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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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王女の切り札

 グディースに応じた後、俺は剣を構え直しソフィアに告げた。


「援護する。存分にやれ」

「――はい」


 彼女が頷いた直後、俺はソフィアを守るように前に立つ。そして周囲を警戒しつつ、まっすぐグディースを見据えた。

「俺達を孤立させて倒すって寸法らしいが……そう簡単にいくと思うのか?」

「そちらのお嬢さんの技は、どうやら切り札らしいな。まったく動じていないのもそのせいか。まあ――」


 と、グディースは顔を歪ませる。


「どちらが正しいのかは、戦えばわかる話だ」

「それもそうだな」


 言葉の直後、赤い光弾をグディースは生み出す。俺は剣を構え迎撃態勢を整え、一斉に飛来するそれを、剣で弾き始める。

 一振りで光弾があっさりと消えていく。後方にいるソフィアには当たらないよう慎重に剣を動かしているのだが、余裕はある。


 一方のグディースだが……感じられる気配から考えると、まだまだ余力があるようにも思える。もっとも全力を出さないのは俺達のことを侮っているからか……慢心と言い換えてもいい。ソフィアの技が時間を必要とする以上、その方がこちらとしてもありがたいけど。


「さて、どこまで耐えられるかな?」


 さらに光弾の数が増える。後方にいるアルトもその状況に気付いたようで、俺達へ向け声を上げた。


「おいルオン! 大丈夫なのか!?」

「今のところは。けどまあ、簡単に帰してはもらえないみたいだ」


 光弾が殺到する。魔法か何かを使ってもよさそうな状況だが、これで十分だと考えているのか放つ気配がない。あるいは、魔法を使用するとどうしても隙が生じてしまうのを考慮しているのか。


 俺は光弾を光の剣で全て斬り払う。その間にソフィアの魔力も次第に高まっていく。そう時間も掛からない内に技が発動できそうだった。

 なおも執拗にグディースは光弾を放つが、それを俺は弾く。後方ではアルト達が炎の壁を突破するべく動いている様子だったが、俺達の周囲を阻む壁は特別であるためか、苦戦している。


 ならば、俺達二人でグディースを倒すしかない。


 そう決意した時、少し変化が。俺達へ襲い掛かってくるのは光弾だけではなく剣のように鋭いものも混ざり始める。あるいは周囲に存在する炎に紛れ横や後ろから狙ってくるが――俺はここで『デュランダル』を解除し防御魔法である『フレイムシールド』を使用。飛来する攻撃を防いだ。


「……ふむ」


 グディースは手をかざす。こいつは火属性の攻撃を防ぐ魔法などを使用した場合、カウンターを発動する特性がある。火属性の魔法に干渉し魔法そのものを破壊、さらには爆破させるという厄介な仕様……俺は即座に防御魔法を解除し、グディースのカウンターを防ぐ。


「――ルオン様」


 ここで、ソフィアが発言。魔力を収束させた。


「終わったようだな」


 グディースもまたそれを理解する。先ほどのような光弾の応酬が始まるかと思ったが……奴は動かない。こちらの出方を窺っている。


「ずいぶんと、慎重だな」


 俺が発言。対するグディースはこちらを見据え、


「我が攻撃を全て叩き落す存在だ。少しは楽しませて欲しいと思ってな」


 ここでソフィアが俺の隣に立つ。いつでもいい――口には出さなかったが、彼女は動作で語っていた。


「……そういえば、驚いたぞ」


 沈黙していると、唐突にグディースが語り出す。


「内通者がいたからな。貴様達の素性は把握している。まさかバールクス王国の王と王女が存命だったとは。せっかく拾った命なのだ。隠れて生きればいいものを」

「引導を渡しに来たのですよ」


 そう応じたのは、ソフィアだった。


「あなたに……そして何より魔王に、私達が必ず滅ぼすと」

「なるほどな……しかしその願いは叶わない。どうやら剣に注いだ力は切り札のようだが、果たしてそれが通用するかな?」


 グディースの周囲に光弾が発生。俺達を迎え撃つ構えはできたようだ。


「確かに我を滅することができれば、王女が人間達の希望になるのは間違いないだろう。賢者の末裔ここにあり、とあらば人間側が奮い立つことは目に見えている。だがそれは、大きな賭けだ」


 ソフィアを眺めるように視線を送りつつ、グディースは語る。


「ここでお前が死ねば、それだけで人間達は大いに絶望するだろう。賢者の末裔……それすらも敵わなかったと民衆が理解すれば、我らの征服も早くなるだろう。ああ、そういえばアラスティン王国の目障りな王がいたな。お前が死ねば、その王もまた絶望し我らの糧となるだろう」

「悪いが、そうはならない」


 俺は『デュランダル』を再度発動させ、グディースへ言う。


「決めさせてもらうぞ」

「やってみろ」


 グディースの言葉――次の瞬間、俺は目の前の敵へ向け走り出す。ソフィアが続き、相手は応じる構え。

 まずは光弾が飛来する。俺はグディースへ向かいながら剣を薙ぎ、その全てを弾き飛ばす。


 するとグディースは光弾などではなく、炎を生み出す。それは自身の背に翼を生やすように横へと伸び……俺は何をするのか理解しながら、それでも接近しようと足を前に出す。

 次の瞬間、左右に広がった炎が俺達を包囲するように迫ってくる。これは攻撃というよりは、俺達の行動をさらに制限する意図があるように思える。


 そしてグディースはまたも光弾を生み出す――ただしそれは、今までとは比べものにならない程の大きなもの。


「終わりだよ」


 宣告。一瞬で俺達の眼前に出現した巨大な炎の塊。接近しようとした俺達の視界を真っ赤に染めるものであり、容赦なくこちらへ向かってくる。

 まるで地獄から呼び寄せた業火――俺は光の剣に魔力が発露する限界まで注ぎ、剣を薙いだ。


 炎と剣が激突する。グディースとしても相当な魔力収束を行ったのは間違いなく、おそらくこれを突破すればソフィアの剣が当てられる――


「――おおおっ!」


 魔法を通して伝わる感触から、俺はいけると判断。声を上げ、身体強化も駆使して剣を振り抜いた。

 結果、巨大な光弾を弾き飛ばすことに成功。眼前にグディースの姿が見え――


「防ぎ切ったこと、褒めてやろう」


 奴の眼前に、炎の槍。その魔力は、先ほどの業火と比べてもそん色ない。

 これこそ本命か――理解した直後、それでも俺は前に進む。最終手段として身を挺し――そこまで思った時、グディースの目の色が変化する。


 俺の魂胆に気付いたか――


「ならば、望みどおりにしてやろう」


 勘付いている。だが俺は止まらなかった。グディースは炎を操り、俺へ向け射出するべく狙いを定める。

 防げたとしても、爆発の余波でソフィアに被害が出るかもしれない。だが、それでも俺は止まらなかった――絶対に封じ込める。


「死ねぇ!」


 グディースが槍を放つ。真っ直ぐ俺へ向け――きっと、奴からすれば俺が体を使って防ぐと思っただろう。

 しかしそうはならなかった。魔力を発しないギリギリのレベルまで引き出した魔力を伴い『デュランダル』を、薙いだ。


 槍と剣が激突する。俺の手には僅かな抵抗が生まれ――それでも振り抜くことに成功。槍すらも消し飛ばす。


「――な」


 グディースがとうとう呻いた。紛れもない、驚愕の言葉。

 力を見誤った――そういう考えが、頭の中にあったかもしれない。


「ソフィア!」


 叫ぶと共に彼女が前に。そして、


「刻みなさい――精霊の力を!」


 力を解放。ソフィアは『スピリットワールド』と名付けられた一撃を、グディースへと叩き込んだ――


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