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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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戦場へ

『……ルオン殿、どうした?』


 硬直した俺に対し、ガルクの声が頭の中に響いた。


「……ガルク」

『うむ』

「魔王の魔法対策は?」

『例えば今魔王が魔法を発動させようとしても、対応できるぞ』

「……そうか」


 俺は一つ呟き、考える……今、砦にはカナンが最後の挨拶に来ている。不安を煽るような結果になりはしないかと思うが、だからといって何も話さないのは――


『どのような内容だ?』


 ガルクが問う。それに俺は答えると――


『ほう、そうか。しかし何も話さず、というのはさすがにまずいのではないか?』

「……だよな」


 俺は息をつき、歩き出す。この時間なら会議室にいるかもしれない。

 歩いていると騎士の一人に遭遇し、カナンの居所について尋ねる。そしてやってきた会議室にいたのは――


「……丁度良かった」


 カナンとソフィア、そしてシルヴィだった。


「ルオン殿のことを呼ぼうと思っていたんだ」

「この面子ということは……事情を把握している面々だけで話を?」

「最終確認の意味を込めて」


 カナンは頷くと、俺と視線を合わせ口を開こうとする……が、


「……呼ぶ前に来たということは、何か悪い知らせでも?」

「話すか話さないか迷ったが、さすがにカナン王には伝えようかと」

「内容は?」


 聞き返す王に対し、俺はソフィアやシルヴィ達へ一瞥した後、言った。


「……北部に居城を構える最後の五大魔族、ノストアが居城を破壊した」


 ――その言葉に、ソフィア達は沈黙する。


 破壊した、というのが解せないだろう。ただ俺には理解できる。ゲームの中に存在していたイベントだからだ。


「居城を破壊したというのは、即ち魔王側も魔法を完成させたことを意味する」

「しかし、魔王が動き出すのは南部の戦いが終わってからだろう?」

「そのはずだったんだが……ノストアが動き出しているところを見ると、どうやらそういう話じゃないらしい」


 俺の言及に――ソフィアも察したのか、口元に手を当てた。


「もしや、魔王が動き出そうと?」

「おそらく。しかしまだ魔王自身を確認したわけじゃない。だがノストアが居城を破壊し動き出したというのは、魔王がいよいよ動き出す流れだと思ってくれ」

「対策は、できているはずだな?」


 カナンが問い掛けると、俺はすぐさま頷いた。


「ああ……神霊達が魔王の魔法を止めるべく待ち構える。俺も、もし間に合えば現場に急行しようと思う」

「わかった。こちらは全力で魔物達を食い止める。ルオン殿も頼む」


 ――南部侵攻についてだが、一日くらいの戦いで終わるのか、それとも時間の掛かる戦いなのかわからない。これもまたネックだ。

 もしにらみあいのような状況になれば、俺もやるべきことを片付け援護に向かえるかもしれない……どちらにせよ、西部の戦いを終わらせてからだな。


「今すぐ出立する。カナン王、御武運を」

「ルオン殿も」

「ルオン様」


 ソフィアが声を上げた。不安げな表情を一瞬見せたが、すぐ表情を改め、


「御武運を」

「ああ」


 部屋を出る。次いでガルクの声が聞こえた。


『ルオン殿、魔狼についてだが……』

「ああ」

『西部に存在する魔族達に対応すべく既に動いている。迎え撃つ場所を指定してもらえれば、その場所に急行するよう指示できるぞ』

「わかった……ならゾナク平原にしよう」


 大陸西部と中央を結ぶ道はいくつもあるが、魔族達の行軍ルートはその平原を目指している。この道は、人間側の拠点へ最短距離で行ける。


『うむ、場所はわかった。事前に平原へ移動するよう通達しておく』

「戦いの前に挨拶なんかはできないかな?」

『そうだな、一度魔狼の長と顔を突き合わせるべきか』

「話し合いの時、どう立ち回るかは改めて相談することにしよう」


 そう明言し、俺は砦を出て――西部の魔族軍へ向け移動を開始した。






 目的地へ向かう最中、俺は逐一使い魔により状況を探る。南部から押し寄せる魔物達と人間側が、いよいよ出会うことになりそうだ。

 とはいえ魔物達の動きは近づくにつれやや鈍くなっている。それはまるで何かを待っているかのような――


「……なるほど、そういうことか」


 俺は理解する。ゲームにおける南部侵攻は基本、魔族側の最大の作戦であり兵力の多くをそこに傾けた。魔王としても乾坤一擲の戦いと言えたはず。


 よって、もしゲーム通りであるなら魔物達は問答無用で突撃していただろう。人間側が悠長に布陣を整えるような時間も与えず、一気に攻めた方が有利に戦況は進む。だが魔族達は軽々に攻撃を開始しない様子――その原因は、間違いなく北部と西部に大規模な軍がいるからだ。


 つまり、南部からの軍は北部と西部の挟撃をするつもりでいる……北部は竜に抑えられ来ることができないが、西部については人間側が対処できていない。よって西部からの軍を待って戦うつもりなのだろう。


 五大魔族同時撃破を行ったことは魔王にも少なからず衝撃を与えたはず。だからこそ今回、戦力も残っていることから挟撃という形で押し潰そうと考えた。カナンが集めた戦力はゲームの時と比べ多いとは思う。しかし西部からの軍に対応できるほどの余裕はない以上、そうした作戦は正解だろう。


 加え、西部の軍を観察する使い魔が、その全容を視野に捉えた。魔物や悪魔が列を成し侵攻する様は圧巻であり、まさしく絶望的な光景だ。


 もっとも、その軍も俺がいる以上は――


『忙しそうだな、ルオン殿』


 ふいにガルクの声がした。


「忙しい?」

『西部の敵を倒せば、今度は魔王の魔法を封じる場所に立ち会うつもりだろう?』

「まあ、そうだな」

『その後、南部の戦争に参加する気だな?』

「……ああ、もちろん」


 確かに四方に飛び回っているのだから、忙しいな。

 五大魔族のノストアについては、居城を破壊したがそれから動きはない。けれど間違いなく魔王と共に動き出すだろう。注視しなければ。


『ルオン殿、我はフェウスやアズアと共に魔王の魔法と止めるべく備えておく。よって、援護に行くことはできないぞ』

「わかっているさ。ガルク達はそっちに集中してくれ」

『うむ……と、ルオン殿。魔狼の長が近くにいるぞ』

「本当か? なら一度会っておこう」


 俺はガルクから指示を受け、魔狼がいる場所へ。そこは街道に程近い草原であり、狼の群れを発見した。


 狼、といっても体長は一回り以上大きく、中には三メートルを優に超える巨大な者もいる。毛並みはほとんどが白く、太陽の下でずいぶんと映える。

 その中でどれが長なのかは一目でわかった。魔力をみなぎらせる……金色の毛並みを持つ、ずいぶんと美しい狼だった。


『ザーム、久しいな』


 子ガルクが肩に出現し、呼び掛ける。すると金色の魔狼――ザームは、小さな鳴き声を上げる。


『ルオン殿、この者達は人語を話すことができないので通訳しよう――人間の戦士よ、ガルクから貴殿の話は聞いている。今回の戦い我らも協力する故、魔族を討ち果たそう』

「ああ」


 返事の後、ザームは吠えた。周囲にいる魔狼も魔力を高め、戦闘態勢に入っている様子。


『――我が配下はこれだけではない。直にさらなる援軍が来る』

「それは頼もしい……戦いについてだが、魔族は大きな平原を通過しようとしている。そこで迎え撃つつもりだが……到着するまでに、色々と相談しておきたい」

『――いいだろう』


 ザームは承諾。俺は頷き返し……魔狼と共に、平原へ向かうこととなった。


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