全力の一撃
迫るオーガを見据え、俺は槍を構える――オーガ、といってもその身長は三メートル近くある。ハイオーガという上位種で、巨体故に攻撃範囲も広い。物理攻撃しかしないのだが、その攻撃範囲から後衛まで攻撃を食らい戦闘不能に……というパターンがゲームにはあった。
「図体がでかくとも、通用しないぞ」
言及したが、シェルダットは余裕の表情を崩さず突撃させる。
ならば――俺はまずハイオーガへ向け『ホーリーランス』を放った。槍は恐ろしい速度でオーガの胸部を貫通し――だがそれでも歩みを止めない。
「何……?」
「無駄だよ。君の能力が結構なものだとこちらも把握している。その対抗策をとらさせてもらった」
シェルダットが言う。さらに近づく魔物を見据え、俺は先ほどと同様『ルーンサイクロン』を使用するべく詠唱に入ろうとして――気付く。
ハイオーガを始め、近づく部隊は魔族の力によって操られている。胸部を破壊しても消滅せずに動いているのは……魔族が無理矢理魔力を維持しているからか。
もしそうした処置が隊の魔物全てに施されているとしたら――
「君の魔法から、どの程度の力を持っているか推察させてもらった。さすがにこれは対応できないだろう?」
俺の力量を推測し、魔物を無理矢理維持して強引に突破しようとする気か。いや、この場合は俺を始末するべく仕込んだ策か。
ただ、シェルダットには落ち度がある。まだ俺の方も全力を引き出したわけではない。魔族側からすれば俺のような規格外の能力を持つ人間の存在などいるわけがないと認知することだろうし、現在の俺の能力から「これが底」だと認識してもおかしくない。
さて、どう動くか――思考する間に、ハイオーガが迫る。
「万策尽きたかな?」
さらにシェルダットが語り……ここで決断。槍を握り、迎え撃つ構えを見せる。
直後、胸に穴を開けたハイオーガが接近する。さらに後続の魔物も勢いが増す。
呼吸を整え、槍に力を込める。近づいてくる魔物達に対し――魔力を解放した。
風属性上級魔導技『聖の風』。光の粒子を伴った旋風を前方広範囲に撒き散らす技で、多段ヒットもする強力な攻撃。
加え、出力は今までよりも上――刹那、シェルダットの表情が変わった。
次の瞬間旋風が俺の正面に舞い――胸に穴を開けたハイオーガが消し飛ぶ。
さらに、後方にいる魔物も多少滅び……俺はここで詠唱開始。先ほど以上の魔力収束を伴い、なおも進撃してくる魔物達へ左手を突き出す。
「――滅べ」
風属性上級魔法『ルーンサイクロン』を使用。豪風が周囲を舞い、魔物達と正面衝突した。
シェルダットは策を仕込んでいたわけだが――彼の予想に反し、魔物達は刃により一気に消し飛んでいく。
「……なるほど、まだ上があるのか」
ここに至りシェルダットの声にも警戒が混じる。とはいえまだ俺の能力全てを理解したわけではない様子。俺はなおも襲い掛かってくる魔物を迎撃し……突如、進軍が止まった。
シェルダットの方を見る。彼は視線に気付くと短距離転移で姿を消した。
『どうする?』
ガルクが問う。俺はしばし考え……後退し始める魔物を眺め、呟く。
「様子を見よう……ガルク、魔狼の援軍は?」
『直に到着するぞ』
「なら、魔物達が四散しないよう軍を包囲するようにしてくれ」
『四散? なぜだ?』
「魔族側も次から本腰だろうから、指揮する魔族がやってきてもおかしくない――」
そう返答した直後、先ほど立っていた場所にシェルダットが現れる。
「お待たせ」
「準備はできたのか?」
「まあね……さすがに、この状況では認める他なさそうだ」
肩をすくめるシェルダット。その時、上空の使い魔から報告。軍ではなく魔族がこちらへ近づこうとしている。
「君の目的は何だい?」
シェルダットが問う。俺は相手を見据え、
「お前達をここで叩き潰すことだ」
「そのための刺客、といったところかな」
視界に魔族が入る。黒衣に身を包む奴や、鎧を着込む奴。人間のような奴もいれば、見た目が悪魔とほとんど変わらない者もいる。
その数、十体以上。魔物では埒が明かないと悟り、魔族達が直接動いた様子。
「……ここにいるのは、魔族でも精鋭なのか?」
「そうだね」
こちらの問いにシェルダットは認める。
「悪いが、これ以上遊ばせるわけにはいかない。叩き潰すよ」
「できるものなら」
呼吸を整え、槍を構える。シェルダットを含め、魔物の指揮を行う魔族も混ざっているだろう。まだ軍も残っている状況だが……やるしかないな。
「来るならこい。引導を渡してやるよ」
「なら、そうさせてもらうさ――!」
シェルダットが動く。他の魔族達も一斉に動き出し、俺を包囲するように襲い掛かってくる。
絶望的な状況――と、傍から見れば思ったことだろう。
『――いけ、ルオン殿』
そうガルクは言う……次の瞬間、俺は槍を投げ捨てた。
「何……?」
シェルダットが声を発する。魔法で生み出した槍は空中で消え、それと引き換えに俺は詠唱を開始する。
使用する魔法は『デュランダル』。俺が最も得意とする魔法であり、一気に魔力を引き上げる。
そして俺は、内に眠る魔力を爆発させるが如く解放した。
「な――」
シェルダットが、俺の能力を察する。
刹那、光の剣は俺の周囲を薙いだ。その結果襲い掛かろうとしていた魔族に斬撃が入り――たった一撃で、シェルダットを除き消滅した。
奴だけはこちらの刃が届く寸前に短距離転移で回避する――あいつは後だと思いながら、攻撃範囲に入っていなかった魔族達へ視線を送る。彼らは例外なく顔を驚愕に染めていた。
大きな隙。俺は猛然と駆け、剣の間合いに入れる。
魔族達はここでようやく動き出したが、決定的に遅かった。俺の一振りにより残っていた魔族達は光の剣を受け、完全に消滅した。
「……あっけないな」
『ルオン殿の手にかかれば当然の結果だろう』
そんなガルクの言葉を聞きつつ、視線を転じる。唯一残ったシェルダットが、半ば呆然と立ち尽くしていた。
「馬鹿な……貴様……」
シェルダットは俺へ首を向け、呻く。攻撃したいところだが、何かしら動作を見せた瞬間逃げるだろう。
だから、俺は口を開いた。
「力の全容を悟られないようにしたのも、作戦だったというわけだ」
同時、魔物達が一斉に咆哮を上げた。暴走するかと思ったが、まだ動き出していない。
「指揮官を担っていた魔族も多数いたはずだ。それでも暴走しないのは、残った魔族が必死に制御しているからかな?」
「――なるほどね、よく理解できたよ」
推測を述べた瞬間、さらにシェルダットの声が。
「根本から間違っていたようだ……けれど、終わりじゃない」
「さっきの魔族は、相当な主力だったはずだろ? 魔物の数はまだ相当なものだが……どう戦うつもりだ?」
シェルダットはこちらの問いに答えることなく姿を消す。俺は息をつき、一度魔法を解除した。
「さて、次はどういう手を打ってくるか……」
『ルオン殿、援軍が来た。魔狼達は、退路を塞ぐようにして軍を囲んでいる』
ここでガルクからの報告。俺は頷き、残る敵軍に目を凝らす。
「シェルダットが何をするかわからないから、まだ動くなと伝えてくれ」
『わかった……考えられるとしたら、全軍突撃か?』
「俺の能力がわかった以上、生半可なやり方では通用しないと考えたはずだ。となると――」
その時、軍の中央から魔力の胎動。距離があるここからでもはっきりとわかるくらいに、濃い瘴気。
「最後の策、といったところかな……」
その力の大きさに俺は呟き、ガルクに指示。
「ザームや魔狼達はここで待機だと言ってくれ」
『うむ』
「レスベイル、行くぞ」
俺は精霊と共に走り出す。軍の中心で不気味なほどの魔力が渦巻いている。
何をする気なのか――様々な推測が頭をよぎる中、俺はシェルダットと決着をつけるべく敵軍の下へ向かった。




