とある依頼
俺とソフィアはオーダの屋敷のある町を離れ、ゲーム上でも存在していた町に辿り着いた。
交易路がいくつも合流する場所が、バールクス王国の西に存在する――名はシルベット。町は十字路によって四つの地区に分かれており、都以外に他国へ赴くための道がそれぞれ存在している。
ゲームの中では、拠点となる町の一つだった。今現在、俺達は大陸でも西部にいるのだが、ここは色んな場所に行くための要所となっており、五人の主人公全てで何度も足を踏み入れた。
修業時代も何度か訪れたことがある……交易路を兼ねているためか規模も相当で、非常に重要な場所である。
この場所は魔族達にとっても襲撃する絶好のポイントなのだが……この町を守るためにかなりの騎士や魔法使いが存在している様子。都が襲撃されたことでその兵数もさらに厚みが増し、町の外に常駐する兵団もいるくらいだった。
「この町を失うとまずいということが、わかっているのでしょうね」
町へ入る段階でソフィアは呟く。俺は首肯しつつ門を抜け――物々しいながら活況な町へと入った。
確かこの町はゲーム上で襲われないはず……理由が語られていたかは憶えがないけど、最後まで魔族に襲撃を受けず無事だったわけだ……何か理由があるのか気になるけど、さすがに調べようがないので考えないことにしておこう。
そしてここには冒険者ギルドがあって、様々な依頼を受けることができる……以前町を訪れた時に登録していたので利用することができる。
ちなみにゲーム上に存在していた依頼内容としては、ある場所の魔物を倒してくれとかそういうものが多いけれど、サブイベントだからか花を摘んできてくれとか、どこか牧歌的なものも用意されている。魔王に攻撃されている状況を考えるとそんなことをしていていいのかと思ってしまうのだが、依頼をある程度こなすと専用アイテムとかもらえるので、やり込む場合は依頼も受けることが必須となってくる。
ただ現実世界で時間的な制約もある以上、そんな悠長な依頼はやらないけど……で、俺はソフィアを宿に残し一人ギルドまで訪れた。
他の人物がやっていたらどうにもならなかったが……あった。依頼名『森の怪物を討伐してくれ』というやつが。ギルドの依頼はシナリオの進み具合によって変わってしまうため、放っておくと消えてなくなる。現実世界になった状況では他の冒険者が依頼を受けたという解釈でいいだろう。しかし、まだ残っていた。
依頼主は町から南西にある森林地帯に近い村の村長。話を聞きに行くと魔物の瘴気のせいで森がおかしくなり、色々な魔物が出始めた。よって魔物を駆除して欲しいというものだ。
報酬としては、決して高くない。村で出せる依頼料としては限界もあるのだろうと思いつつ……ただゲームだと、序盤ではそれなりに高価な毒を防ぐアクセサリとかが落ちているため、得られるアイテムなどを考慮すると十分見返りがある。現実世界になってその辺りのアイテムが落ちているのか疑問が残るが……ともかく、俺はこの依頼を受ける旨をギルドの人間に伝えた。
推奨レベルとしては、フィリが拠点としていた村の襲撃イベントに遭遇した時とほぼ同じか、少し下といった程度。シナリオの自由度が高めであるフィリならこの町に序盤から訪れることが可能なので、受けることができる。難易度もそれほど高くないので、経験値稼ぎにも最適な依頼である。
で、俺はこれを利用しソフィアを検証する……彼女は城を脱出してから魔物と交戦していないので、レベルはまだ上がっていないはず。なら、この森に出現する魔物は推奨レベルと同じか、少し下くらいだ。単独でも十分魔物を倒すことはできるはずで、彼女の成長能力を確認することができる。
段取りとしては、俺は外で待つと言い、ボスを倒し何か証を持ってきたらクリアということにしておく。実際は魔法を使って身を隠し密かに彼女の後を追い動向を観察。もし彼女がピンチに陥ったら出てきて助ければいい。
ソフィアは言葉の端々から俺に直接鍛えて欲しいような素振りを見せているのだが……これについては検証次第としか言えないので、現時点では保留としよう。どこまでダンジョンを進めたかでどうするかは決めてもいいかな……例えば半分も進まなかった場合は成長能力もフィリなどと劣っていると考えてもいい。そうであれば「ある程度強くなるまで指定する場所で修行を」とでも言えばいいかな。一応、それなりに候補もある。
もちろん俺が直接鍛えるということも考慮に入れているけど……使い魔を通して知った主人公達の動向から、回避したい嫌なイベントも当分はなさそうなので時間的にはそこそこあるのだが……うーん、やっぱりどのようにするかは結果を見て考えるとしよう。
そして宿に戻り依頼内容をソフィアに説明――すると、魔物の仕業ということで相当なやる気を見せた。
「村の人々が困っている以上、放っておけませんね」
「ああ。依頼を使って君の能力を確認するというのは少し不満があるかもしれないが……これくらいしかソフィアの腕を試せるものがなかったから、我慢してくれ」
「いえ、気にしていませんので……出発は明日ですか?」
「そうだな。数時間も歩けば到着するらしいから、早朝から行くことにしよう」
「わかりました。よろしくお願いします」
「ああ」
これで話し合いは終了。それからこの町で一泊し、俺達は村へ向かうことになった。
翌日、陽も出ない内から俺達は該当の村へと向かう。到着したその場所は規模はそれなりの農村。町から数時間程度なので街道だって遠目に見えるくらいの場所に存在している、ずいぶんとのどかな村だった。
「お待ちしていました」
依頼を受けた人間であると村人に告げると、村長がやってきた。
「お二人……今回の依頼について、改めてご説明する必要はありますか?」
「大丈夫です」
「では、ご案内します」
というわけで、村長の案内により俺達は村のはずれへ向かう。そこで森の入口が見えたのだが……確かに、なんだか気配が濃い。
この世界における瘴気というのは、魔物が発する魔力だ。濃さや質は瘴気を発する魔物に依存し、ある程度慣れればどの程度の力なのか判別することができるようになる。
目の前にある森の入口からは、ゲーム上で出現していた魔物の瘴気を感じ取ることができる。俺としては大したことないのだが……雰囲気は中々のもの。
「森の中の様相も以前と変わっております。まるで迷路のようになり、日中であっても陽があまり当たりません」
「間違いなく魔物の仕業ですね……ここは任せてください」
「お願いします。もし休息などが必要であれば、私達にお申し付けください。宿代わりとなる部屋なども用意しましょう」
言葉を残し、村長は去っていく。それを見送った後、俺は改めてソフィアに説明を始めた。
「さて、こうした瘴気のある場所は、その根源となる魔物が必ず一体はいる。それを倒すことが目的となるだろう」
「はい」
「で、俺はソフィアの能力がどの程度か、素養を確認するわけだが……俺は森の外で待っている。もし根源の敵を倒したなら、何か証となるものを持ってくること。それでクリア。俺も認めるよ」
「わかりました」
「あと、夜までには戻ってくるように。いいな?」
「はい……あの」
「どうした?」
「どのくらいまでに敵を倒せば、ルオン様は完全に納得するのでしょうか?」
……考えていなかったな。けどまあここで数日かけているようでは成長性も低そうだし……フィリと戦った経験から考えると――
「そうだな……森の気配から考えて、一日かな」
「……わかりました」
ソフィアは返事をして、森を見据える。そこで彼女の左手にある腕輪が目についた。
これは装備を整えさせた時に渡した物。魔物の攻撃を受けて万が一、という事態に陥ったら発動する緊急用の結界プラス癒し系魔法が封じられている。ちなみに彼女には「身に着けていると防御力が多少上がる」とだけ説明してある。これで瀕死の状態になった場合でもおそらく、大丈夫なはず。俺は彼女の後を追うつもりだが、さすがに助ける間もなく魔物から立て続けに攻撃を食らったら危ないからな……もし、他に想定外の状況に陥ったら都度対応すればいい。
ソフィアは腰の剣を抜く。お膳立ては整った……彼女は歩み出す。
それを黙って見送る俺……やがて姿が見えなくなった時、こちらも行動を開始した。




