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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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次の目的地

 さて、従者となったソフィアを強くするのはいいが……無闇に魔物と戦うよりも、きちんと計画を立てた方がいいだろう。

 どうするかについては、俺に一任してくれる様子。なので、方針は自由に決めることができる。


 使い魔による情報では、それぞれの主人公は順調に活動している様子。しばらくは嫌なイベントもないし五大魔族に挑むような人物もいないので、ソフィアの修行に専念することができるわけだが……問題と言えば移動面か。


 彼女は俺のように高速移動魔法が使えない。さすがに主人公達が引き起こすサブイベントにまで首を突っ込むわけにもいかないが、五大魔族に誰かが挑むような状況となったら、近くで様子を見るか同行するため急行したいところ。


 騎士のエイナを除いた他の四名は、ソフィアがいてもサポートできるわけだし……置き去りにして一時的に俺だけ活動するというのもアリかもしれないが、それをすると彼女を長期間放置することになる。この場合、俺の能力とか立場とかを説明しないと納得しないだろう。


 従者となったわけだし、常に行動を共にするなら事情を多少なりとも話してしまってもよさそうだけど……さすがにゲームの世界に転生したなどと言っても理解してもらえないだろう。けれど例えば「俺は魔王との戦いで死んで、なぜかもう一度人生をやり直している」とか言えば、俺が今後のことを知っていても一応説明はつく。


 その方が話も早いし……ただこれもそれなりにリスクがある。今後遭遇する魔族の中には思考を読み取るような奴もいる。精神依存の攻撃なのでステータスが振り切れている俺は平気だけど、事情を話してしまうと当然そうした魔族にも情報が渡ってしまう可能性が――そもそもソフィアの場合は、王家のことが露見する可能性もあるか。ただその魔族が出現するのは中盤以降なので、王家のことについては露見してもよさそうな状況になっているかもしれないけど……俺の場合はそうもいかない。


 心を読んでその情報を魔族が信用するのかどうか疑問だし、そもそも遭遇する可能性があるのかどうかもわからないんだけど……まあソフィアに事情を語るにしても、俺の知識量はこの世界の人間が把握できるレベルを超えているので、どう説明しようとも無理が生じる。変に事情を説明した結果何かのきっかけで矛盾が生じ、最悪ソフィアに怪しまれ面倒なことになる可能性も……さすがに考えすぎか?


 これ、ソフィアについて悩んだ時のようにドツボにはまるやつだな……とりあえず、今の段階では現状維持にしておくか……そう決めた後、俺は彼女をどうするか改めて考える。ベストなのは彼女も魔法により高速移動できる手段を得ることである。それには――


「まずは精霊との契約だな」


 飯屋で食事をしている時、俺は発言。

 村の依頼を達成して、俺達はシルベットに戻りソフィアの静養をかねて丸一日休んだ。今は夜となり、次どうするかを食事しながら話し合っているところ。


 彼女の衣服については魔物との戦いで破れたりしたので似たような服を新調。さらに普段は外套に隠れ見えないが、特殊な革で作られた女性用の胸当てを身に着けている。これは町で買った物だ。


 そして先の発言を受けて彼女は呟くように口を開く。


「精霊、ですか」

「ああ。魔法でも中級以上の魔法を扱うには一定の知識がいる……けど、その知識をソフィアは得ているわけじゃないだろ?」


 こちらの質問に彼女は頷く――中級以上の魔法を習得するには、条件がいる。ゲーム上でも魔法の知識がないキャラについては一定の条件を達成しないと魔法を覚えることができなかった。下級魔法ならば魔法使いなどに金を払って教えてもらうことができるのだが、中級以上だとそうもいかない。


 本来なら、アカデミア――前世で言うところの、高校や大学が一緒になった学校兼研究機関で知識を習得していれば使えるようになる。実際アカデミアで勉学を学んだ仲間キャラについては、条件を必要とせず中級以上の魔法を習得することができた。


 そういうアカデミアの知識がない場合は、二つの手段が存在する……一つは俺も習得している『神聖魔法』と呼ばれるもの。聖堂へ赴き金を支払い、なおかついくつかの材料を渡すと、洗礼という名の魔力供給が行われ中級以上の魔法が使えるようになる。もちろん覚える魔法を使うために知識は必要なのだが、アカデミアで何年も学んだり、専門的な研究を必要とせず使える。


 ただこの魔法は、アカデミアで学んだ魔法使いと比べると魔法の威力がマイナス修正される。実際、修行時代に神聖魔法使いとアカデミアで学んだ魔法使いと関わったことがあるのだが、神聖魔法使いは火力不足になるケースが多々あり、主力になるのは難しい……ちなみに俺の場合は能力によるゴリ押しが可能であるため、ほとんど関係ない。まあパラメーターがマックスになってしまえば、マイナス修正なんて微々たるものということだ。


 ちなみに神聖と名がつくのは、聖堂出身者が多く神官戦士などが扱う魔法であるため――光などの「聖なる力」とされる魔法をメインに使うためである。しかしこの洗礼を受ければ闇属性だろうと中級、上級魔法を覚えられる。


 これが一番簡単な方法なのは間違いなく、もし習得させるならこの方法が手っ取り早いのだが……この神聖魔法、主人公達は洗礼を受けられないという制約があった。

 具体的な理由は不明だが、賢者の血が何かしら作用しているのは間違いなく……ソフィアにもこれが言えるのは間違いない。よって彼女は『神聖魔法』を覚えられない。


 そこで出てくるのがもう一つの習得方法……精霊との契約で習得できる『精霊魔法』である。契約した精霊の属性魔法の威力と詠唱速度が向上する。ちなみにアカデミアで学び魔法を習得する人物でも精霊とは契約でき、魔法の威力がさらに上がる。よって戦士が契約するのではなく、元々魔法使いのキャラが魔法を強化するために契約するケースが多い。


「これには中級以上の魔法習得以外にも理由がある。精霊と契約することでソフィアの身体能力も向上する」

「はい」


 ソフィアは同意。そこで俺はさらに話を続ける。


「加え……俺は魔族の侵攻など火急の状況に陥った時、風の魔法を駆使し高速で移動するようにしている。ソフィアを助けた時もそんな風に駆けつけた経緯がある」

「そうなのですか」

「で、当然ソフィアはそうした魔法を覚えていない……さすがに置き去りにされるのは嫌だろ?」

「そうですね」

「だから、そうならないようにする。一番近いのは風の精霊の住処だから、丁度そうした魔法を覚えられる」


 ――最悪、置き去りにしても俺の言葉なら納得しそうな雰囲気ではある。とはいえ、そんなことがあまりに頻発するのも良くないだろうし、とりあえず習得する方針でいいだろう。


 また俺と共に行動するとなると、当然五大魔族との戦いに彼女も参加する可能性も出てくる。彼女が魔王を討てる資格を持っているかはゲーム上で確認はできなかったので今の所不明瞭だが……そうした魔族相手に対抗できるための力を有するには、剣も魔法も鍛えておく必要があるだろう。よって、精霊魔法というやり方は正しいはずだ。


 あと問題としては、彼女の魔力の質か……外見ではなく魔力の質で人を見分ける魔族に対する策を考えておく必要がある。これについては一朝一夕では難しいが……とりあえず精霊との契約の後、考えることにしよう。


 心の中で結論を出し、俺は話を進める。


「この町から北西へ進むと山岳地帯があり、そこに風の精霊であるシルフが住んでいる」

「はい、知っています。そこで契約を行うと」

「そうだ。もし何かあっても高速移動の魔法である程度融通が利くようになる……便利だろ?」

「そうですね。なら、次の目標は風の精霊と契約するということで」


 話はまとまった。使い魔による情報では現状精霊と契約しようという主人公キャラはいない。よって、ソフィアの存在が露見することなく契約は行えるだろう。


 ちなみに精霊契約のイベントは、一度目はトラブルに遭遇してそれを解決した後改めて契約できるようになるのだが……フィリやエイナとは異なる別の主人公がやっていたと使い魔の報告から把握している。まあもしそのイベントが再び起こっても所詮はサブイベント。シナリオに影響はないだろうというのが俺の判断だった。


 そこから俺達は食事を進め……食べ終えた後、明日に備えて休むことにした。






 翌日、町を離れシルフのいる山岳地帯へと向かう。距離としては言う程のものではなく、なおかつ街道が整備されているので進む分にはまったく問題ない。


 元々山越えのルートは張り巡らされた街道の一つであり、左右に渓谷を見ながら突き進むことができる。こうした道ができたのには色々と理由があるらしいが、歴史についてはあんまり詳しくないので俺もイマイチ把握していない。機会があれば調べてみようかな。


 その街道から脇道へ逸れ山へ入ると精霊の住処に到着する……前世では、精霊というのはゲームや小説ごとに見た目なんかがずいぶんと違っていた。この世界のシルフは手のひらサイズの妖精みたいな外見であり、ゲーム上では女性しかいなかった。


 その辺りについては本なんかで見たことはあるのだが、男性がゼロというわけではないらしい。まあ精霊であり子供を産むとかいう要素がないらしいのでぶっちゃけ男女の区別はあまり意味がないらしい。


 俺達はそうした精霊の住処へ向け順調に旅を続け、途中遭遇した魔物なんかを倒しつつ、目的地である山のふもとに辿り着いた。


「……広大ですね」


 精霊の住処に入る前の道で、ソフィアは山を見上げ感想を述べる。俺は小さく頷きつつ、周囲を見回した。


 山、といっても目の前には山脈が広がっており、遠くから見ると山頂付近に雪が積もっているような場所もある。間近なので全容を把握することは難しいが、渓谷の入口以外は森が広がっており、天然の要塞、という感じがした。


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