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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王との決戦

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辿った道

 南部の戦いが気にはなりつつも、俺達はとうとう魔王が訪れる場所へと到達する。名はミリバドス平原――といっても、見た目は正直なところ荒野だ。


 木々も少なく作物などもあまり育たないくらいの厳しい土地。しかしここは大陸北部の中心でもあるため、街道が整備され南や東へ向かうための経由地点となっている。ただし平原には大きな町がない。そもそも北部は土地も痩せているため人口が少なく、その中で作物が育つ場所を選んで定住しているため、この周辺も多少の宿場町が点在するだけだ。


 魔王はまだ到達していないが、ほんの僅かな差。使い魔によれば、最後の五大魔族であるノストアが先頭に立ち、進軍している。


「……まずノストアがこちらに近づいているな」


 魔王はその後方――おそらくノストア自身が竜達を倒すべく動いているのだろう。


「軍勢としての数はそれなりだけど……質としては上かな。とはいえ竜達なら苦もなく対処できるはず。問題は五大魔族ノストアだな」

「どちらが倒す?」


 問い掛けたのはオルディア。


「ルオンの力なら楽勝だろうが……」

「うーん、そうとは言い切れないな」

「何故だ?」

「ノストアは居城を離れる際、所持する賢者の力を障壁に利用していたはずだ。攻撃が効かないというレベルじゃないけど、威力が相当軽減される」


 ――レドラスと同様、賢者の力を障壁に利用している。居城にいる時は攻撃能力を強化するのに利用していたのだが、五大魔族の中で最後に残り、魔王と共に南下してくる場合は障壁に利用する。


 ゲーム上でも非常に防御力が高かった。ただし主人公だけは平然とダメージを与えることができるため、主人公を主力として戦えば撃破はそう難しくない。もしその戦いまでに育てていなければ泣きを見る。


「南部侵攻に合わせ動く時点で、どうするかは考えていたけど……まあ俺の力ならごり押しすれば倒せると思う。ただ多少なりとも時間が掛かるだろうし、その間に竜がやられるのが問題か」

「だとすれば、俺の剣の力か? 魔王には通用しないものだ。ここで使っても問題ないが」

「そうだな。賢者の血筋であるオルディアの一撃ならば、障壁も効果を失くす」

「いいだろう。ならばノストアについては俺が対応しよう」


 オルディアが宣言し――次に俺はガルクに問う。


「神霊達は?」

『もう近くにいる。魔王が今奇襲を仕掛けても、対策を打てる準備はできている』

「わかった……いつでも動けるよう態勢を整えつつ、待機だ」

『うむ』


 返事の後――またもオルディアが俺に疑問を向けた。


「物語で本来、どういう流れだったんだ? その辺りのことを詳しく聞いていなかった」


 ……興味本位という様子。俺は頭の中でゲームの情景を浮かべつつ、話し始めた。


「魔王襲来は南部侵攻が終わった後の話であるため、この時点でずいぶんと流れが違う。まず南部侵攻イベントが終わり、最後の五大魔族――現実ではノストアが残ったな。それに付随し魔王も動き出す。人間側は情報を手に入れ、すぐさまここより北にある町で準備を進める」


 そして魔王を迎え撃つわけだが――


「当然ながら攻撃が通用しない魔王に勝てず、人間側は敗走。この荒野に辿り着く……その時、五大魔族を主人公が単独で倒している場合と、一人ずつ倒している場合で流れが変化する」

『単独で倒している場合が、ルオン殿の望んだ流れだったな』


 ガルクの言葉。俺はすぐさま頷いた。


「五大魔族を一人の主人公が倒している場合……荒野まで後退した時、最後に残った五大魔族が主人公達に襲い掛かってくるため、倒す。その後とうとう魔王が出現。この荒野で魔法を使い大陸を崩壊させようとするわけだが、主人公が五大魔族から手に入れた賢者の力により封じ込める」

「本当なら、その流れにしたかったという顔つきだな」


 オルディアの言葉……対する俺は肩をすくめた。


「もう一つの流れは五人の主人公達がそれぞれ五大魔族を倒したケース。この場合、五大魔族をそれぞれ倒した主人公達……オルディアを除く四人が集合し、魔王に立ち向かう。しかし最初の戦いで敗走。この荒野まで後退するまでは一緒だ」

「そこからどう違う?」

「まず残っていた五大魔族が出現するんだが、それをオルディアが撃破する。その後魔王が登場し、魔法を発動。主人公達は食い止めようとするが、失敗して大陸が崩壊。その後魔王は強化され、主人公達は五人揃って魔王城へ向かう」


 現実の流れとしては、このパターンに近い状況だろうか。もっとも魔王の動きは南部侵攻中に発生したが。


「……俺という存在が魔王に認知されていなかったためか、大筋は物語と同じだったためどうにか立ち回れたし、嫌な出来事も回避することができた。これで魔王の魔法を防ぐことができれば、十分な成果だと思う」

『そう謙遜せずともいいさ』


 ガルクが語る。それはどういう意味――


『ソフィア王女を始めとして、ルオン殿が救った面々が成果を上げている。魔王との戦いであるが故に犠牲は出てしまうが……今まで辿ってきた道は、その犠牲は非常に少ないものとなっていると思うぞ』

「……そう言ってくれると助かるよ」


 笑みを浮かべ、頭をかく。リチャルのように時を巻き戻すことはできないから、本当にこれがベストなのかはわからない。しかし自分が動いた結果としては、十分な成果だと思う。


『まあルオン殿の力押しで無理矢理、人間達の被害を少なくしていると考えることもできるな』

「そうだな」


 呆れたようにオルディアが同調。その時、ノストアを監視する使い魔からの報告が。


「……いよいよみたいだ」

「ああ。俺が奴を仕留める。ルオンさんは魔物を頼む」


 頷くと同時、敵影が見えた。悪魔を先頭にした軍……竜が吠え、迎え撃つ構えを見せる。

 その瞬間、悪魔達もまた咆哮を上げ、翼を広げ一斉に突撃を始めた。遠目からグングン近づいてくる悪魔達。策もなく突撃すれば竜のブレスの餌食になるのは目に見えているのだが、犠牲覚悟の特攻だろうか。


「ルオンさんの実力を把握している以上、最初から全力ということだろう」


 オルディアが剣を抜き放ちながら口を開く。


「考えられる策としては、乱戦に持ち込みこちらの動きを鈍くしつつ、ノストアがルオンさんに接近し攻撃といったところか。賢者の力を利用した障壁を用いる以上、どれだけ力を持っていても対抗できるという考えだろう」

「策としてはその辺りが妥当かな……レスベイル」


 鎧天使の精霊を生み出す。恐ろしい速度で向かってくる悪魔を見据えながら、俺はオルディアへ言う。


「レスベイルを護衛に回す。敵はどうしたってノストアと俺とを戦わせたいだろうから、無理に逆らうようなことはせず流れに乗り迎撃しよう。ガルク、竜達に無理はしないよう言ってもらえないか? それとノストアを撃破すれば当然魔物達は暴れ出すはず……それを倒すのも頼みたい」

『いいだろう』

「視認できる悪魔については、先日戦った敵と比べ多少ランクが高い……が、竜でも十分対応可能。ただ攻撃力は高めだから、注意を払ってくれ」

『ではそのように伝える』

「オルディア、ノストアが俺に近づいて来たら接近し、攻撃を行ってくれ。それが短時間で決着をつける方法だろう」

「魔王との戦いも控えているからな……ま、策としては上々だろう」


 オルディアは了承。そしていよいよ悪魔が接近してくる。


「それじゃあ、行くぞ!」


 声と共に、五大魔族ノストアの軍勢との戦いが始まった。


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