同時撃破による影響
訪れたのは、大陸中央部に位置する森林地帯。森の中には猟師小屋が存在しており、その中にとある人物がいるのを俺は察していた。
「――来客自体驚くべきことだが、さらにあんたが来るとは二重にびっくりだな」
そう告げ小屋から出てきたのは――リチャルだった。
「ルオンさん、久しぶりだ」
「ああ……近況は?」
「使い魔とかで確認しているんじゃないのか?」
「居場所を特定しただけで、こっちだって始終観察しているわけじゃないから何をしていたかまでは判断できないよ。森の中で色々しているならなおさらだ。で、今やっていることは――」
「魔物を増やしたはいいんだが、これだと敵だと思われるかもしれないな」
苦笑するリチャル。その言葉で何をしていたのか明瞭に理解できた。
「ずっと魔物を生み出し続けていたのか」
「魔物の制御に有用なアーティファクトを見つけたからな。そのおかげでかなりの数を生み出すことに成功した」
笑みを浮かべるリチャル。これで未来を変えられるかもしれない――と思っているようだ。
「ただ、さすがに魔物の軍団を率いているからな。味方であったとしても人間側の軍勢から見れば異質だろう。戦いに貢献した後捕まってもおかしくはないな」
「……覚悟はあるのか?」
「大陸を救えるなら安いものだろ? それに、多大な犠牲を払って食い止めるんだ。俺だけ助かろうなんて虫のいいことを考えているわけでもない」
肩をすくめながら語るリチャル――この世界には本来のリチャルもいる。自分自身がイレギュラーであることを理解しているんだろう。
「一応、その辺りについては話をしておくよ」
「話? 誰に?」
「これから始まる戦いに参加する人物に」
カナンに話をすると言っても信用されない気がしたので、そういう言い方をした。
「少なくとも捕まるなんて話にならないことは約束する」
「どういう人に事情を説明するのか……まあいいさ。なら、お願いしとくよ」
期待はしていないけど、とでも言いたげな表情で応じるリチャル。俺はそんな彼に小さく頷くと、話を進める。
「それで、魔物の姿が見えないけど」
「森中に拡散しているからな」
「……つまり、数が多いから森の中に隠そうと思ったわけか」
「正解だよ。で、ルオンさんは何でここに?」
「世間の情報とかは収集しているのか?」
こちらの質問に、リチャルは何が言いたいか理解したようだった。
「南部侵攻のことだな。居城を構える魔族を四体倒した情報は知っている。それほど遠くないうちに戦いが始まるだろうな」
「戦いが始まるまで、どのくらいなのかわかるのか?」
「いや、残念だけどわからない。四体撃破しそこから南部から魔物達が攻め寄せるタイミングが、周回によってバラバラだったから」
「バラバラ……何か要因があるのか?」
「さあね。俺の動き次第なのかと考えたけど」
……今回はリチャルが周回を重ねた状況と比べてもずいぶん違うだろう。となれば、厄介なことがあってもおかしくない。
「わかった。どんな状況になっても対応できるように備えておくことにするよ」
俺はそう言って立ち去ろうとした……が、リチャルがここで俺に尋ねた。
「ただ、一つ懸念がある」
「懸念?」
「四体撃破した段階で、人間側は盛り返した。といっても南部から大量に攻め寄せた魔物に応じることができなかった以上、ギリギリの戦いだったと見ることはできる」
「ああ。今回は違うと?」
「以前の周回で解放されていた都とかが、まだ魔族によって制圧されているケースなんかがある。バールクス王国なんかがその例だな。話によると居城の魔族を二体同時に倒したらしいが、その辺りのことが関係しているかもしれない」
同時攻略の影響……心の中で呟く間に、リチャルはさらに続ける。
「ただ、人間側の戦力は以前の周回と比べずいぶんと多いように感じられる。都を放棄し後退する魔族もいるらしいけど……予断は許さない状況と言えるかもしれない」
「わかった。ありがとう。リチャルさん、使い魔を通してまた連絡してもいいか?」
「構わない。南部侵攻に合わせて俺は動くことにしているから、そのつもりで頼むよ」
――リチャルから聞いた話としては、戦力は以前と比べ厚みが増しているがシナリオの侵攻が早いという点が問題らしい。さすがに五大魔族を二体同時に撃破したというのはインパクトがあったようだ。
魔王側も二体同時に滅ぼされて懸念を抱く可能性がある……俺はどう立ち回るか思案する。なにより気になるのはバールクス王国を始めいまだ都などを占拠している魔族だ。その動きによって俺の動きも変わってしまうだろう。
シナリオの進行が早いせいで魔族も戦力が残っている以上、注視する必要がある。いっそのこと、そうした魔族に狙いを定め闇討ちでもするか? いやでも――
そんなことを考えている間に、使い魔からの報告がやってきた。それは――
「ルオンさん、どうしたんだ?」
俺が変な表情をしていたため、リチャルが反応した。
「いや……ちょっと、四方に飛ばしている使い魔の一つから報告が」
「魔族に関することか?」
「ああ」
頷き、内容を吟味する。
その使い魔は引き上げようと動く魔族達の動向を監視している使い魔。どうやらそうした魔族や魔物は合流しているようで、何やら集まって行動しそうな気配。
もしや、南部からだけではなく北部からも戦力を結集し……? そんな予感に行きついた時、さらに別の使い魔から情報が。
「……マジか」
「何かまずいことが?」
「……少し、様子を見に行くことにする」
俺はリチャルに宣言し、立ち去るべく歩き出す。
「加勢した方がいいか?」
リチャルが問う。それに俺はしばし考え、
「……多数のこうした戦力は、相手の想定を外す効果があると思う。南部における戦いがあるまでは、黙って静観して欲しい」
「わかった。気を付けろよ」
「ああ」
頷き俺は森を出た。
「さて、行くか」
『何が起こったのだ?』
ガルクが問う。俺は使い魔から受け取った情報を頭の中で反芻しつつ、答える。
「北部のある場所に、魔族達が集まろうとしている」
『引き上げた魔族達か』
「集まった後どうするのかはわからないが、最悪今から攻撃を行うか、南部侵攻に合わせ攻め寄せてくるのかどっちかだな」
カナン王も警戒はしているだろうけど……この状況で人間側の戦力を減らしたくはない。
おそらく魔族達の戦力は南部侵攻の時と比べればずっと少ないとは思う。だが様々な町や都を征服していた戦力だ。決して少なくはない。
「それと、もう一つ問題が」
『どうした?』
「ゲームにおける主人公の一人……魔族と人間の間に生まれた存在であるオルディアが、そこへ向かっている」
状況を察しそちらへ向かっているようだ。ただ彼は単独行動。一人で向かっても到底太刀打ちできないと思うのだが――
『ルオン殿、その戦力は、できることなら片付けるべきだな?』
「え? まあ確かに」
『ならば、考えがある』
「精霊達の力を利用するのか? けれど、そんなことをしたら俺達の活動が露見する可能性だって――」
『露見しないよう上手くやる。ルオン殿が様子を見に行くということは想定外の出来事だろう? ならば、対応せねばなるまい』
ガルクの言うことは一理ある……色々懸念もあるけれど、放置しておくという選択肢はない。よって――
「わかった。ガルク、頼む」
『任せろ。ひとまず現地へ向かうとしよう』
その指示を受け、俺は魔族達が集う場所へ向かった。




