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賢者の剣  作者: 陽山純樹
異世界への転生
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状況把握と修行開始

 どうやら転生したらしいと思ったのは、最初に気付いた時からおよそ数日が経過した時。体がまともに動かないなーとか思っていた時、ああそうか赤ん坊なのかとどこかで自覚した。


 そこから俺がどういう立場の人間なのかを理解するのには数ヶ月かかった。ゆりかごの中での情報でしかないが、どうやらここは前世で言うところの中世くらいの文明レベルみたいだ。さらに魔法という概念が存在しているらしく、俺のゆりかごの上にはいつも電気照明にも似た白い光が存在している。

 そして俺の家庭は裕福で、屋敷に住んでいるらしい。まさに理想形……などと思っていたのは、ほんの少しの間だけだった。


 両親の会話は聞き取れない言葉だったのだが、それを憶えてくるとずいぶんと聞き覚えのある地名ばかり出てくることに気付いた。なおかつ俺は自分の名前を把握し……ここが熱中していた『エルダーズ・ソード』の世界であると気付き、また名前がルオン=マディンだと知り、驚いた。


 なぜゲームの世界に転生したのか……は百歩譲って良しにしても、何でよりにもよってネタキャラに転生しなければいけないのか……本来主人公とかじゃないのだろうか。

 このままだと、俺はいずれ変な悲鳴を上げて死ぬ運命が待っているのだろうか……それをどうすれば回避できるのかと思案しつつ、ルオンのプロフィールを頭の中から引っ張り出す。


 所詮脇役なのでそう多く語られていなかったのだが、このルオンという人物は元々貴族の家系だった。で、魔王が大陸に襲来するのを境に没落し、辛酸を舐めるような生活を強いられることとなった……みたいな感じだ。

 これが物語にどう関係してくるのかと言うと……実はルオンが死んだ後、その場所には鍵が落ちている。その鍵はルオンがいずれ家を復興させるために資金を集めていた隠れ家のカギであり、中に入ると換金アイテムなんかが出てくるというわけだ。


 ルオンは死んで金になったというわけだが、こう考えるとモンスターと一緒じゃないかと思う。とはいえルオンはそれなりに頑張っていたようだし、だからこそ主人公と比べて高いステータスだったのかもしれない……しかし、情けない変な悲鳴を上げて死んでいる。

 幸せそうな両親もいずれ不幸な目に遭うんだよな……とか思っていた時、俺はこのゲームのストーリーを思い出す。


 フリーシナリオでどう進んでもいいこのゲームにも目的はある。この世界、というよりゲームの舞台となっているのはシェルジア大陸という場所で、ゲーム開始時ここは別の大陸を蹂躙した魔王の手が伸びている。そして腹心である五大魔族が大陸をモンスターと共に荒らし回っており、それを止めるのが大筋の目的。

 ルオンが遭遇する主人公は単なる冒険者であり、村の襲撃を期に彼は魔族を倒すことに決める……つまり、もし彼が魔王を倒す役目を担っているとしたら、俺は死ななければならないのかもしれない……って、それは嫌だ。


 まあ、現実となったこの世界がゲームのシナリオ通りに進んでいくのかもわからないけど……ルオン自身は冒険者をやっていた、それをせず関わらないようにすれば万事解決なのだが……俺は、その選択もためらった。

 放っておいてゲーム通りになればいいけど、もしならなければこの大陸は魔王に征服されてゲームオーバーだ……いや、最早ゲームじゃないんだから最悪の結末を迎えることになる。さすがにそれは避けたいところ。


 話の展開がわかっているのだから、もし何か問題があったら色々と動くことも……などと思ってみたりもするのだが、果たしてうまくいくかどうか。何せ俺は主人公でも何でもないただのネタキャラである。転生したことに合わせチート的な能力でも持っていれば話は別なのかもしれないが、そんなものはなさそうな雰囲気。

 けどまあ……とりあえず、やれるところまでやってみるか。そんな考えを抱きつつ、俺はひとまず目の前にある幸せな日々を過ごすことにした。



 * * *



 やがて魔王が大陸へ襲来する――それに合わせ魔族達の活動が開始されることとなり、政争も発生。それに巻き込まれた両親は没落した。

 この時点で俺は五歳になっていた。当然子供の俺に何かできるはずもなく、屋敷を追われ一般人として暮らし始める。


 それでも両親は俺を育てるために必死になって働いた。その姿を見て俺は恩返しをしようなどと心の中で思いつつ、とりあえず死なないために修行を始めることにした。


 五歳の身でできることはたかが知れているのだが……図書館で魔法に関する本を読み知識を習得。さらに剣を教えてもらえるところに行き、冒険者となるための準備を始めた。

 ゲームの世界であっても現在の俺にとっては現実であり、当然ステータスも何もない。だから果たして強くなっているのか不安もあったのだが……独学でも魔法を習得でき、なおかつ剣を振る度に少しずつ成長していくのを感じ、とりあえずレベルアップ的な概念くらいはあるのかもしれないなどと思った。


 そんな生活を、俺はおよそ五年くらい続け……一般の人としての暮らしにも両親は慣れ、人々は魔族に蹂躙されるかもしれないという可能性を危惧し、怯えた日常を過ごし始めるようになった。

 その時になって、魔族達の影響を受けたか魔物達も活性化し始めた。俺達が暮らす町まで来ることは無かったが、子供の遊び場となっていた近くの洞窟とか遺跡とかに魔物が住み始め、住民達はさらに不安の色を濃くすることとなった。


 そうした折、俺は子供ながら魔物の討伐隊に抜擢された……町で剣を学んでいた人間として、十歳でも能力を高く評価されたというわけだ。両親は不安だったようだが、俺は経験を積んどいた方がいいだろうと思い、参加することにした。

 最初に訪れたのは遺跡。自分の背丈にあった剣を握り締めつつ俺は兵士や傭兵と混じりながら魔物のいる遺跡に乗り込んだ。そこに出現する敵は、ゲーム的に言えば最初のダンジョンで出てくる弱い魔物ばかりだった。


「ほっ」


 最弱に位置する――名前の通り青い毛並みを持つ、ブルーウルフを一刀で倒す俺。近くではグレイラビットを倒す傭兵の姿。


「おお、やるじゃねえか!」


 討伐に雇われた傭兵が称賛の声を上げる。子供ということもあってか俺が活躍するとずいぶんとこういう声が上がる。


 そこで俺は戦う面々を見回す。魔物はゲームの最初に出てくるようなものばかりであり――そういえば設定で、魔族の影響が少ない場所ほど魔物が弱いみたいな設定があったなぁ……この辺りも魔物は出現しているけどまだ強い影響はない、ということなのだろうか。

 とりあえず、俺の技量でも一人でどうにかなるレベルだった。独学で学んだ魔法なんかも結構使えたため、むしろ活躍した部類に入るのではと思った。


 さすがに遺跡内の魔物は一日で片付けることはできず、数日にわたって戦うことになったのだが……その中で気付いたことが一つ。俺はゲーム上ネタキャラ扱いされていたわけなのだが、それでも一応レベルアップ的な成長をするためなのか、戦えば戦う程少しずつ強くなっていった。


 他の人も経験を積んで強くなっているのはなんとなくわかったのだが……言ってしまえば俺は他者よりも少しばかり成長が早い雰囲気があった。これはもしやゲーム上で一応プレイヤーキャラだったためか……それともルオン自身がそこそこ才能を持っていたのか……ただこれはアドバンテージにはなれど俺の死ぬ運命を回避するには至らないと思う。さらなる精進が必要だろう。


 というわけで数日かけて遺跡内の魔物討伐は終了。俺は一人でも戦えるという確信を持ったので、ここからは剣を振るだけではなく実戦で戦っていくべきだと思った。


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