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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王との決戦

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残る戦場

「……これで、大陸が崩壊することはなくなった。よかった」


 俺は魔王がいなくなったのを見計らい、発言する。


「ガルク、魔法は完全に封じ込めたのか?」

『うむ、誤って魔法が発動するなどという事態にはならない。しかし地底にはまだ魔族の魔力が残っている。全てを排除するには長い時間が必要だろう』

「問題が出そうだな……」

『場所によっては作物などに影響が出るかもしれん。人間の営みに影響しないよう対応することを約束しよう』

「ありがとうガルク。さて……」


 俺は魔王の立っていた場所を見据え、考える。


 魔法が発動することはなかった。本来魔法が発動した結果魔王は強化されるのだが、それはない……だが、俺という存在や神霊達が集まったことにより何か考えている様子。


「できる限りの準備は……しておいた方がよさそうだな」


 剣の作成を行いつつ、魔王がどのような行動をするかを調べる……どういった手を打ってくるか明確にわかるのが望ましい。

 そうした考えを巡らせる間に、オルディアが声を上げた。


「ルオン、ノストアを倒したことで、俺もまた賢者の力を有した……つまり、魔王を討つ資格を得たと」

「ああ。ただし、魔王との決戦の時どう戦うかは、相談したいところだな」

「相談? 誰とだ?」

「他の賢者の力を宿した者……その話し合いは、南部の戦いの後になると思うけど」


 俺はガルクへ視線を向ける。


「まだ戦っているようだから、今から南部へ向かう」

『わかった……我らは魔王の魔法が発動しようとしたことで、何か影響がないか調べることにする』

「どの程度かかる?」

『大陸全体の状況を精査する必要があるからな……南部の戦いはルオン殿の加勢が加われば数日でどうにかなるだろう。その間に終わるのは難しいな』

「わかった。ガルク達はそちらを頼む」


 述べた後、改めてオルディアに首を向ける。


「先に南部へ急行するよ。オルディアは後で来てくれ」

「……その力で、南部の敵も抑え込むというわけか」

「ああ。そこさえ片付けることができれば、後は魔王との決戦を残すだけだ」


 俺が共に戦えない状況も考慮し、人間側の戦力は十分なものとなった。しかし戦いによる犠牲は少なければ少ないほどいい。


『私達は、精霊と共に大陸を見て回るわ』


 フェウスが言う。続いてアズアが動き出し――神霊達はこの場を去った。


「さて」


 俺は一つ呟くと、肩を軽く回す。


「行くとするか……ソフィア達の所に」


 言葉と共に――俺は魔法による移動を開始した。






 南部の戦場へ向かう最中、魔王軍の動きが苛烈になる。魔王が居城へ退却したことによる影響か……物量については魔王軍側が上であることから、力押しで人間側を潰そうという目論見かもしれない。


 だが、カナンを始め騎士達はそれを食い止めている。防衛ラインを形成し進軍を確実に防いでいる。さらにソフィアを始め後続にまだ戦力が残っており、余力もある。ここに、俺が加われば確実に軍を粉砕できる。


 ここでふと、考える……西部に残っていた魔族達が動き出したことや、魔王の行動が早かった点。それらは人間側にとってつくづく予定外のことだったが、全て突破した。残るは南部から押し寄せる魔物達を撃破するだけ。その後は魔王との決戦を残すわけだが……いよいよ物語が終わりを迎えそうな雰囲気。

 だが、まだ剣の作成を始めやらなければならないこともある……今後のことを頭の中で巡らせつつ、さらに使い魔から報告を受け取る。


 ボスロ将軍を始めとするアラスティン王国の精鋭や、バルザード達の遊撃騎士団と言うべき面々が前線に立ち魔物に対抗している。カナンはその後方にいて前線と連携をとっている。そして冒険者であるフィリ達もまだ戦いに参加していない。予備兵といったところだろうか。


 ただ、魔物達の方が物量的に上回っているため、このまま押し返すということも難しい。よってソフィアやフィリ達も戦場に出る可能性が……距離があるため高速移動魔法を使用しても時間が掛かる。もどかしいが、焦っても始まらない。


「――ん?」


 その時、別の使い魔から報告が上がった。俺の進行方向……魔物の群れが南へ突き進んでいる。新たな敵かと思ったのは最初だけ。それはどうやら、リチャルが使役する魔物らしかった。


「……このタイミングで動き出したのか。会った方がよさそうだ」


 今の速度なら追いつきそうな雰囲気……使い魔から場所の情報を受け取りつつ近づいていくと、竜に似せた魔物の背に乗るリチャルを見つけた。


「おーい!」


 彼に呼び掛けると、相手は視線を向け――驚いた。


「ルオンさん!?」

「奇遇だな! そっちも南へ?」


 魔法で並走を行いながら尋ねると、リチャルは即座に頷いた。


「こっちも魔族の動きを使い魔で調べていたが……正直、ここまで無茶ができる人物だとは思わなかったよ」


 俺の戦いについては多少なりとも把握しているらしい。


「その辺りの話についてはいずれ……で、これは大丈夫なのか?」


 俺は下を見る。地上では街道を爆走する魔物の群れ。


「敵と間違われないか?」

「そうはならないよう上手くやるさ。兵の手薄な場所を狙って突撃を仕掛け、追って味方に説明する」

「そうか……俺も事情説明には協力するよ」

「すまない……しかし、非常に複雑な情勢だな。おかげで対応に遅れてしまった」

「複雑?」


 問い返すと、リチャルは難しい顔を伴い返事をする。


「俺は何度も時を巻き戻しこの戦いに関わっていたが、こんな状況は初めてだ」

「それは、魔物が多いって話か?」

「いや、違う。人間側の戦力が多く、互角以上に戦えている点だ」


 ……やはり俺がカナンに事情を説明した影響が大きいようだ。


「なおかつ、西から魔物達が押し寄せてくるという噂を聞いた時は肝を冷やした。それをルオンさんが倒すとは思わなかったよ。他に騎士や兵士がいなかったことから、話がついていたのか?」

「連合軍の総大将であるカナン王とは話がついている」

「なるほど、な。で、ルオンさんについての話は、戦いが終わってからということでいいんだな?」

「ああ。リチャルも聞く資格はある」

「なら良かったよ。これで事情を話してもらえなかったら、生殺しもいいところだ」


 俺は笑い――魔物の群れを眺める。


 数は相当であり、リチャルの努力の成果が窺える。ただ魔王軍の数を考えると戦局を左右するというのは難しいかもしれない。あくまで戦場の一部の進軍を食い止める、といった具合か。

 ただし、現在互角以上の戦いを繰り広げている状況であるため、人間側にとって戦局を変える契機となる可能性はある。


「ルオンさんは、どう動くんだ?」


 その言葉と共に、リチャルは苦笑する。


「むしろ、俺は必要ないかもしれないが」

「いや、犠牲を少なくするには戦力は多ければ多いほどいいよ。俺だって一つの魔法で魔物達を瞬時に全滅、なんて真似はできないからな」

「そうか……事情を話してもらえるのなら、しっかりと生き残らないといけないな」


 リチャルは言う……南部侵攻は彼にとって最大の障害であり、嫌な思い出しかないはずの戦い。けれど現在の彼は表情も明るい。予定外の出来事が連なったとはいえ、戦局自体は悪くないと考えているのだろう。


「ああ。頼むよリチャルさん」

「任せろ」


 そうしたやり取りを行いつつ――俺は彼と共に戦場へと急いだ。


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