魔族の集結
魔物達……というかこれは最早軍と言って差し支えない規模が集結する様は、使い魔を通し観察した段階で恐るべき光景だった。
俺が本気を出せば撃破も可能だけど……しかしあれだけの数がいるとなると、さすがに全滅させるのは――最上級魔法を使えば……いや、さすがに一発で全滅させるのは規模を考えると厳しいか。
指揮官である魔族を倒し統率を失わせるのがベストだろうけど、そうなると生き残った魔物が暴走する危険性がある。それはそれで厄介だ。
『どうした?』
悩んでいると、ガルクが尋ねてくる。
「いや、俺がああした軍を全滅させるにはどうすればいいかなと」
『……さすが、我を破ったルオン殿は考えることが違うな』
「へ?」
『退却させるとか追い払うではなく、全滅させる前提で思考するとは』
……確かに人間が魔物の軍を相手にするなら、普通全滅させようとは思わないよな。俺は頬をかきつつどう返答しようか迷い――とりあえず話を進めることにした。
「ガルク。俺はそっちの言葉を信じつつ向かうわけだけど……まだ俺の能力が露見されるわけにはいかないぞ」
『無論だ。我も今回の戦いには加勢しない』
「それでどうにかなるのか?」
『……以前、ルオン殿はレーフィンの住む渓谷で騒動を解決しただろう?』
急に話が飛んで俺は驚く。えっと、騒動というのは――
「悪魔を退治して、竜と話をしたことについて?」
『その通りだ。実は今回考えがあると言ったのは、そのことが関係している』
「……つまり、竜が助太刀にやってくると?」
『そうだ。我が本体が呼びかけ動き出している』
確かに俺は竜の騒動を解決したけど……。
「あれ、そんなに大きな話じゃなかったけど。そもそも助けたのは普通の竜だし」
『竜は同族意識が強いからな。精霊側も上手くその事実を使い交渉したのだろう』
なるほど……上級クラスの竜ならば確かに、魔王『軍』に対抗できる力は持っているだろう。
「しかし、いくら竜でも全滅させるのは難しいんじゃないか?」
『なぜ全滅前提で話をする?』
「え、倒さないの?」
『さすがに竜でも全滅は無理だろう。これはルオン殿の発想がおかしい』
おかしいと言われてしまった……。
『レーフィンから話を聞き、精霊側は竜に依頼を行っていた。人間や精霊でもどうにもならない事態となった時、協力してくれと』
「それが、今回?」
『我やレーフィンの見解だが、南部侵攻という大規模な戦い……おそらく南から攻め寄せる以外にも、魔族が動き攻撃を仕掛けると思っていた。その対策として、竜達の存在がある』
ここで俺はガルクが何を言いたいのか理解した。
「つまり、人間の軍が南部侵攻に対抗する時、竜は別働隊の攻撃を防ぐというわけか」
『うむ、まさしく。今回の状況で言えば、どうやら魔族は南以外に北側に戦力を集中させる動きを見せた。これが南部侵攻と関係があるか不明瞭だが、もしあるのだとしたら、人間を挟撃する可能性がある」
そのフォローに回るのが竜……ただここで疑問が。
「竜の強さを考えると、北の敵を食い止める他にも色々立ち回れるんじゃないか?」
『それは無理だ。絶対数が少ないからな。魔族の軍に対抗できる隊を少ししか編成できない上、魔族としても竜は脅威。必ず対抗策があるはず。今回竜が動けるのは、魔族側も急に集結したことで竜に対する策なども機能しないだろうという考えからだ』
ああ、なるほどね。
『魔族の動向次第では人間達の援護に回ることも考えているが……果たしてそう上手くいくのか』
「こればっかりは俺もわからないな」
肩をすくめる。ゲームの時と比べ状況は大きく異なっている。魔王側が戦いの結果を受けどう動くか完全に読むのは不可能だ。
「……味方が増えるのは好ましいと思うよ。それで、今回は竜が攻撃すると?」
『そのような形となっている』
「なら観戦させてもらうか。場合によっては援護するけど……」
『不要だろう。ところで、物語の主人公についてはどうする?』
「オルディアのことか。何をするのかわからないが、一度顔を突き合わせておくのも悪くないな」
進路は間違いなく魔族の拠点へ向かっている。多勢に無勢なのでさすがに攻撃したりはしないと思うけど。
どうするかは現地へ到着してから考えることにしよう……結論を出しつつ、俺は魔族の集う場所へ急いだ。
魔族達は砦など拠点に移動した、というわけではなく、平地に魔物の群れが集まり集合しているような状態だった。
周囲に人はいない……というか、さすがにここに来るような人間はいないと断言できる。
「……すごいな」
その中、俺は岩場の陰に隠れ、軍と呼べる魔物達を見下ろす形で観察する。やや遠目ではあるが、全体像を確認することができた。
魔物の種類は悪魔に始まりゴブリン、コボルトの能力の低い魔物から巨大な狼のような魔物――そいつは確かシナリオ後半に出てくる魔物。つまりゲームの序盤から後半にかけて登場する魔物がいて、統一性はない。
そしてそれを率いる魔族……指揮官を担える高位魔族が少なくとも十体以上いるのは間違いない。大陸に侵攻していた魔族達が一度退きここに集まったわけで、壮観と言えなくもない。
「人間側がこれをまともに相手すると相当な戦力が必要だな……そして南部侵攻はこの規模の比ではない、と」
魔物の軍というのは改めて厄介だと認識させられる。アラスティン王国における戦いは魔物の種類なども一定であったため、騎士や兵士でも戦うことができた。しかし今回は相当強い魔物も存在している。人間側がどこまで戦えるのか。
『ルオン殿、竜達がこちらに向かっている』
ガルクが言う。俺はそれに返答。
「どのくらいでここに来る?」
『しばらく様子を見ていれば到着するだろう。オルディアという人物についてはどうだ?』
「逐一使い魔で確認しているけど、どうやら魔族達が何をするのか偵察に来たみたいだな。無茶をするつもりはなさそうだし、安心した」
『ならば竜が魔族達を追い払えば終わりだな』
「しかし、竜達は大丈夫なのか? 魔族達に狙われるとしたら……」
『その辺りは竜側に任せてあるが、対策はしているらしい』
平気なのだろうか……と、考えている間に魔物の唸り声が唱和する。
今から攻め始めるというわけではないだろうが、魔物は人間達を襲いたくてうずうずしているのかもしれない。
魔物達はうろうろと動き回り落ち着きのない様子だが、一定の範囲からは出ない様子だ。魔族の命令を受けこの周辺に留まるよう指示を受けているといった感じかな。
『――ルオン殿』
ふいに、ガルクが声を発する。
『竜達についてだが、ルオン殿のことについて説明はするか?』
「まだその辺りの事情を話してはいないのか?」
『ルオン殿の指示も聞く必要があると思ったからな。もっとも、話すとしても竜の長にまずは言う必要があるな』
「竜の長、ねえ」
『どうした?』
「いや、個人的にあんまりいい思い出がないから」
竜の長、というのはゲーム中に存在する。名前は『エルダードラゴン』といい、ゲームタイトルであるエルダーの名を冠する敵である。
直接シナリオに絡んでくることはないのだが、特定のダンジョンに踏み込むと遭遇することができ、もし倒したら有用な武器をくれる。はっきりと思い出せる一周目のプレイ……俺はそのダンジョンへ向かい、ボコボコにされた記憶がある。
レベルが足りなかったというのもあるが、この竜はスイッチが入ると高レベルでも耐え切ることが難しい猛攻を仕掛けてくる相手であるため、極めて面倒。俺自身苦戦した思い出が色濃く残っているエルダードラゴンは、個人的に苦手な相手と言えるかもしれない。
『気さくな竜だぞ。元より個人主義の強い竜は統率など向かないが、今回は一肌脱いでくれている』
「それはありがたい……ただまあ、話をするにしてもまだ先の方がいいかもしれないな」
『了解した』
ガルクがそう応じた直後――俺は空に竜の姿を発見した。




