彼の提案
「まず南部侵攻に対する兵力について」
カナンの言葉を受け、部屋にいた面々は俺を含め彼に視線を集める。
「この大陸で十分すぎる面々を集めた。さらに竜達が協力してくれることによって、北側にいる魔族達が侵攻してこない。これは非常に大きい」
「統制はとれているんですか?」
俺が問うとカナンは頷きつつも、難しい顔を見せる。
「問題点は二つあるが、一つ目がそれだ。私達は国という境を越えた軍……連合軍という立場だが、当然ながらしがらみもある」
「魔王を討ち果たした後のことを考え、色々動き出している面々がいると」
「その通り。今はまだおとなしいし、私もできる限りの対応はするが――ルオン殿」
「何でしょうか?」
「ソフィア様を含め、貴殿とその仲間……さらに、冒険者の面々については問題ないよう対応するが、今回の戦争後何者かが干渉してくる可能性もある。まだ魔王との決戦が控えている。人間側の動向でその戦いに支障をきたしたくはない」
「そうした事について、話し合っておくべきだと」
「頼む」
「わかりました……大丈夫ですか?」
質問に、カナンはゆっくりと頷いた。
無理をしているのは間違いないだろう。けど、政治的なことについては俺が動いてどうにかなるような話でもない。ここは彼に任せるしかないか。
と、ここで俺はシルヴィを視線に入れる。彼女を含め仲間達のことを訊くタイミングとしてはいいかもしれない。
「カナン王、一つご質問が」
「どうした?」
「俺達の仲間について……この南部侵攻ではどういう形で戦うのですか?」
「……参加してもらうのは間違いないが、最初から前線に立たせるわけではない。現在この砦に滞在している他の賢者の血筋や、その仲間についても同じだ」
「死なせるわけにはいかないと?」
「それもある……私の考えだが、戦争は軍が行うものであり、冒険者達の力を借りることなく対処したいと思っている」
……なるほど、な。カナンからすれば戦争は兵士や騎士が行うもので、それ以外の人物に参加させるべきではないと考えているのか。
「ただし、今回はそうも言っていられない状況だというのも認識しているため、こちらが協力を仰ぐという形をとらさせてもらう……軍が主導で動いていることにより、ルオン殿を始め冒険者の面々の中に不満を抱く者もいるだろう。けれど今回ばかりはこちらで対応させてくれ」
「……わかりました」
返事をすると、カナンは次にソフィアへ話を向けた。
「そして、ソフィア様についても同じ」
「カナン……」
「あなたは、重要な戦いが控えている」
魔王との戦い――万が一を考慮し、ここで前線に立つべきではないと言いたいのか。
「ソフィア様やバールクス国王が健在なことにより、兵の士気も上がっています。私が前線に立ち、ソフィア様達が後方に控え士気を高める。これこそ、盤石な布陣でしょう」
「私も陛下の言動に賛成です」
ボスロが言う。するとソフィアは俺の方を見た。
こちらも頷く――結果、ソフィアは「わかりました」と応じた。
「そう言うのなら……しかし、もし危急の時は――」
「状況を見て判断するしかないでしょう。どうかご無理はなさらぬよう」
カナンが釘を刺す。ソフィアとしては頷く他なかった。
フィリやアルト達からすれば、不満の残る結果かもしれない。しかし総指揮をとるカナンがそうした意向を持っているのなら、それに従うべきだ。
「さて、話を戻そう。南部侵攻が終わるまでは、裏で色々と動いている者達も、私の指示に従いはするはずだ。軍そのものが機能しなくなるなんて話にはならないし、そうならないよう全力で動く」
「裏切り者がいるという可能性は?」
今度の問いかけはシルヴィ。カナンは彼女を見返すと、やや間を置いて話し始めた。
「懸念する部分だが、少なくとも指揮官レベルで裏切り者はいない。ソフィア様が契約したレーフィン様の協力もあったため、大丈夫だ」
その辺りは事前に確認しているらしい。まあ軍の中に裏切り者がいるなんて状況になったら戦争どころではないので、当然か。
「騎士レベルとなるとさすがに全てを確認はできなかったが、軍を指揮する面々には説明した。裏切り者がいても対応するよう心構えはさせている。戦局が覆るような出来事は起こらないはず」
断定できるわけではないが、できる限り確認はしたということだな。シルヴィも納得の声を上げた。
「それで、二つ目の問題は?」
俺が問う。カナンは話を戻すと共に、やや重い表情を見せた。
「実は、間者を魔族達に対し放っている。そこから得た情報だが――」
「ちょ、ちょっと待てください。大丈夫なんですか?」
俺が慌てて声を発すると、カナンは小さく頷いた。
「信頼における面々だ。ひとまず露見していない」
何かしら技術があるのだろうか……気になったが、言葉を待つことにした。
「その中でバールクス王国に潜入している者がいる。まだ魔族が占拠しているのは周知の通りだが……どうも、南部侵攻に合わせそちらも動く気らしい。それについてこちらも考慮してはいたが、戦力規模が想定を遥かに超えている」
「――今まで動きがおとなしかったのは、戦力を露見されないようにしていたから、かもしれません」
ソフィアが言う。するとカナンは大きく息を吐いた。
「どうやらそちらにも戦力を傾ける必要がある……だが、南部から押し寄せる魔物の数を考慮すると、余剰戦力は非常に少なく厳しい……ルオン殿、これは物語の中に存在していた流れなのか?」
「物語では、南部侵攻時点でバールクス王国は解放されているケースばかりでした」
「となると、予定外の事象と言えるのか?」
「はい」
「そうか……」
「戦力を割く場合、どれほどになりますか?」
「そうだな……西部からの敵を食い止める場合、相応の兵力を振り分ける必要があるだろう。現在想定されている魔族の兵力から考えると――」
王の表情が厳しくなる。そこで俺は口を開いた。
「かなりの戦力低下になるのは間違いないと」
「ああ」
カナンの言葉を受け、俺は頷いた。
「わかりました……ガルク」
言葉と共に、机の上にガルクが姿を現す。唐突な行動にカナン達は俺に視線を注ぐ。
「確認だが、魔王の魔法対策はほぼ完成しているな?」
『多少の調整は必要だが、発動については可能だ』
「現在の状況で魔法を防いだ場合、問題は生じるか?」
『多少のリスクはあるが、大丈夫だろう』
「こっちが対抗魔法を発動する際、何か必要なものはあるか?」
『必要なもの?』
「例えば、俺が近くにいないといけないとか」
『それはない。神霊である我らがいれば対抗できる』
「わかった。俺のことがバレて魔王が動き出しても問題はなさそうだな……なら、竜以外に精霊が得た戦力なんかはあるか?」
俺の問いにガルクは沈黙した。質問の意図を理解できない様子。
『いるにはいるが……そう多くはないぞ。竜のように足止めをすることができるかは敵の規模を考慮する必要がある……ルオン殿、何をする気だ?』
「バールクス王国の魔族が生き残っていること自体、物語の外の話だ。人間側の戦力は南部侵攻に集中する必要があるし、カナン王の下を離れたらさらに統制がとれなくなる。だから、この方法がベストだと思う」
そう語った後、カナンへ視線を向け――言った。
「俺が行きます」
一言。カナンは言葉の意味が汲み取れず眉をひそめた。ソフィアやボスロも同様で――だから俺は、さらに述べた。
「精霊が味方に引き入れた存在と……俺とで、西部の魔族を迎え撃ち、倒します」




