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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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魔族の炎

 扉の奥にあったのはドーム状の一室。床はやはり違うが壁に使用されている素材は転移魔法陣が存在していた場所と同じようなもので、俺達の住む青い世界が見えた。


「ようこそ」


 老獪な声。黒いローブに身を包んだ魔族。悪魔のような牙を剥く顔立ちながら、その体格は筋骨隆々とは程遠く、細い。

 腰が折れ曲がっているようなことはないが、声もあって老人のような印象さえ受ける。


「やれやれ、既存の備えで排除できんとは」


 愚痴るような声を放つと、ひどく面倒そうな雰囲気をまとわせながら魔族――グディースは言った。


「ともあれ、ここまで来た以上相応の態度で応じなければあるまいな。ようこそ我が居城へ。名はグディースだ」

「あんたを倒せば、魔物の動きが止まるんだろ?」


 アルトが大剣の切っ先を向けながら問うと、グディースは頷いた。


「いかにも……だがそうはならんよ。ここで全員死ぬのだから」


 お決まりのセリフを吐いた後、後方にある扉が閉まる。演出的にはゲームと同じ……さて、ここからどうなるのか。

 火属性に耐性を持つ道具については仲間全員に渡している。よってそれほどダメージを受けるようなこともないはずだが――


 刹那、グディースが両手を広げた。それと共に魔族の左右に白い球体の光が生まれる。大きさはバスケットボールくらいだろうか。

 アルトやエイナが警戒し、戦闘態勢に入った直後――グディースは告げた。


「――覚悟してもらおう」


 言葉と共に戦闘が始まる。アルトとエイナが踏み込もうとした瞬間、球体から魔力が発せられ、俺達の真正面に炎の壁が生まれた。

 当然アルト達は警戒を示す――が、その瞬間ソフィアが『ライトニング』を放つ。俺から事情を聞いているからこその行動。


 雷光が魔力球へまっすぐ向かう。結果、光は魔法によって叩き潰され、正面の壁が消失した。


「ほう、理解が早いな」


 グディースは言うや否やさらに魔力球を生み出す――そのペースはゲームの時と比べてずいぶんと早い。

 炎の壁が再度形成され、俺達の進路を阻む。強引に突破すればいいだけの話――アルトが剣を放つが、金属にでも当たったような音と共に阻まれる。


「くそっ! 障壁でも生み出しているのかよ!」


 グディースはさらに魔力球を生み出す。炎の壁はランダムにあちこち形成され広間を満たす。壁を上から飛び越えればという案も考えたが、おそらく障壁が上にまで伸びているだろうし、無理だろう。となれば――


 ソフィアがさらに『ライトニング』を放つ。先ほどアルトは武器を通過させることができなかったが、魔法は平然と貫通した。


「どうやら魔法は普通に通過するらしいな」

「――お前達の戦法は良く知っている」


 ここでグディースが語り出す。


「私は肉体労働が苦手でね。申し訳ないが、君達を近寄らせない方法を取らさせてもらうよ」


 ……ゲームの時と異なり、俺達の戦法を理解したうえでの行動というわけか。確かに接近戦を得意とする面々ばかりでは、不利になるのは間違いない。


「全員で魔力球を破壊するしかないね」


 キャルンが発言。本来ならそうだが……ここで俺は動いた。


「俺がやる」


 言葉と共に前に出る。アルト達が視線を向けた直後、俺は光属性中級魔法『デュランダル』を起動する。もちろん手加減をしたバージョンではあるのだが、グディースの能力を考慮すれば十分だろう。


「俺が魔力球を破壊する。残りの面々はグディースへ向け突撃してくれ」

「光の剣でどうするんだ?」


 アルトの問い掛けに俺は行動で応じる。炎の壁へ薙ぎ――僅かな抵抗はあったが、斬撃によって前方の炎が障壁ごと消えた。


「ほう、やるな」


 炎が再生しようと勢いが増す。けれどそこに追撃の斬撃。


「一気に接近するぞ!」


 俺は声を出し走る。光の剣により炎の壁を易々と突破できた。さらにソフィアが魔法を放ち、なおかつイグノスも攻撃を開始する。

 アルト達はそれに追随する。俺やソフィアは立て続けにグディースへの進路を阻む炎の壁を消し飛ばす。


 グディースの気配もここで変わる。どうやら現状では接近されると認識――奴はさらに魔力を高め炎を生み出す。


「あくまで近づかせないつもりか」


 俺は声を零しつつ容赦なく剣を薙ぐ。アルトやエイナも後続から突き進み、確実にグディースへと近づく。

 無論、接近した場合奴の攻撃だって苛烈になるのだが……火属性対策を施している以上、そう問題もないはず――


「このくらいでは容易に突き進むことができるというわけか」


 グディースが呟く。何か考えがあると察した直後、奴の魔力が一層高まった。

 俺はそれに応じるべく魔力を刀身に集中させ――次の瞬間、グディースの両手から赤い光が発せられる。


 名称は存在していなかったが、こいつは赤色の光弾を生み出して攻撃する――それが通常攻撃なのだろうと思いつつ、弾くべく構える。アルト達も同じように立ち止まり、


「まずは、そうだな。徐々に数を減らしていくか」


 言葉と共にグディースの周囲にさらなる光弾が生まれた。あれを一斉に、と思った直後俺達へ飛来してくる。


「回避!」


 後方にいる仲間達に叫びつつ、光の剣で攻撃を防ぐ。弾き飛ばすと他の仲間に当たる可能性があるので、光の魔力で相殺させる。


「優秀な剣士だ。おそらくお前達の中でリーダー格だろうと推測できる」


 俺を評価する言葉――


「しかしそういう人間がやられれば、お前達は窮地に立たされるだろう」


 何をする気だと思った矢先、ソフィアが何かを感じたか隣に移動してくる。


「ルオン様――」


 その時だった。突如俺の後方に炎の壁が生まれる。それはアルト達の他の仲間との連携を阻むもので、結果として俺とソフィアだけが炎の壁の内側に取り残される。


「ソフィア様!」


 エイナが叫ぶ。ここでソフィアは魔力球を見つけ出し、雷撃を放った。

 魔法により魔力球は消し飛ばすことができた――しかし今度はすぐさま再生する。


「少々骨だが、遠隔的に魔力を注ぐことは可能だ」


 グディースが俺達へ告げる。その間に俺は炎の壁に剣を打ち込んでみたが、先ほどのように破壊できない。


「貴様達の能力は把握できた。確かにその剣と魔法は脅威だが、私の力ならば抑え込むことができる」


 ――本気を出せば簡単に破壊できる代物だが……ここで全力を出した場合、どうなるか。判断が非常に難しいところだ。

 そしてグディースは俺達を誘うように道を空けている。二人となったため、迎え撃つつもりなのか。いや、これは――


「俺達を封じる炎の壁で、精一杯といったところか?」

「お前達を殺すために少しばかり力を維持しているだけだ。接近すれば勝てるなどと考えていることを、改めさせてやろう」

「ルオン様」


 そこにソフィアの声が。見れば、剣を握り何か考えがある様子。


「ここは私が。ルオン様はまだ」


 全力を出すのはやめておけと言いたいのだろう。そしてソフィアがどういう考えなのか――俺にも理解できた。

 新たな技である『スピリットワールド』を使おうとしている。


「いけるのか?」

「少々時間は掛かりますが」

「わかった。ならその時間を稼ぐ」


 一言告げて俺は前に出る――魔族に通用するかどうか、試すのには絶好の機会と言える。


「どう戦うか、決まったか?」


 その言葉に対し、ソフィアは力を集中させることで応じた。以前成果を発表した時と比べても魔力収束の度合いについては上手くいっている。


「ほう、面白いことをやっているな」


 何をするつもりなのか理解した様子。だが警戒感をあらわにしたわけではない。力の本質を全て見切ったというわけではなさそうだ。


「通用するか、試してみるといい」


 グディースの言葉。それに対し、俺は剣を構え応じた。


「ああ、そうさせてもらうさ――」



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