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賢者の剣  作者: 陽山純樹
魔王との決戦

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戦争開始

 俺は魔狼達と共に草原に到達し――対する魔王軍はいよいよ草原へ足を踏み込もうとしている段階で、距離があった。


「よし、間に合った。ついでに人はいないな」

『うむ、人的被害が出るようなこともないだろう』


 ガルクの声が頭の中に響く。


『ここで迎え撃つというわけだが……相手は立ち止まるだろうか?』

「止まらなかったら無理矢理止めるしかないな」


 ガルクに答えた後、俺は魔狼の長であるザームへ視線を向けた。すると、僅かに鳴き声を上げ他の魔狼達が左右に展開する。


『傍から見たら、無謀とも言える状況だな』


 さらにガルクが言う……確かに。こちらの戦力は人間一人と魔狼達。ザームを始め狼達の実力は並の魔物なら蹴散らせるようだが、その数はこれから迫るであろう軍と比べれば圧倒的に少ない。

 増援が来るという話だが、その数も軍には遠く及ばないため、捨て身の行動と言っても差し支えないだろう……普通なら。


 やがて敵軍がはっきりと見え始める。筋骨隆々の悪魔を始め、中級から上級レベルのスケルトン、コボルト、ゴブリンといった種族。さらにゴーレムのような魔法生物。デュラハンのような闇の魔物……正直統一感はないが、迫ってくる威圧感は相当なもの。


 とはいえ俺からすれば……神霊と戦った時のことを思えば何程のこともない。


「……さて、ここで戦うわけだが」


 と、俺は頭をかく。


「今更だけど、重要なことをカナン王に言っていなかった」

『何か問題があるのか?』


 ガルクの質問に俺は苦笑する。


「いや、あのさ……草原の地形が変わりますよって言っておいた方がよかったかな、と」

『何だ、そんなことか』

「そんなこと、で済まされる問題ではないだろ」

『場合によっては我らも協力しよう』

「え、どうにかできるのか?」

『我や精霊の力を用いれば、な。完全に元通りというのは難しいが』


 おお、それは助かる。なら思いっきりやれるというものだ。もっとも、大穴を作り出すとかはやめといた方が無難だろうけど。


『ルオン殿、精霊も出しておけ』

「精霊?」

「戦闘能力は与えたのだろう? ならば活躍の時だ。我のような神霊の力が入っているが、ルオン殿の魔力が前面に出るよう調整してある。精霊を出したからといって、能力を看破されることはない」


 ――精霊を作成後、ガルクの言う通り最低限の戦闘技能については教えた。魔物を蹴散らすくらいなら、苦も無くこなすだろう。


「そうだな……来い、レスベイル」


 精霊の名を呼ぶ――ちなみにこの名は、この世界に存在する神話に登場する天使の名。意識したわけではなかったが見た目が多少似ているため、そう命名した。

 言葉に応じ、俺の真横に鎧天使が生み出される。


「……しかし、指揮官がバールクス王国を占拠していた魔族とは」


 俺は近づく軍を見据えながら呟く。

 一度、奴とは遭遇したことがある。アルトの妹ステラを助けた時……こうして単独で、しかも戦争で再び顔を突き合わせることになるとは思ってもみなかった。


『ルオン殿、魔族達は魔狼の存在に多少なりとも警戒するだろう』


 ここでガルクの言葉。俺は心から同意し頷いた。


「それは間違いないな」

『とはいえ、数の上からすれば容易くひねりつぶせると思うはず……よって、軍の一部を前に出して仕掛けてくる可能性もある。最初から全力を出せば警戒されどういう動きをするか予測しにくくなる。相手の動きを見て判断するべきではないか?』

「賛成だ。ある程度戦力を削れば魔族達が前に出てくるはず。そこで一気に叩き潰すことにしよう」

『戦力差を考えると、冗談みたいな会話だな』

「頭がおかしくなったか、などと言われても不思議じゃないな」


 返答した時、魔物達の前に魔族が姿を現した。魔物の列をすり抜けてきたのではなく、おそらく短距離の転移を利用しその場に出現した。

 灰色の髪に、黒く禍々しい鎧――以前遭遇したことのある魔族であり、バールクス王国を侵略した魔族、シェルダット。


「話をする気かな?」

『の、ようだな』


 ガルクの声を聞く間に、短距離転移で奴が近づいてくる。


「……ああ、君は前に見たことがある」


 そして俺の姿を確認すると、シェルダットは声を上げ、さらに怪訝な表情を見せる。


「しかし、ずいぶんと思い切った行動だね。君一人と天使……使い魔かな? それと魔狼の群れ……この戦力で、僕らを抑えるつもりなのかい?」


 ――ガルクの言う通り、レスベイルを見て俺の能力を察することはできていない。そればかりか使い魔と誤認……さすが神霊達。


「魔狼をどうやって引き入れたのか気になるけど……」

「悪いが、教えることはできないな」

「あ、そう。で、一応訊くけど君はなぜここにいる?」

「さっきお前が言ったこと……いや、違うな。この戦力で、お前達を叩き潰す」


 シェルダットは一時沈黙。次いで苦笑し始めた。


「勇気ある行動、と言いたくないな。捨て身というか、自暴自棄のような行動にも見える……というか、どうにかなると思っているのかい?」

「信じられないって雰囲気だが、どうにかなると考えているからここにいる」

「本気かい? 正気とは思えないな」


 どこまでも信じられない様子……もっとも俺がシェルダットの立場なら、同じことを思うだろうな。


「実際に戦ってみたらわかる話さ」


 ――その言葉と共に、シェルダットは笑みを収めた。


「ふん、なるほど。人間側としては兵力が足りないから、何か策を仕込んだというわけか。しかし人間が君一人とは、他の人々はずいぶんと薄情じゃないか」

「こっちにも色々と理由があるんだよ」


 そう返答した俺にシェルダットは「そうかい」と一つ声を発した後、俺に背を向けた。


「一応警告しておく。尻尾を撒いて逃げるなら、見逃してあげるよ」

「悪いがそうもいかないんだ。お前達をここで倒させてもらう」


 こちらの言葉にシェルダットは大袈裟に肩をすくめた。


「聞く耳持たないというわけか。ま、それならそれでいいさ」


 短距離転移が発動する。目の前にいたシェルダットが遠くになり、やがて魔物達が威嚇のためか遠吠えを上げた。

 悪魔などもそれに呼応し、不気味な叫び声が平原に響く。傍から見れば絶望的な状況。しかし俺は平然としたまま、詠唱を開始した。


 相手が動く。軍の中でも一部分が前進する。全軍押し寄せてくる、というわけではないようだ。


『ふむ、相手は策がどのようなものか調べ始めたようだ』


 ガルクが言う。俺は詠唱を終えた後、反応。


「調べ始めた?」

『もし軍を抑えるとなれば、魔法陣などを活用した魔法だと推測したのだろう。魔族の魔力が、地中を探っている』


 ああ、なるほどね……軍の一部を前進させたのは、こちらの様子を窺う意味合いだってあるのかも。


『魔族達は魔力探知に敏感であるためその程度のことは平原に到着した時わかっているはずだが……それでも警戒するというのは、ルオン殿が怪しまれているのか?』

「念の為、といった程度だろ。ここで失敗したら魔王に滅されてもおかしくないからな」


 ま、その行動は全て徒労に終わるわけだけど……考える間に、軍の一部がこちらへ向かってくる。全軍で押し寄せられたら突破されてしまう可能性もあったのだが、動いたのは一部。


 俺達としては、理想的な展開と言える。


「さて、それじゃあ始めるとしようか」


 剣を抜き、戦闘態勢に入る。魔狼達も動き出し――準備は整った。


『ルオン殿』


 攻撃を開始する前に、ガルクからの呼びかけが。


「どうした?」

『武運を祈る』

「ありがとう」


 魔物や悪魔が迫る――俺は呼吸を整え、魔狼と共に戦争を開始した。


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