竜対策
北へ進路を向け移動している途中……北部にいた魔王軍が後退しているとの報告を受ける。竜達はそれに対し動いているようだが、積極的ではない。
『警戒しているのだろう』
情報をガルクに伝えると、そんな発言が。
『竜の力は相当なものだが対策されやすいからな……さて、魔族の進路だが、おそらく魔王が向かおうとしている場所だろう』
「南部の戦いが直に始まろうとしているけど……まあ俺の能力を察し、ここで動かなければ南部の戦いにも勝てないと思ったのかもしれないな」
『うむ、他に変わったことはあるか?』
「あ、そういえばもう一つ」
オルディアのこと……彼については南部へ赴くようなことはなく、竜と魔族との戦いを窺っていたようだ。現在は移動を始め、軍を追っている。
『となると、彼と合流することになるのか?』
「どうだろうな……さて、問題は北部にいる軍勢をどうするかだが」
魔王が所定の場所まで到着するにはまだ多少時間がある。対応できないこともないが――
「ガルク、フェウスやアズア達は魔王の目的地に先回りしているのか?」
『我を含め移動中であり、ルオン殿の言う通り先回りできそうだ』
「わかった……北部の軍について気になるし、まずはそちらへ向かおう」
『いいだろう』
俺の決断にガルクは了承。少し進路を変更し、なおも急いだ。
北部に存在する魔王軍は西部と比べればその数は少ない。竜達に削られた面もあるのだが、元々の数も劣っていた。とはいえ人間側の軍に十分なダメージを与えられるのは間違いない。
『竜達もつかず離れずの状況を保って追っている。魔族達に何かあれば、一気に攻撃を仕掛けるはずだ』
「なら、きっかけは俺が作るとするか……で、具体的にどうすればいいんだろう?」
『竜がここまで警戒しているのは、魔族が対抗手段を保有しているからだ。ルオン殿、使い魔で状況を観察していて何か気付いたことはなかったか?』
「……そういえば、交戦した時何度か竜があっさりとやられるケースがあったな」
魔法による集中攻撃で崩れるパターンもあったが、不自然にやられる時もあった。
「人間にも竜に有効な武器というのは存在していた。そういう武器が魔族の手元にあるということか?」
『そういうことだな』
……ゲームには特定の種族に対し有効な武器というのが存在していた。例えば昆虫系に有効な『インセクトスレイヤー』を始め『○○スレイヤー』という名称がつけられていた武器がそれにあたる。
竜にも存在しており、名前はそのまま『ドラゴンスレイヤー』だ。しかし一撃必殺というわけではなかった。この武器の場合は竜系の敵に対しダメージが割増しになるといった効果しかなく、なおかつシナリオ中盤に登場する武器と同じくらいの攻撃力。後半に入ると元々の攻撃力が低いので役に立たなくなる。
武器強化をすれば十分有効だが、素材を使うのだったら他の強力な武器に使用した方がいいので、スレイヤーと名のつく武器はあまり使わなかったし、現実となった今でも活用していない。
けれど魔族の持つやり方の場合、相当な威力が出るようだ。
『竜種は魔力的な解析がやりやすいという欠点が存在する。ただし個体ごとに魔力の質に差異はあるため、一撃で倒すとなると一体ごとに有効な武器を生み出す必要はあるが』
「……時間が掛かりそうだけどな」
『普通ならばいちいち個体ごとに解析し武器を用意するなんて話、時間的に余裕もないだろう。だが北部にいる魔族の中に解析が得意な魔族か、有効な武器を生み出せる魔族がいるのかもしれない』
……なるほどな。どういうやり方なのかはわからないが、竜を倒せる手法を早い時間で生み出せるからこそできる策か。
逆を言えば、その魔族さえ倒せば竜は一気に仕掛けることができる。
『竜と魔族は長い間にらみあっていたわけだが、膠着状態がさらに長引けば竜側が突破されるという可能性はあっただろうな』
「そうか……ま、どちらにせよ魔族を討てば状況が打開されるわけだろ? なら、俺の出番だ」
そう返答した直後、移動中の敵軍を発見した。幅の広い街道を森が挟んでいるような地形。俺は気配隠しの魔法を使用しつつ、木に登り遠目から動向を観察する。
ゆっくりとした速度ではあるが、きちんと列を成し北へ進んでいる。魔王と合流するつもりか、それとも他に目的があるのか――
『ルオン殿、精霊を経由して竜にこちらの状況を伝えたところ、協力して欲しいとのことだ』
「構わないけど……軍の中から目的の魔族を探し出して倒すというのは大変だな。無差別に倒すと魔物達の統制がなくなり大暴れし始める可能性が高い。そうなったら大変だし、できれば狙いを定めたいけど」
『竜対策の能力を持つ魔族については目星をつけているようだが』
「情報があるのか?」
『竜達の情報によると、黒いローブを着た人間型らしい』
「さすがに、ヒントが少ないぞ……せめて顔の特徴とか教えてもらわないと無理だ」
『戦場にはほとんど出なかったようだな。他に情報はない』
うーん、これは辛いな……俺とレスベイルで攻撃を仕掛けて、というやり方もありだが、できれば最終手段にしたいところ。
「一度、竜達のいる場所に向かって情報を集めるか」
『とはいえ、期待は薄いぞ』
「かといって今の状態で攻撃しても……ただ、あんまり時間的な余裕もないか」
ここは強引に押し通るしかないか。面倒な戦いになりそうだ――と思った時、オルディアを観察する使い魔から報告が入った。
「……ん、何をする気だ?」
『どうした?』
「オルディアが目の前にいる敵軍の近くにいるらしい。行軍を観察しているみたいだが……」
何か探しているようにも感じられる……と、ここで俺は推測した。
「もしかして、オルディアは当該の魔族を探しているのか?」
『竜対策を施す魔族を?』
「その可能性はある……オルディアはかねてから竜と魔王軍との戦いを観察していた。竜が倒されているところも見ていたはずだ。そして彼は魔王軍に所属していたわけだし、魔族の情報を持っている……どの魔族を撃破すればいいのかわかっているのかもしれない」
俺は敵軍を見据える。魔王も動き出している今、あまり時間を掛けたくない。俺が単独で攻撃すれば魔物達は散り散りになり、周辺にかなりの被害が出るだろう。いや、俺のことが知れ渡っているとなると、そのまま退散を始めるかもしれない。ひたすら逃げの一手となれば、撃破するのにかなりの時間が掛かるだろう。
一番いいのは、竜対策を行う魔族を撃破し、なおかつ竜を討つ武器も破壊。そのタイミングと同時に竜が猛攻を仕掛け、連携し撃破するというやり方だろう。竜と協力することが軍を壊滅させる一番の近道である以上、間違いない。
「……オルディアに会ってみよう」
『事情を説明し協力を申し出ると』
「ああ。ガルク、竜側に連絡を行い、いつでも仕掛けられるように指示を」
『目標の魔族を撃破後、一気に畳み掛けるということだな』
「その通り。できるか?」
『タイミングがややシビアだな。ルオン殿の動きによってどういうことになるか変わって来るだろう』
……敵軍を迅速に撃破するには、俺の動きが重要というわけだ。
「よし、行くとしよう」
俺は木から下りる。敵に見つかるわけにはいかないので、なるべく急ぎつつも慎重に動き出した。




