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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王との決戦

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光と闇

 敵軍の中心部で渦巻く魔力。シェルダットが本気を出したのだろうと推測でき……さらにどんどんと膨らんでいく。


「相当大規模じゃないか?」

『ルオン殿をそれだけ警戒しているということだろう』


 ガルクの声を聞きつつ、俺はひたすら敵軍へ近づく。直後、動きに反応した魔物が一斉に襲い掛かろうとする。

 だが、次の瞬間――レスベイルが出て、迫る敵を全て斬り払った。


 そして俺を守護するように前に。刹那、さらに前方からの魔力が膨れ上がった。


「さて、どう応じるかな」

『魔族の全力となれば、相応の対応をせねばなるまいな』


 ガルクが語る……やがて見えたのは、軍の中心と言える場所で魔力を溜めるシェルダットの姿。


「気合が入っているな」

「まあね」


 こちらの言葉に事もなげに応じるシェルダット。ただしその顔には笑みは存在せず、にらむような視線を送っている。

 さて……俺がさらに前に出ようとした時、周囲にいる魔物達が動き出そうとする。それは明らかにシェルダットを守ろうとする所作。魔力収束を成し終えるまで、魔物達が食い止めるということか。


 俺は詠唱を開始。魔物達の雄叫びが響き、俺へ攻撃を仕掛けた。

 それをレスベイルが阻む。大剣の一振りで例外なく魔物を吹き飛ばし――それほど時間をかけず、俺は『ルーンサイクロン』を発動させた。


 豪風が舞う。目標は無論シェルダット。風の刃が魔物を消し飛ばし、魔力を収束するために隙の生じる相手へ――


 けれど、手前で風が消し飛んだ。


「障壁……!?」


 そこで気付く。透明で見えにくいが、目を凝らせば魔物達の姿が若干揺らめいている。


「――感謝するんだね。ここまで僕らに使わせたのだから」


 シェルダットの声が聞こえた。その時、魔物の断末魔を耳にする。

 俺が倒したわけじゃない。見れば、シェルダットの近くにいる赤髪の魔族――そいつの周囲で魔物が滅んでいる。


『魔物を瘴気に分解し、障壁を構成しているのか』


 ガルクからの言葉……赤髪の魔族の能力は瘴気を用いて障壁を構成する能力か。つまり、軍を成す魔物達を全て滅さないと、突破できないということか。

 シェルダットはなおも魔力を収束させている。障壁越しでもはっきりとわかる。それこそ、自身の魔力を全て引き出し俺へぶつけるような気配。


 魔物を分解し障壁を構築するにしても、強度については限界があるはず。最上級魔法を用いれば強引に突破することだって可能かもしれないが、シェルダットの攻撃はそれほど経たないうちに行われるだろう。奴の攻撃は防ぐか叩き潰したい。なら――


「ガルク、あの魔族の全力に正面から激突して、勝てると思うか?」

『……愚問だな』


 ガルクが言う。俺は笑みを浮かべ……詠唱を開始する。

 こちらもまた、魔力を高め始める。シェルダットは意図を察したか、さらに魔力を膨らませる。


 一時、俺の詠唱する声と風の音だけが周囲に満ちる。奇妙なほど静まった戦場だったが――均衡は、シェルダットが魔力を解放したことであっさりと終了した。


「貴様は目的において最大の障害となる。ここで、消す」

「来いよ」


 一言。シェルダットは次の瞬間、魔力を解放し、その正面に漆黒の塊を生み出した。


 ――例えば、奴と神霊が正面から激突した場合、おそらく神霊が勝つだろう。高位魔族とはいえ神霊の力にはさすがに及ばない。過去神霊との戦いに勝った俺ならば、十分対抗できると考えられる。


 しかし神霊達も全力とはいえ体に眠る魔力全てを絞り出したわけではない。対する今のシェルダットは、命を捨てること前提とも言える魔力量。果たして――


「覚悟は、できたようだな」

「ああ」


 魔族の返答に俺は返事をして魔力を解放。光属性最上級魔法『ラグナレク』。俺の頭上に巨大な光の剣――巨大な闇と鋭い光。どちらが勝つのか。

 レスベイルが俺の横に来て、いつでも動けるよう待機する。いざとなれば俺をかばえるような感じだろうか。


 光と闇が発する魔力が、少しの時間漂う。けれどそれは一瞬。シェルダットが腕を振り上げた瞬間、俺は全身に力を入れた。

 刹那、剣と漆黒が放たれ、激突する。中間地点でせめぎ合い、魔力の奔流と衝撃波が荒れ狂う。


 シェルダットの全力を、光の剣は受け止めている。力は拮抗――いや、違う。


「――何故だ」


 そんな声を、俺はしかと聞いた。見ればシェルダットの顔が驚愕に染まっている。ほんの少し……光が、闇を押し始める。

 全身全霊の力も、通用しない。そう理解したシェルダットは、間違いなく絶望した。本来人間達に絶望を与える存在が、恐怖した。


 それが僅かに力を緩める結果に繋がり……光の剣は、一気に闇を突き破る。障壁を構成していた魔族も驚愕し――魔物の分解は追いつかず、光の剣は闇に続き障壁をも消し飛ばす。


 光が地面に着弾――膨大な魔力と閃光が花開くように四散した。






『……改めて思うが、途轍もない力だな』


 ガルクが語る。俺は肩をすくめて応じた後、閃光が消えた戦場を見据える。

 光の剣は、シェルダットの近くに突き刺さった。本当は奴を狙ったはずなのだが、闇の塊と障壁によって若干軌道が歪んだらしい。


 ただ、爆心地近くで無事なはずがない……のだが、シェルダットは片膝をつき満身創痍の状態だったが、生きていた。代わりに障壁を構成していた赤髪の魔族や、周囲の魔物が消し飛んでいる。

 赤髪の魔族は咄嗟の判断で、シェルダットを守るよう動いたのかもしれない。


「……シェルダット以上の力を持つ魔族はこの場にいない。あれ以上の攻撃はないだろ」

『うむ……とはいえ、まだまだ軍は残っている』


 そうしたガルクの声を聞いた瞬間、魔物達の雄叫びが天に轟いた。


「来るみたいだな」

『最強の攻撃が通用しなかった。残された手は、数で押し潰すしかない』


 魔物達が進撃を開始する。まるで怒りを抱くかのように、俺に咆哮を発しながら突撃してくる。


「ガルク、ザーム達に突破した魔物の処理を頼んでくれ」

『構わん……が、魔物の状態を見るに、狙いはルオン殿のようだぞ?』

「俺ばかり狙ってくるんだったら好都合だ。全部消し飛ばしてやるさ」


 剣を鞘にしまい、槍を魔法で生み出す。広範囲に攻撃するならばやはりこっちの方がいい。


「レスベイル」


 次いで精霊の名を呼ぶ。翼を広げ、大剣を構える姿。

 戦闘態勢は整った――と考えたところで、俺はふと迫る魔物達の隙間からシェルダットを捉える。


 まだ生命の灯は消えていないが、動かずただ呆然とこちらを見る姿を見て、力など残っていないと悟る。

 そんなシェルダットに、魔族が駆け寄ってくる。指示を仰ぐ気なのか、それとも何か報告にやってきたか。


『魔王にも、この情報は渡ったと考えていいだろうな』


 その時、ガルクから声が。


『魔族ならば、魔王に情報を渡すことはすぐにできるだろう。魔王が動き出す兆候はあった。それが急進的になる可能性もありそうだ』

「……そうだとしても、目の前の魔物を倒し現場に急行できる時間はありそうだな」

『立ち会うのか?』

「ああ。何かやれることがあるなら協力するよ」


 俺が声を発したと同時、悪魔が先陣を切り俺へと拳を振りかざす。こちらはそれを見極め、槍を振り瞬く間に撃破する。

 続けざまに後続の魔物も一蹴。悪魔やコボルト、オーガなど最早関係がない。半ば統制の取れていない、俺を倒すための濁流だった。


 その中で、俺は構え直し――全てを滅するべく、槍を薙いだ。


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