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賢者の剣  作者: 陽山純樹
動き始める物語

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彼女の戦い

 俺はまず魔物に見つからないよう気配消しの魔法を使い、なおかつ茂みの音などが聞こえないよう遮音の魔法を使用。これでヘマをしない限りは大丈夫。


 そして森の入口からゆっくりと森の中へ。薄暗く、瘴気もあって不気味な空気が漂っている。少し歩くと周囲を警戒する彼女を発見。気配消しの魔法さえ切らさなければバレることはないので、このまま彼女の後を追うことにする。


 少しすると、彼女の正面に魔物が出現。太い枯れた木の幹に奇怪な顔が存在し、根を足代わりに動いている。さらにあちこちの枝からは瘴気を発し……名前は、ウッドメイルだったかな。ゲーム上は別に違和感なかったんだけど、こうして現実世界となって出現すると相当不気味だ。村人が恐怖を覚えるのも無理はない。


 森ということで動物系の魔物も出てくるのだが、ああいう植物系も出てくる。単独行動のようなので大丈夫だとは思うが、危なくなったらすぐフォローに入ることにしよう。


 戦闘開始。先手はソフィア。様子見で緩慢な動きをするウッドメイルに対し、接近し横薙ぎを放った。

 それは確実に入り、魔物は多少たじろいだ。しかしすかさず反撃の体当たり。対するソフィアは横に逃れてかわした。


 だがウッドメイルの攻撃は終わらない。すぐさま体を反転させると、再度攻撃。体当たりではなく、枝を用いた攻撃。見れば枝は刃のように鋭利なものとなり、剣を振るかのように彼女へと襲い掛かる。


 それをソフィアは刃で弾いた。硬度が相当あるのか剣と枝が当たるとキィンと乾いた音がした。すぐさま彼女は枝にも警戒。距離を置いてどう対応するか考え始める。

 下手に仕掛けると反撃を受けて負傷するのは確定的。かといって彼女自身手早く魔物を倒せるような手段は――


 そこまで考えた時、ソフィアは走った。魔物は応じる構えで、カウンターでも決めようとしたのか枝をかざそうとする。だが次の瞬間、彼女が握る剣の魔力が膨らむ。

 もしや、攻撃力強化を――思っていると彼女は間合いを詰め魔物が反応する前に斬撃を放った。


 攻撃は見事成功。剣が入ると同時に、彼女はさらに踏み込んだ。


「切り裂け――!」


 声と共に、彼女の正面に旋風が生じる。これは――下級魔法である『ウインドスラッシュ』だ。


 使用者の真正面に風の刃を生み出し、魔物へ射出する魔法。風魔法の一番下に位置する魔法で威力はそれほど高くない。だが、斬撃を受けてよろめくウッドメイルに対して魔法が直撃すると、体勢を大きく崩した。


 魔法でトドメを刺すというよりは、追撃の剣を加えるべく放った繋ぎの魔法だろう――理解した直後、彼女の剣戟が魔物へ縦に入った。

 すると、魔物は両断され地面に倒れ伏す。同時にその体が朽ちて、土のようなものへと変ずる。


 魔物にもいくつか種類があって、例えば動物が魔族の瘴気などで暴走したケースの他、瘴気の影響で魔物が形作られるというパターンもある。ソフィアが倒したウッドメイルは後者。よって倒した場合は影も形もなくなる。


 俺はソフィアを改めて見据える。呼吸を整えた彼女は魔物が完全に滅んだことを確認すると、すぐさま移動を開始した。


 ……トドメまで持っていった攻撃、非常に綺麗だった。剣筋も流れるような感じだったし、何より絶妙なタイミングで魔法を使い、反撃の機会を与えることなく倒した。戦闘のセンスはある。というより、レベルを上げ続け力押しの戦法だった俺と比較しても戦い方のバリエーションは上かもしれない。


 考える間に彼女は森の奥へと進む。やがて見えたのはY字路。ソフィアは少し迷った後、右の道を選択した。

 あの分かれ道は見たことがある。正解は左で、右の道は行き止まりでアクセサリが落ちているはずだ。


 とすると、この奥は……考えている間に、魔物と遭遇。今度はゴブリンだ。


 ゴブリンというと、ゲームや小説様々な媒体で出現する、前世の空想世界ではそれなりにポピュラーな存在なわけだが……この世界でのゴブリンは、人間の半分程度の身長を持つ子鬼とでもいえばいいか。人間の顔を醜く歪ませたような不気味な顔と、剣と鎧で武装している。


 これは魔王軍の中で最下級の兵士という感じらしい……つまりゴブリンがいる以上、この場所は魔王の一派が何か行った場所なのだとわかる。

 ただ、ゴブリンにも強さがある。悪魔と同様色分けされており、一番弱いのが緑色。その上が赤なのだが……今回遭遇したのは赤。ゲーム上はレッドゴブリンと言われていたやつ。しかも二体。


 ソフィアはすかさず剣を構える。赤色は下から二番目であってもソフィアのレベルからするとそこそこの強さに違いない。しかも複数で現れた以上、場合によっては返り討ちにあう可能性もある。


 ゴブリンが動く。まずは一体が先行して仕掛けた。もう一体はまだ動かない……様子見なのか、それとも一体だけで十分だと考えたのか。

 魔物がどのように考えたのかはわからないが――これは間違いなく好機だろう。理想的な戦い方は間違いなく各個撃破。ゴブリンは単独で動いており、これをやるには絶好の機会。


 とはいえ二対一である以上、距離を置くなどの選択肢もあるが……ソフィアの決断は早かった。彼女は即座に魔力を発し、同時に迫るゴブリンへと斬りかかった。


 発した魔力は、感触的に攻撃力を上げる補助魔法――ゴブリンは持っている剣でソフィアの剣を弾こうとしたが、彼女に押し込まれ一撃受けた。だがまだ倒れない。その間にもう一体のゴブリンも動き出そうとする……が、ソフィアの行動の方が早かった。


「雷よ!」


 魔法発動。彼女の真正面に雷球が出現し、それが斬り結んだ最初のゴブリンに飛来、直撃した。これは『サンダーボルト』という下級魔法で、先ほど放った『ウインドスラッシュ』よりは威力が上かつ魔力消費も少しだけ大きい魔法だ。


 結果、最初のゴブリンは黒焦げとなり、さらに連撃による攻撃で撃破。そこへ二体目が攻め込んでくる。すかさずソフィアは放たれた剣を弾き、一閃。ゴブリンは防御できずあえなく一撃もらう。


 そこへ追撃の技――今度は下級技である『十文字斬り』。読んで字の如く十字に敵を斬る技だが、SP消費も低くそれなりに使いやすいものだった。

 ゴブリンは彼女の追撃によって、倒れる。またも消滅し、ソフィアは大きく息をつく。


「……よし、先に進もう」


 自らを鼓舞するように声を発した彼女は、息を整えた後、歩き出した。






 その後、ソフィアは行き止まりにぶち当たる。だがその場所で紫色のブレスレットを発見。どういう経緯でそうした物が落ちているのかわからないが、とりあえずゲーム上と同じようにアイテムは存在しているらしかった。


 彼女はそれを拾い、見覚えがあったのか右腕に着けた。森の中には毒を持つ魔物もいたが、これで無効――彼女のウエストポーチには今回の依頼に際し毒消しなども入っていたが、結局使わないまま終わりそうだ。


 俺は元来た道を戻る彼女の背中を観察。銀髪が歩く度に揺れ、奇怪な森の中でも見とれてしまうくらいの魅力を放っている。

 その姿を見ながら先ほどの戦いを考察する。まず魔法。下級魔法ばかりだが、ゲーム上でも覚えている魔法ばかりだった。しかし剣技は違う。新たな技を彼女は習得した。


 彼女がゲーム上で覚えている剣技は下級技『みね打ち』と『疾風剣』の二つ。前者は通常攻撃より威力は低いが一時相手の動きを止める効果がある。後者は風をまとわせた攻撃で、SPと同時にMPも使用する技。風属性が付加され、なおかつ通常攻撃よりも威力がある。この技は魔法を習得していないと使えない『魔導技』という区分のものだ。


 ゲームにおいて技は、どのキャラも習得できる可能性があった。ただ技を習得するにはいくらか条件がある場合や、固有の技も存在していた。


 基本誰でも覚えられる技が『汎用技』で、他には魔法を習得しているキャラが覚えられる、魔法と掛け合わせた『魔導技』。そして特定のキャラにしか覚えられない『固有技』と大別して三種存在していた。また、それらの技は下級、中級、上級という三つの階層が存在し、一定のレベルに到達していないと中級以上は習得できないようになっている。


 彼女が先ほど見せた『十文字斬り』は下級汎用技に該当する。レベル的には問題ないが、彼女が本来覚えていない技が使えるのは、きっと彼女自身が技自体は頭に記憶していたからだろう。現実世界となってさすがに誰もが同じように技や魔法が使えるのか疑問であるが……剣技を習得している彼女は、ゲーム上存在していた汎用技は習得できるのかもしれない。


 ソフィアは元来た道に戻り、さらに進む。道中ウッドメイルを始めとして魔物と交戦するのだが……その中で気付いたことがある。


 間違いなく彼女は、戦闘を重ねることによってレベルアップしている。


 幾度か枝分かれした道を抜け、ゴブリン二体と遭遇。今度は同時に攻撃を仕掛けてきたゴブリンであったが――ソフィアは『ウインドスラッシュ』で片方を怯ませ、素早く剣を振った。三回の攻撃で敵を倒したが……斬撃の威力が上がっている気がした。


 少なくとも経験を積んで魔物に対する処理が早くなっている……成長能力は間違いなくある。

 考える間にソフィアは進んでいく。森に入った直後と比べ魔物に対し適切な行動をして対処している他、ここまでは完璧と言ってもいい。


 何度か行き止まりに遭遇しため息をつく場面もあったが、すぐに気を引き締めあきらめずに行動する。森の中はゲーム上と比べ遥かに複雑であるため、目印の一つでも作って迷わないようにすべきだと俺は思ったのだが、彼女はそれさえしなかった。というより、例えば道に迷って同じ道に踏み込むなんて真似は一度もない。歩いた場所を全て記憶しているらしい。


 複数の魔物でも動じない精神と適切な判断力と記憶力……戦士としては満点だと言ってもいいだろう。これで成長まで早いとくれば――


 またソフィアはゴブリンと遭遇。今度は三体であり、これはさすがに数で押される可能性が……と思っていたら何やら詠唱を始めた。ん、今までと少し違うけれど――


「――弾けなさい!」


 言葉と共に魔法が発動する。今まで見せた初級の風や雷ではなかった。向かってくるゴブリンに対し放ったのは、切り裂くような複数の風の刃。


 それらはゴブリンに命中すると、さすがに一撃とはいかなかったが大いに怯んだ。ソフィアはそのチャンスを逃すことなく接近し、ダメージを受け動きを止めているゴブリン達を各個撃破した。


 上手い……そして彼女が放ったのはおそらく『エアリアルソード』だ。直線に存在する敵に対し風の刃を放つ魔法で、下級魔法には違いないが『ウインドスラッシュ』よりも威力がある。ゲーム上の彼女は所持していなかったが――習得できたということは、そうした魔法に関する知識は剣技同様あるということだ。レベルが上がりそれが使えるようになったという感じだろう……普通の人ならこういうことはできない。


 例えばフィリや、彼に同行したカティなどの仲間ならそういうケースもあった。理屈はわからないが、ゲーム上で仲間になったキャラとその他ではやはり大きな違いがあるらしい。現実世界となった今ではそれは『才能』とでも呼べるものなのかもしれないが……ソフィアもまたシナリオの最初だけ使えるにしても、フィリやエイナと同じく一種の『才能』を持っていると見て間違いないようだ。


 とすれば、鍛えれば強くなるのは明白……なおかつ賢者の血を持っている。そう考えると、例えばゲーム上における五人の主人公と同様、魔王を討つ力を得ることができるのだろうか……ただこれを実際に試すのは危険だとも思う。やり直しがきかない以上、もし五大魔族を倒して何も起きなかったら、大陸が崩壊する。


 だから個人的には五人の主人公の誰かが中心となって欲しいのだが……考えていた時、とうとうソフィアは最奥に辿り着いた。


「ここは……」


 瘴気漂う森の中で、さらに濃い場所。そこにいたのは、奇怪な植物。

 名前はキメラプラント。周囲にある木々の幹を胴体として、色とりどりの花や数えきれないほどの太い蔓や枝が生え、森の奥で鎮座している。


 ソフィアに気付いたキメラプラントは、魔力を僅かに震わせた……こいつは動くことがない。だが近づけば太い蔓や枝で反撃を行う。さらに距離を取ると根が地中から飛び出して攻撃を行う。HPが到達レベルにしては高めで長期戦になりやすい難敵である。


 救いは単体攻撃がメインであるため、ゲーム上ではまず全滅することがない点。とはいえ今回はソフィア一人。これを倒すのは難しいだろうと思いつつ、ひとまず事の推移を見守る。


 先んじて仕掛けたのは魔物側。数本の蔓が真っ直ぐソフィアに向けられる。

 彼女はそれを素早く弾くと、同時に詠唱を開始。


「弾けなさい!」


 声と共に『エアリアルソード』を放つ。風の刃が魔物に直撃し――幹を多少抉ったが、それほどダメージはないようだ。


 続けざまにソフィアは詠唱をする。これまで立て続けに魔法を放つようなことはなかったが、目の前の存在がこの森の主であると判断したか、残る力を振り絞るような雰囲気。


 立て続けに風の刃。キメラプラントの弱点は炎だが、彼女は確か炎系の魔法は習得していなかったはず。もしここで使用するならさらなる魔法を開眼したことになるわけだが――


 気付けばソフィアは蔓の攻撃範囲外まで後退していた。魔物の攻撃を見極め範囲外に脱したのだろう。瞬間的な判断力も高いし、何より相手の間合いを瞬時に察する洞察力もある。


 しかし、それは罠でもある――刹那、彼女の足元で地面が僅かに隆起した。


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