精霊の創生
「精霊の作成は、アーティファクトに魔力を注ぐことから始まる」
そういう文言から始まったガルクの解説。俺は説明を聞きつつ受け取ったアーティファクトに視線を送る。
それは青色に染色された、革のような素材の腕輪みたいな物。紐を使って巻きつけるみたいで、これなら足とかでもよさそうな気がする。
「で、そのアーティファクトを体のどこかに巻くわけだけど、普段から意識して魔力を発している場所の方がいいかな。その方が魔力だって溜めやすいし」
ガルクの言葉を受け、俺は左の二の腕に巻いた。
「よし、できたね」
少年姿のガルクが言う。ここで俺はツッコミを入れた。
「もしかして、ずっとその姿のままなのか?」
「ああ。別にガルクだとバレていないからいいだろ? 神霊か精霊が寄越した使いだとでも思うさ」
……まあ、目の前の少年が神霊だと思う人間はいないか。俺は相変わらず釈然としないけど。
「で、魔力を収束させればいいんだな?」
「ああ。巻きつけた場所に向けて魔力を集める」
言われ、俺は実行する。さすがに魔力を一気に収束したら壊れるんじゃないかと思ったんだが……よくよく考えれば天使のアーティファクトだし、人間の魔力は許容できるか。
少しずつ魔力がアーティファクトに溜まり始める……と、多少の時間が経過した後、ガルクが止めに入った。
「今はそれでよし。うん、僕から見て魔力の漏れもない。魔族に露見することもなさそうだ」
「これから戦いにいく以上、もうバレてもいいんだけどさ」
「ほら、ギリギリまで魔力を明かさず油断させた方がいいだろ? さて、ここから精霊の作成に入る」
「ああ」
「イメージした精霊の姿を思い出しつつ、体に取り込んだ精霊の原型を取り出してくれ」
言われ、俺は目を閉じる。精霊の原型というのは、おそらく神霊達が魔力を収束させた光の事だろう。
あれ以降一度も引っ張り出してないけど……しかし、頭の中で出てこいと指示したらあっさりと現れた。
「成功だ。次に、イメージを維持したままアーティファクトに溜まった魔力を注ぐ」
「了解」
言われるがまま左腕を光へかざし魔力を流す。結構神経を使う。
「その状況を維持し、ゆっくり魔力を注ぐんだ。成功すれば、イメージした精霊が姿を現す」
俺はなおもイメージを繰り返す。天使のような翼を持った、鎧姿の精霊――
そこまで想像した時、光が膨らみ始めた。おお、なんだか形になりそうな気配だ。
「……あ」
その時、ガルクが突如声を上げた。それはなんだか嫌な予感がするものであり――
「おい、どうした?」
「いや、一つ訊きたいんだけどさ、大きさってどのくらい?」
「は?」
「だから、生み出す精霊の大きさだよ」
言われ、俺はイメージした天使がどれほどの大きさなのかを考え、
「俺よりも大きいぞ。体格も一回り以上は――」
「そのくらいの大きさを持った精霊がここに瞬間的に生み出されるとなると、爆発するな」
「は!?」
おい、先に言え――言い終えぬうちに、室内が光に包まれ、ガルクの言う通り、爆発した。
耳につんざく轟音と体に感じられる衝撃。自分の体が吹き飛んでいるのだろうという推測はできるのだが、衝撃によって上も下もわからないような状況になる。
魔力障壁を構成したのでダメージはないけど、爆発の渦中にいると感覚が喪失するからかなり危ないな……などと冷静に分析した時、背中に衝撃が。痛みはないけどたぶん、ドアをぶち破ったんだろう。
そのまま廊下に飛び出し床に倒れ込む。偶然近くにいた騎士が、呆然と俺のことを眺めているのがわかった。
「……最初に言えよ」
俺は天井を見ながら言葉を零し……やがて、聞き覚えのある声が聞こえた。
「――おい、どうしたんだ!?」
アルトだ。俺はゆっくりと上体を起こしつつ、駆け寄ってくる彼に視線を……あ、後方からソフィア達もやってきた。
「ル、ルオン様!? いかがしましたか?」
「敵ですか!?」
その横で剣を構えるエイナ。爆発音を聞きつけ他の騎士なども近寄ってきており……騒動になってしまった。
「あー、えっと」
その中で俺はどうにか声を出す。爆発の結果やはり傷はないのだが頭がちょっとクラクラする。これはあれだな。衝撃じゃなくて間近で閃光が炸裂したからだろうな。
「いや、ちょっと使い魔の生成実験をしていたんだよ」
精霊の作成、などと言うと面倒なことになるので俺がそう述べると、エイナが訝しげな表情を見せた。
「使い魔を生み出す実験で、こんなことが起こるのですか?」
「いやまあ、魔力を込め過ぎたんだよ」
と、ここで俺は視線を部屋の中へ移す。扉が破壊され中を覗き見ることができるわけだが、ガルクは既にいない。そして――
「とりあえず実験は成功だな」
呟きつつ立ち上がる。部屋の中にいたのは、天使の羽を持つ、二メートルを超える身長を持つ全身鎧の精霊だった。
天使、というよりは重騎士と言った方がいいだろうか。騎士やソフィア達がそれに視線を送ると、図体のでかさに驚いた様子だった。
「今後は気を付けるから。あ、部屋の片づけもきちんとするから。扉は……直さないといけないけど」
俺の言葉に騎士達は互いに顔を見合わせ――エイナが口を開いた。
「今後、気を付けてください」
その後駆けつけた騎士達に指示を出し、彼女はこの場を退散していく。アルトも立ち去り最後にソフィアが残り、
「……精霊、ですか」
「ああ。魔力が勢い余って膨らんだ結果がこれだよ」
苦笑する俺。とはいえ、これで完成だ。
「魔力の解析能力を始め、色々と力を与えるのはこれからだな」
「そうですか……ルオン様」
「ん?」
「無理だけは、なさらぬよう」
念押しするような声音。それに俺は頷き返す。
「もちろんだ」
「……では、私も戻ります」
立ち去るソフィア。俺一人だけが残り、どうしたものかと頭をかく。
「――思った以上に被害が大きかったね」
ガルクの声。いつのまにか精霊の横に立っている。
「ま、ひとまず精霊は生み出せたんだ。良しとしようじゃないか」
「……先に言ってくれよ」
「失念していたんだよ。ごめんごめん」
反省の色がまったくない……まあやってしまったものは仕方がないので、話を進めよう。
「で、精霊を生み出すことには成功したけど、これからどうすれば?」
「精霊に色々と勉強させないといけないけど、それもまた魔力を通してだ。やり方についてはきちんと教えるから心配しなくてもいい。あ、それと名前くらいは決めておいてくれよ」
「わかった」
……とりあえず、ここから地味な作業が待っているようだ。
「ガルク、途中で魔族達が動き出したら、そっちに行くからな」
「わかっているよ。それじゃあ今から――」
「いや、待て。さすがに部屋の中が無茶苦茶だから今日はなしだ。片付けをしないと」
余計な仕事が増えた……愚痴を零したい衝動を抑えつつ、俺は扉の無くなった部屋へと入った。
――そうして精霊に対し試行錯誤をする間に、いよいよ戦いが近づいてくる。カナンが南部から侵攻する魔王軍に対抗すべく軍を南に動かす。魔物達は四方の土地を蹂躙してもおかしくなかったが、脇目もふらず北へ突き進んでいる。
また、大陸北部に集った魔族達は竜達の妨害を受け進軍を阻まれている。さらに東部にはナテリーア王国を始め魔族からの侵攻を受けていない国々が監視の目を光らせている。もし来るとなれば、やはり大陸の西側の軍勢。
「で、それもどうやら動き出したみたいだな」
バールクス王国を制圧している魔族、シェルダットが動き出している。どうやら奴が総司令官らしい。
「まさしく総力戦だな……魔族側も傾きかけた戦況を再度ひっくり返そうとしているわけか」
リチャルの話から推測すると、この南部の戦いで人間側が敗北することは大陸崩壊ルートに突入する可能性が高い――魔族側としても総力戦だが、人間側としても正念場だ。
しかしリチャルが周回を重ねた時と比べれば状況は悪くないと思う。人間側の戦力も十分であり――
その時、使い魔から報告が入る――それは、シェルダットが動き出したのと同様、シナリオとは異なる内容だった。




