフィア達の侵攻速度に対応できず、混乱しているのが上からでもわかった。
これなら――そう思った矢先、ソフィア達の軍が魔族に到達する。すぐさま攻撃を仕掛け、猛攻により魔族があっさりと滅んだ。
同時、ソフィア達は包囲される前に後退する。その動きは見事で、しっかりと統率ができていなければ成しえないものだった。
「さすが、だな」
指揮官を失い混乱する魔物達を尻目にソフィア達は後退に成功。即座に反転し他の部隊と共に敵を迎撃し始める。
とはいえ、魔族側もやがては体勢を立て直し魔物を動かすだろう。その間にどれほど戦力を削ることができるのか……ここで、ソフィア達と共に前に出たのはフィリやアルトといった冒険者の面々だった。
ゲームの主人公と、その仲間達――五大魔族を撃破するだけの力を有する彼らは、他の騎士や兵士と比べても実力的には相当なもの。魔法や技が繰り出され、存分に敵を撃破していくのがわかる。
「状況はどうだ?」
ここでリチャルが尋ねてきた。俺が簡潔に説明すると、彼は笑みを浮かべる。
「後方に控えていた面々が……か」
「その中には仲間もいる。実力は保証する」
「活躍しているのか?」
「ああ」
頷いた時、ソフィア達の動きに呼応するようにカナン達も動き出した。連携し、前線の魔物を蹴散らし始める。
王女に続けと言わんばかりのその動きは、魔物達を逆に後退させるほどの勢いがある。たちまち数が減り、後続からやってくる魔物達をも一気に飲み込んでいく。それは圧巻の一言であり、ソフィアがもたらした鼓舞が十分すぎるほどに効果を発揮しているのがわかった。
ただ、魔族側も黙っていない。後方にいる部隊を立て続けに投入し、人間側の勢いを殺そうとする。士気の高さを抑えることができれば、形勢が傾くと思っているのだろう。
「――ルオンさん」
と、ここでリチャルが声を上げた。
「俺はさらに速度を上げて、魔物達の側面を突くように動くよ。ここでお別れだ」
「側面?」
「ああ。その方が人間側にとっても混乱が少ないだろ? 第一、後方から魔物の群れがやって来たなんて状況、兵士達からしたら挟撃されたと思い込んでしまう。士気が下がるよ」
確かに……心の中で同意した時、リチャルが横へと進路を向ける。
「ルオンさん、戦場で」
「ああ」
頷いた後、俺は真っ直ぐ突き進む。一人となった後でさらに使い魔を通し状況を確認。ソフィアが前線から最も近くにいた魔族を、撃破した。
それによりまたも混乱が生じる魔物達。それに呼応するようにフィリやアルトが魔族と交戦。後退しようとする相手に追いすがり、とうとう撃破した。
指揮系統が一時的に麻痺し……ソフィア達が存分に撃破し、人間側がさらに押し返す。気付けば人間側はずいぶんと前に進んでいた。
一方の魔族達は攻めあぐねている様子。とはいえこの段階に至り魔族を前線に立たせないよう移動はさせているみたいで、今後これまでのように指揮する存在を撃破することは難しくなるだろう。
さらに、魔族は後続の戦力を投入する。ソフィア達が奮戦しているとはいえ、戦いが終わるまでもつわけがない。果たしてどこまで押し込むことができるのか――
『ルオン殿、戦場が近いようだぞ』
ガルクの声。俺は小さく頷いた。
「ああ……さて、俺はどう動くべきか考えないと」
『どうする?』
使い魔を通し、どういう形がベストなのかを考えてみる。ソフィア達と連携するよりは、単独で敵の中核に侵入して上級魔法を思う存分使用するというのが理想的だろう。魔族側も混乱する可能性が高いだろうし、それに乗じてソフィア達もさらに攻めることができる。
問題は、どこから攻めるか……ここで、使い魔を通し地形を眺める。人間側の本陣はちょっとした丘の上に存在し、そこからなだらかな坂を下ったところで人間側の後方支援部隊。そこから先に戦場が広がり、右には多少離れているが南北に伸びる森が存在する。
戦場の中心から左側に街道が存在し、そこからはさらに平原……と、リチャルはどうやら左から攻撃しようとしているみたいだ。
「……よし、俺は右の森から仕掛けよう」
『手はあるのか?』
「森を突っ切れば、魔王軍の中核付近の側面を突けるよう移動する。上空にいる使い魔からの情報だと、魔族が一番多くいるのはその辺りだからな」
そう返答した時、魔王軍の攻撃が苛烈になった。さらに戦力を加え、人間側の士気を挫こうと動く。
……俺の存在を魔王軍をまとめる総指揮官は把握していたに違いない。だからこそ今日押し潰すべく攻撃を仕掛けたはずだが、実際は逆に押し返されているような状況。苛烈になったのは、焦りからだろうか?
そして猛攻を仕掛けても、人間側がまったく揺るがない。ソフィアはさらに奮戦し、カナンが指揮し的確に敵を倒していく。魔物の数はまだ多いが、それでもこのままいけば人間側が勝利するのでは……という予感さえ抱くほどだった。
そうした中、いよいよ戦場が近づき、俺は迂回を始める。森を目指すように移動し、程なくして視界に入った。
『戦場は近いな』
ガルクが言う。俺の耳には爆発音や金属音のような音が入ってくる。
上空にいる使い魔を利用し、魔王軍の中核付近に到達できるよう場所を調整。そこで一度、魔法を解除した。
「よし……やるか」
剣を抜く。西部の戦いから休みなく移動と戦いを繰り返してきたが、まだ体力は十分ある。魔力も問題ない。
ここで使い魔がリチャルと使役する魔物達を捉える。森に到達した俺とは反対方向から魔王軍へと攻め寄せる光景。どうやら相手も気付いたようだが、その見た目から動きが鈍った。魔族としても敵なのか味方なのか判断できなかったらしい。
俺はここで一呼吸置いた後、移動魔法を再発動。森を一気に抜ける。
木々を突破した後、魔物の姿を捉えることに成功。相手も気付き――臨戦態勢に入る。
「レスベイル!」
俺は精霊を呼び出し、魔物の群れへ突っ込み――戦いを始めた。




