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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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次に目指す場所

「ひとまず、フィリ達はこちらへ来てもらえないか」

『わかりました』


 俺の提案にフィリの声が聞こえた。


『その、シルヴィさんから事情はお伺いしています。バールクス王国の王女様が生きていたと』

「シルヴィ、話したのか?」

『魔族との戦いが終われば世間に広まるのだから、問題ないだろう?』

「まあそうだな……ともかく、そういう方針で頼む」


 それから少々話し合った後、会話は終了。通信が途切れ、俺も眠る準備をしようかと思ったのだが――またも使い魔から連絡が。


『ルオン、確認したいことが』


 またもシルヴィの声。今度は間違いなく、フィリやラディ達がいない状態だな。


「ああ、いいぞ」

『いよいよ、南部侵攻が始まるんだな?』

「ああ。とはいっても五大魔族を四体撃破してすぐ戦いが始まるというわけではないはずだ。ここからは魔族の動向を窺いつつ、カナン王などと話をしていく必要があるな」

『わかった。ボク達は合流後どうすればいい?』

「正直、わからないな。フィリやラディのことについてもカナン王には説明しているし、ソフィアも事情を把握しているけど……騎士団側と協議しないと。ただ、悪いようにはならないと思う」

『ならルオンは?』

「まだ決めていないけど、魔王の魔法対策などに不備があれば、それに対処することになるかな」


 あるいは、やっぱり今のうちに精霊作成に勤しむべきか。


「どっちにしろ、ここからは俺の一存というわけにはいかない。情報収集を行い、適宜対処していくことになると思う」

『わかった。ボクらはひとまずそちらへ向かうことにする』

「頼むよ」


 通信が途切れる。同時攻略戦という問題は出てしまったが、どうにか乗り切ることはできた。しかし、さらに大きな問題が立ちはだかる。

 南部侵攻が開始し、本格的な攻撃が始まるまでは多少の期間もあるだろう。その間に俺は何をすべきなのか。その選択を誤ると、まずいことになりそうな気もする。


 俺が今、すべきことは……考える間に、ノックの音。


「どうぞ」


 扉が開くと、ソフィアの姿が。


「どうしたんだ?」

「今後についてご相談が」


 改まった態度でソフィアは言う。対する俺は彼女に質問。


「今後、というのは俺について? それともソフィア自身について?」

「私についてです。おそらくルオン様は私と分かれ行動するおつもりかと思います」

「そうやって事前に話もしていたな……ただ、こればかりは状況を見ないと確定できないけど」

「シルヴィ達は?」

「倒したそうだ。直に南部侵攻が始まる」


 俺の言葉にソフィアは頷いた。


「その、ルオン様のお力を頼りにするわけではありませんが……南部侵攻については十分な戦力ですし、対抗できると思いますが」

「魔族がどういう行動をとってくるかわからないのが問題なんだ。俺がいなくとも大丈夫な状況を構築しておくべきだと思う。で、ソフィア。エイナ達と共に行動するのは不満なのか?」

「いえ、私が健在だという事実はそれほど経たずして広まるでしょうし、その当人がいなくなるのもまずいでしょう。しかし」

「俺の方が気になるってことか」


 ソフィアは頷く。不安を抱いた顔つきではないが――


「ルオン様のご心配をするのは、そのお力を思えば考え過ぎだと思うのですが」

「……現在、物語の流れに沿って進んでいる。俺としてもそれを崩したくはないし、無理はしないさ」


 こちらの言葉にソフィアは小さく頷くが、顔は晴れない。

 何かしら、不安を抱いているということか……彼女の予感めいた能力が関係しているのかもしれない。


「……ソフィアとしては、どう動いて欲しいと考えている?」

「私が、ですか?」

「そんな表情をしている以上、何かしら思うところはあるんだろ?」


 問い掛けに、ソフィアは少々委縮した様子。首をすくめ、ばつが悪そうな顔をする。


「すみません、出過ぎた真似を……」

「気にしていないよ。ただ、ソフィアの考えを聞かせて欲しい」


 こちらの要求にソフィアはしばし考え……やがて、


「その、私としては――」


 話しだそうとした瞬間、突如レーフィンがソフィアの横に出現する。その唐突ぶりに俺は驚き口を開こうとしたが、先にレーフィンが話し始めた。


「すみません、ソフィア様」

「……レーフィン?」

「ルオン様にお話が」

「何かあったのか?」

「決して悪い動きではないと思うのですが……いえ、これはおそらく南部侵攻に際してのものでしょう」


 レーフィンの言葉に、俺は表情を少し険しくする。


「良いか悪いかは別として、魔族が動いたと」

「はい。端的に言えば――」


 レーフィンは俺とソフィアを一瞥した後、言った。


「複数の魔族……都市などと占拠していた魔族が、退却していくようです」






 ――数日後、騎士団やカナンにも情報が入る。都市などを占拠していた魔族が多くが、潮が引き始めたかのように退いていくとのことだった。


 カナンは「私達に撃破されこれ以上戦力を減らさないようにするためだろう」と騎士団に説明。彼は俺から事情を聞いているため、これが南部侵攻の前兆であると読み取ったらしい。


 だがバールクス王国の首都を始め、いくつかの重要拠点はまだ制圧されたままだ。そこを手放すわけにはいかないと魔族側も考えているのだろう。そちらに攻撃を仕掛けるべきだと主張する者もいたが、カナンが「様子を見たい」と言ったため、魔族の動きを調査することになった。


 その間に、ソフィアが生きていたという事実が人間の間で広まり始める。当然賢者の血筋である彼女の存在は大きく、さらに従妹のエイナもいるためか、騎士団自体の株も大きく上がった。

 彼女の方は特に心配はいらないだろう……さて、ならば俺はどう動くべきか。


「……選択肢は色々とありますが、ここは精霊作成に着手してはいかがでしょうか」


 そう主張したのはレーフィン。ソフィアを離れ俺の部屋までやってきて話し合いを行う。


「魔族が着々と南部侵攻の準備を進めているのは事実ですが、それは人間側も同じこと。カナン王は事情を知っているが故に対応すべく立ち回っているため、そう心配する必要はないでしょう」

「で、時間が余るから今のうちに精霊を、ということか」

「はい。まずは精霊の基礎となる魔力……適当な場所が見つかりました」

「それはどこだ?」

「北部の町、ナグトラードの近く……町といっても廃墟になっているため、人はいないのですが」

「その町の近くに遺跡が?」

「はい。より正確に言うと、その町の下、地底に存在しています」


 ……ノーム達が地底を調査していた時、見つけたのだろう。


「わかった。時間的な余裕があるうちに、やっておいた方がいいだろうな」

『――ただし、ルオン殿』


 ここで、ガルクの声が頭の中に。


『その場所は、とりわけ魔力の強い場所……ただ、何やら不可解な魔力も存在している』

「不可解な魔力?」

『人間や精霊……さらに魔族や天使の魔力と違う何かだ。レーフィンはルオン殿の力を考慮した上でそこを薦めているのだが、不安がないこともない』

「神霊であるガルクがそう言うのなら、厄介なんだろうな」


 俺はそう返答したが……とある予感がした。


「まあいいさ。そこに俺が求める力があるのなら、行くだけだ」

『いいのか?』

「ああ。ガルク、その場所を案内できるか?」

『構わない』

「よし、ならそこへ向かおう。レーフィン、ソフィアを頼む」


 と、ここで俺はソフィアが何かを話そうとした時、彼女が乱入したのを思い出す。ここ数日、問い掛けるタイミングもなかったのだが……あれはどう考えても変だった。


「ソフィアと話をしていた時……わざと介入したのか?」

「……私の口からは何も言えませんが、ただソフィア様の心情の問題であるとだけ」

「わかった」


 俺はそれ以上何も訊かず、ガルクやレーフィンに行った。


「それじゃあ行くとしよう。地底にある天使の遺跡へ」


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