呼応する力
俺の方は今すぐ話しても問題ない状況だったが、シルヴィ達については落ち着くまで多少時間が掛かった。とはいえ、その日の夜には話をすることができた。
「本題へ入る前に、まずは確認だ」
使い魔を通して、俺は声を上げる。
「シルヴィ、クウザもその場にいるんだな?」
『ああ』
返答はシルヴィから。ならばと俺は一つ頷き、
「ならシルヴィ。次に、その場にいる面々について説明してくれ」
『いいだろうまずはフィリと、その仲間のコーリ。そしてバシリーという魔法使い』
「以前と同じだな」
『ああ。加えラディとネストル……これもまた、ベルーナという魔族と戦った時と同じだ』
「この場に全員いるんだな?」
『その通りだ』
「わかった……で、不思議なことが起こったというのは?」
『それについては、まず順を追って説明しよう。居城にいた魔族であるダグライドとの戦い……いや、その戦いの前から始めさせてもらおう――』
シルヴィの話によると、他の面々はクウザの能力に一番驚いたらしい。
「反則だな、その魔法は」
「そうか?」
感嘆の声を上げたラディに、クウザは肩をすくめ答える。
「そっちも訓練すればすぐにできるようになるさ」
「無茶言うなよ」
苦笑するラディ。前衛にはシルヴィがいるし、何より後衛には無詠唱の使い手であるクウザがいる……城の最奥に到達した時点でも十分余裕があったらしく、シルヴィ達は負傷もほとんどなくダグライドのいる部屋の前に到着。大きな扉を開け、中へ。
そこに、前世で言う武者鎧を着込んだ一体の魔族がいた。
「来たか、侵入者」
――レドラスが好戦的な騎士ならば、ダクライドは職務忠実な武士といったところか。刀を振りかざし、シルヴィ達を威嚇するように声を上げる。
「聞きはせんだろうが、警告はしておく。おとなしく去れば、見逃してやろう」
「それはできない相談だな」
決然と、ラディが告げる。
「お前は実験を行っているんだろ? 詳しくわかるわけじゃないが、少なくとも人間に害をなすものであるのは間違いない。ここで止めさせてもらう」
「……仕方があるまい」
ダクライドとしては、無用な争いは避けたいという考えからだろうか――とはいえその実力は紛れもなく本物。刹那、魔族の周囲に氷が生じる。
「滅ぼすしかないな」
「こっちのセリフだ!」
先んじて動いたのはクウザ。放った矢は炎の力を収束させた赤い光。
それが容赦なくダクライドへ突き刺さる――出現する魔物に対してならば十二分に通じた攻撃だったが、やはり五大魔族クラスとなるとそうもいかなかったらしい。
「見事な攻撃だが、私には通じんよ」
決然と言い放ったダクライドは、立ち位置を変えないまま一気に氷を四散させた。
拡散する氷に対し、全員が回避に移る。なおかつラディが援護を行い、事なきを得る。
ダクライドはそれに反応し、追撃の攻撃を加えようとしたが……それよりも先に、前衛が動き出した。
先陣を切ったのはシルヴィ。さすがに『一刹那』を放つだけの余裕はなかったようだが、接近し『ベリアルスラッシュ』を放ち、ダクライドはそれを刀で受ける。
一時拮抗したらしいが、続くフィリ達の攻撃を受け後退を余儀なくされる魔族。そこへラディの魔法が重なり、さらにクウザの魔法が炸裂。ダグライドを大きく後退させることに成功する。
「貴様らの戦いぶりは見ていた」
ダグライドはそう返答しつつ、刀を構え直す。
「よって、貴様らの戦法も理解している」
「だが、どうやっても防ぎ切れない攻撃ってものがある」
クウザは決然と告げ、攻撃の構えに入る。
「例え来るとわかっていても、どうしようもない手法……それを見せてやるさ」
「やってみろ」
挑発的な物言い。その直後、クウザの矢がダグライドへ殺到する。
魔族はそれを障壁により防ぐ。とはいえ衝撃そのものを完全に殺すことは難しく、どうしても隙が生じてしまう。そこを狙い、シルヴィやフィリが仕掛けた。
シルヴィによれば、一気に決着をつけるべく動いたらしい――だが、
「確かに、貴様らの戦いは見事だ。人数という利を用いながら、確実に私を滅ぼすために動いている」
評価するダグライドの言動――刹那、魔族が握る刀身に、魔力が生じた。
「だが、その特攻は無謀だ」
その言葉と同時、シルヴィやフィリ達に割って入るようにネストルが動いた。盾を構え、ダグライドの一閃を受ける。
人間と魔族――これが魔法や強力な技であれば相殺できたかもしれないが、ネストルはそうもいかなかった。
「ぐっ!?」
声と共に彼の体は容易く吹き飛んだ。誰かが呼び掛ける余裕もなく、ダグライドは二の太刀を放とうとする。
続けざまに動いたのはコーリ。身体強化を利用した剣で対抗を試みようとする――その時、シルヴィの言う不思議なことが起こった。
「――おおおっ!」
フィリが突如、コーリの横に出た。何事かとシルヴィが思っていると、彼の刀身に相当な魔力が凝縮しているのを感じ取った。
一体何が――そういう心持ちの中で、フィリはダグライドの剣を受けた。一対一の激突……結果、フィリ達は剣を押し戻すことに成功する。
「何……!?」
これには相手も驚愕――なおかつシルヴィはここで一つ違和感を覚えた。
ダグライドが刀身から発する魔力。瘴気があるのは当然なのだが、それ以上に何か不可思議な感覚を受けた。
それが何なのかを推測することもできず攻防は進む。シルヴィは反撃に転じるべく足を前に出し、フィリやコーリと共に攻勢に出る。
ダグライドも、体勢を崩され動きが鈍くなっている状態。そこへクウザから魔法の援護が入る。さらに一歩立て直すのに遅れ――
フィリとコーリ、そしてシルヴィの剣が殺到した――
『――その後、ボク達はダグライドに対し猛攻を開始した。反撃もあったが全て回避に成功し、とうとう撃破に成功した』
そう語るシルヴィ。話だけ聞いていると楽勝だったと解釈することもできるが、当の彼女はそう思っていないらしい。
『戦い自体は始終ボク達が有利だった。けれどネストルの事例を見るように、一歩間違えれば壊滅していただろう』
「そうか……不思議なことと言うのは、フィリのことか?」
俺の質問に、シルヴィは『そうだ』と答える。
『突然フィリの力が膨れ上がり、なおかつ魔族ダクライドから感じ取れた不思議な力に、光……』
賢者の力が関係しているのだと、シルヴィは言いたいに違いない。
ふむ、賢者の力が呼応したのか? けどソフィアを始め他の主人公はそんな状況に遭遇したことはない。
『ラディが言うには、その力を上手く引き出せれば今後の戦いに活用できるのではないか、と……そしてフィリ自身もそうした力を有効利用したいと思っているらしい』
「そうか……こっちとしても検証はする」
返答するとフィリから『お願いします』と声が聞こえた。
しかし、戦いの中で力が……シルヴィが抱いた不思議な感覚とは、おそらくダグライドが賢者の力を攻撃に転用していたのだろう。そしてフィリは賢者の血筋であるためそれに呼応し、力を引き出せた。だが同じ血筋であるラディについては何もなく……フィリ特有のことなのかもしれない。
賢者の力に反応したということは、そうした力をフィリは他の主人公と比べ持っているということだろうか? いや、そう考えるのは早計か。もしかすると賢者の力を上手く引き出す方法を無意識の内に体得したのかもしれない。
もしそうであれば、他の血筋の力を活性化させることも……そんなことを思いつつ、俺は話を進めることにした。




