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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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仮説と精霊

「あくまで仮説だが、この魔力を手に入れることが魔王の目的だった……と思ったんだよ」

「へえ?」


 俺の言葉にガルクは興味深そうに声を発する。


「魔王はこの特殊な魔力の詳細がわかっていると?」

「……どういう経緯でその情報を手に入れたのかは俺にもわからない」

「ふむ、なるほど。けれどこの魔力がどれほどの力を持っているのか……」


 呟き何事か考え始めるガルク。先ほど交戦した魔物はそれなりの強さだったが、魔力を取り込んだからといって他を圧倒する力を得られるというわけではないのはわかる。なので、魔王が侵略までして手に入れたいものなのか、という疑問はある。


「魔王としては、この魔力を手に入れ何かするってことなのかい?」

「あくまで可能性の話だよ。まったく違う目的……例えば神霊達の力を吸収するとかの方が確率としては高そうだよな」

「そう簡単にやられはしないけれど、ね」


 フェウスが言う。視線を向けると、彼女は微笑を浮かべた。


「準備ができたわ。話を中断して、精霊の作成に入りましょうか」

「構わないけど、俺は何をすればいいんだ?」

「私がこの遺跡に存在する魔力を集める。ルオンは精霊の姿をイメージして合図が出るまで待機」

「わかった。それじゃあ始めようか」


 フェウスに近づく。彼女はここで右手を差し出した。


「手を合わせなくてもいいから、近づけて」


 言われた通り俺は手を出す。フェウスの手に触れないくらいの距離を保ち、次の指示を待つ。


 しかし……改めて思う。神霊が集まり事を成そうとする光景は、本来の姿ではなく人間の格好をしていても、威圧感がある。

 そして神霊の協力により得られる精霊……俺の能力を考えると、結構な力を持つ存在が生まれるのだろうか。


「右手に魔力を集めて」


 フェウスからの指示。俺は頷き、フェウスに突き出した右手に魔力を集め始めた。


「次に、精霊の姿をイメージして」


 さらなる言葉に、俺は頭にその姿を浮かべる。余計なことを考えないように目を閉じ、以前精霊を作成するという話になった時、思い浮かべたイメージを記憶の中から引っ張り出す。


 こう……全身を鎧で固めた重装天使。手には大剣、背には翼。それは様々な魔力を解析する力を所持しながら、いざとなれば俺の指示に従い仲間や人々を守る盾になるような――


 魔力が突如弾けた。目を開けると、俺とフェウスの手の間に小さな光が生まれていた。


 それはおそらく、大地に根差した天使の力と俺の魔力が融合した姿――その時、ガルクとアズアが俺の左右にやってくる。


「感謝するんだな」


 そこへ、アズアが声を出す。


「本来ならば、精霊の作成には時間が掛かる。だが多量の魔力が存在すれば話は別だ」

「え?」


 聞き返す間にアズアが横から手を差し出す。さらにガルクも手を出し、光を囲むような形となる。


「何をするんだ?」

「ルオンが剣を生み出すという話があっただろ?」


 今度はガルクが語り出す。


「魔王が放つ魔法の対策と同様、それについても試さなければならなかったんだ。僕達神霊の力が、本当に一つとなることができるのかを。アズアは渋っていたんだけど、ここに興味を持たせて同行させたんだよ」

「ちょ、ちょっと待て! 神霊達の力を俺の精霊に注ぐのか!?」

「ベースはあくまでルオンの魔力だから、きちんと精霊としての機能を果たすことにはなるよ」


 とんでもない話になってきた――と思ったが、そもそも神霊達がこの場にやってきたんだ。そんな話になっても仕方がないか。


「いいかい、ルオン。僕らの魔力を全て受け入れるのはさすがに厳しいが、それでもかなりの素養を持った精霊が生まれる。ただ、まだ完全じゃない。ルオンはあくまで人間の器だ。だから精霊を活動させるには、魔力を溜める道具が必要」

「わかっている……けど、相当ヤバいものができないか?」

「あとはルオン次第ね」


 今度はフェウスが口を開いた。


「俺次第? どういうことだよ?」

「さて、それじゃあ始めましょう」

「おいちょっと待て。とりあえず俺に一通り説明してくれ――」


 言い終えぬうちに神霊三体の魔力が光へ集中する。さすがにそんなことをされては俺も言葉を止める他ない。

 魔力が高まっていく間に、ガルクが言葉を零す。


「僕らの力が組み合わさったら相当複雑なことができそうだね」

「しかしそれは結局、ルオンの使い方次第だろう?」


 アズアが言う。同意するのかフェウスは首肯し、


「精霊の分析能力については、私達が教え込むとして……そこからどう活用するかは、ルオンがどう扱うかによって決まるわね」


 ……あの、俺の話をしているのに、おいてけぼりになっているのはなぜだろう? 理解できないことの連続だが、ただ一つ言えるのは、作成する精霊がとんでもない存在になりそうだということ。


「さて、ルオン。もう一度イメージを」


 フェウスが言う。俺はただ頷くしかなく、先ほどと同じイメージを開始した。

 目を閉じた瞬間、手先にある魔力が神霊達によって膨らむ。とりあえず流されないように注意しつつ、俺はひたすらイメージすることに没頭。


 時間としては、三分くらいだろうか……俺にとってはひどく長い時間の後、ようやく収束が終わった。


「はい、これで完了」


 フェウスの言葉と共に目を開ける。先ほどと変わらない光球が俺の手の前に。神霊達が手を離しても、光は同じ場所に留まり続けている。


「ここからはルオンがどう創り出すか次第ね。けどイメージが固まったのなら、それに従い精霊は姿を変えるわ」

「……ひとまず、この白い光を体の中に入れればいいのか?」

「ええ、私達の力が入っているにしても、ルオンの魔力がベースとなっているから問題ないはずよ」


 俺は光球を包むように手を握り締める。すると僅かな熱を感じた後、光は消えた。


「楽しみにしているわよ」

「イメージしきれていないと想像とは異なるものが生み出されるからな」


 アズアが言う。目を向けるとほくそ笑んでいた。


「どういった精霊が生み出されるか、期待しておくぞ」


 アズアとしては、面白いものが生まれてくれればいい、とか思っているようだ。


「……ところで、魔力を溜めるアーティファクトについては?」


 なんとなく尋ねてみると、答えはガルクから返ってきた。


「調査中だよ。ま、さすがにルオンに取って来いと言うこともないさ。これから大きな戦いが控えているわけだし、こちらで対応する」

「いいのか? ならお願いするよ」


 大がかりな話となった精霊の作成についても、とりあえず目途が立ったということだろうな。

 さて、ここから帰ることになるわけだが、一応使い魔で周辺の情報を探ってから戻ることにしよう。






 外に出て、使い魔から情報を入手する。ソフィア達は異常なし。カナンもまだ騎士団の所にいるようだ。また、魔族が退き始めたのと合わせ人間側も色々と動き出している。間違いなくこれから南部侵攻が始まるはずだが――


『ここまでは物語の流れ通りなのか?』


 ふいに、ガルクの声が聞こえた。見れば俺の肩に元の口調で子ガルクが。


「……さっきの本体はどうした?」

『仕事に戻ったぞ』

「……なんというか、あの姿は俺以外に見せない方がいいぞ。威厳が崩れるかもしれないし」

「そうか。ならば大人のバージョンで行くか」

「その辺りは任せるけど……フェウスやアズアはどうするんだ?」

「私達も魔王の対策に戻るわ。何かあったら言うから」

「そちらは南部侵攻に集中しておけ」


 フェウスとアズアは口々に告げた後、立ち去る。それを見送り、俺はひとまず今後の方針を決定する。


「騎士団の所に戻るか」


 ――と、俺はここで思い浮かぶことが。


「……そういえば、彼とは一度話をしておくべきか。使い魔で居場所だけは確認していたけど」

『何の話だ?』

「同行していればわかるよ……ひとまず、そちらへ向かうとしようか」


 俺は一方的に宣言し、移動魔法を使用した――


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