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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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打ち合わせと行軍

「話と言うのは、これから戦いに行く五大魔族についてです」


 そう切り出したソフィアと、俺は視線を合わせる。


「グディースという名前……こちらへ来る途中で話はしましたが、再度確認を」


 ――旅の途上でその辺りについての説明は行っていた。しかし居城へ攻め込むということで、もう一度話を聞いておきたいのだろう。


「わかった。ではまず……魔族グディースの居城についてだが、ベルーナのように迷路になっているわけじゃないし、地下に道があるわけでもない。ただし奴の居城は、城内限定で使用できる転移装置が存在している」

「転移魔法陣が城に存在し、魔族は上空にいるんでしたよね」


 俺は頷く……転移技術は天使の遺跡から入手したもの。グディースは、大陸に残された天使の技術を検証するという役割も担っている。


「次はグディースそのものについて。属性については説明していたか?」

「はい。火属性ですね」

「そうだ。遠距離攻撃主体の能力であり、接近されないように炎の壁を形成する。その壁を突破するには、グディースが生み出した宙に浮かぶ白い魔力球を破壊しなければならない」


 ゲームでは炎の壁が進路を阻み、点在する白い光を破壊することで壁を突破できた。おそらくその魔力球に炎の壁を形成する魔法が仕込まれているのだろう。


「魔力球については、たぶんグディースが事前に準備をしていた魔法だとは思う。物語の中ではいくら壊しても出現していたから、それを破壊し続けるだけでは突破は難しいと思う」

「戦い方としては――」

「二通りある。一つは壁を破壊し接近戦に持ち込むこと。この場合断続的に魔力球を破壊する必要がある」

「一定周期でそれを破壊しないといけない、と」

「ああ。それに加え炎の壁の形も変化するため、常に同じような戦い方はできない……けど、力を抑えている俺でも対応できると思う」


 こちらの発言にソフィアは「わかりました」と応じ、続ける。


「そしてもう一つの戦い方は……遠距離戦ですね」

「そう。魔法の撃ちあい……ただ城に突入するメンバーは、アルト達や騎士達……必然的に接近戦向けの戦力ばかりだろう。グディースに通用する魔法を使えるのが俺とソフィアと、あとはイグノスくらいだから、接近戦を行う方がいいだろうな」


 ――グディース自体の攻撃能力は低めであり、ゲームの製作者としては炎の壁を張り巡らせ分断し各個撃破していく、みたいなスタイルを想定していたのかもしれない。実際は攻撃力が低めであることから全滅する危険性は少なく、回復さえしっかりしていれば倒すのはそう難しくない。五大魔族でも一番楽な相手と言われている。


「炎の壁については、不用意に触れれば火傷する。さすがにアルトも突っ込むような真似はしないと思うけど……適当な理由をつけて、炎耐性を高くする道具を渡しておくことにしようかな」

「わかりました」


 頷き、ソフィアは笑う。それに俺は眉をひそめ、


「どうした?」

「いえ……その、質問なのですが、このような戦いがあった場合、レーフィンとはこうして事前に会話を?」

「まあ、色々と打ち合わせはしていたな」

「そうですか」


 どこか満足げ……ソフィアとしては、こうして事情を話すことを嬉しいと感じているのだろうか。


「……ソフィアにはしっかりと働いてもらうから、そのつもりで頼むぞ」


 こちらが話をまとめるべく言うと、彼女は深く頷いた。


「大丈夫です……ルオン様も、無理なさらぬように。それと」

「それと?」

「もし何かあれば、微力ながら私も協力しますから」


 その言葉からは、何があっても自らがフォローに回るという考えがある様子。従者だからこその発言なのか、それとも他に要因があるのか――


「……ソフィア」

「はい」

「頼む」


 言葉に、彼女はほのかに笑みを浮かべながら頷いた。


「あ、それと」


 もう一つ思い出した――俺は使い魔を用いてシルヴィ達に連絡をとる。


『ルオンか、どうした?』


 シルヴィの声。そこで俺はこちらで起こった一連のことを伝える。


『大問題だな……五大魔族との戦いは大丈夫か?』

「もし何かあったら俺がどうにかするさ……シルヴィ、そっちはフィリやラディ達以外に国の騎士とかが介入していないか?」

『こっちも裏切り者がいるという可能性か。魔族に懐柔されている人間はいないと思うが……注意しよう』

「シルヴィ」


 ソフィアが声を上げる。


「気を付けて」

『ソフィアも。究極の一撃を魔族にぶちかましてやれ』


 その言葉と共に話が終わり――俺とソフィアも解散となった。


 俺は家を離れ、眠るためにあてがわれた民家に入る。そこで呟くように声を発した。


「……ガルク」

『どうした?』

「改めて確認だ。シルヴィ達もほぼ同時期に五大魔族を攻略することになる……大丈夫か?」

『間に合わせるさ。そちらは大丈夫か?』

「グディースとの戦いはそう心配していないけどさ……その後が大変そうだ」

『我々は作戦を遂行してみせる。ルオン殿も頼むぞ』

「わかった」


 頷き――ようやく、長い一日が終わった。






 翌日、行動を開始したのは陽が昇る前。バルザードはレーフィンと共に既に村を離れ、リリシャが騎士達を先導していた。

 そして俺やアルト達は、その後方に追随する形となる。またソフィアがいるためエイナが俺達に同行する。


「全員、覚悟はできていますね?」


 エイナが問う。するとアルトが愚問だと言わんばかりに声を上げた。


「当然だ。言っておくが、そこいらの騎士よりは強いと自負してるぞ」

「……期待していますよ」


 そう述べた後、エイナはソフィアへ目を向ける。


「……ソフィア様」

「大丈夫」


 その言葉にエイナは何も言えなくなる――さすがに居城へ踏み込んではもらいたくないようだが、ソフィアの意志が固い以上、エイナは何も語らなかった。


「――では、出発!」


 騎士達の先頭にいるリリシャの声がした。同時、隊が動き出す。


 俺達はその後方に続く――ここで俺は使い魔を用いて周囲を確認。居城の周辺に魔物が多少なりともいる。また村の入口から少しの間森が続くのだが、こちらに気配はない。


 騎士団が動き出したことは察していると思うんだが……昨夜夜襲を行った以上、警戒はしているはず。となれば簡単に居城へ行かせてくれないと思うのだが、グディースはどう対応するのか。


 何事もなければそれほど時間も掛からず到達できるはず……と、ここで魔物の遠吠えが聞こえた。使い魔を通し、居城周辺にいる魔物によるものだと把握。


「早速だな。いや、俺達が動き出すのを待っていたのか?」


 アルトが疑問を口にする。騎士達もにわかに警戒を始めるが、行軍をやめることはない。


「……もし、魔物が大量に現れるとしたら」


 ここでエイナが口を開いた。


「作戦会議でも話したように、二手に分かれる可能性は十分あります」

「俺達は城内城外、どっちの役回りになるんだ?」


 アルトの質問に、エイナは「わかりません」と答える。


「状況に応じてとしか……居城に入る前に体力を消耗するのは得策ではない。よって判断は早い方がいい」

「それを決めるのはリリシャさんが?」


 俺が尋ねる。するとエイナは、


「……私達は、独自に判断しろと」

「俺やアルト達は騎士の指揮下ではなく自由にやれと」

「信頼されているのか、作戦なんか聞きはしないだろうと突き放されているのか」


 アルトが言うと、エイナの表情が少しむっとした。


 両者、そりが合わなそうだな。これが問題とならなければいいが……少々懸念を抱きつつ、俺は魔族の居城へと向かった。



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