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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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背信の騎士

 騎士の動きは相当速く、周辺にいる騎士ならば対応できずに終わったかもしれない……だが俺は即応。剣を抜き、真正面から騎士の攻撃を受ける。


「どうやら体については瘴気の影響を受けていないな……なぜ、魔族に協力する?」


 問い掛けるが、返答はさらなる攻撃だった。周囲にいた見張りの騎士は唐突に始まった攻防を見て右往左往している。直に割って入ろうとするはずだが、裏切りの騎士としてはそれよりも早く決着をつけたいはず。


「――死ね」


 騎士から短い呟きが発せられ、さらに押し込んでくる。予想通り短期決戦を目論んでいる。

 同時、体を弾ませ勢いをつけた斬撃が俺へと迫る。虎が首に食らい付こうかという獰猛さで襲い掛かって来るが、俺は平然とそれを受けた。


「……物騒だな。とはいえそっちも、俺に看破されて後がないと思ったか?」


 さらに問い掛けるが効果はなし。先ほどと同様物理攻撃による返答が成された。

 このまま膠着状態に陥ると、不利になるのは間違いなく騎士だが――その時、裏切りの騎士は剣を掲げた。周囲の騎士達が何事かとざわつく中で、彼は叫ぶ。


「――幻魔よ!」


 声の直後、一瞬のうちに瘴気が騎士の持つ剣から噴き出した。途端周囲の騎士達は後退し、俺は警戒のため目を細める。


「魔物は囮で、本命はあんただったようだな」


 こちらの言葉に対し、裏切りの騎士は何も答えない――が、その時使い魔から報告が。

 別の騎士が、周囲を警戒しながら忍び足を行う光景。その報告を受け、俺は直感する。


「複数人、裏切り者がいるのか」


 苦々しく声を発した直後、対峙する裏切りの騎士が動いた。先ほど以上の鋭い動き――俺を一撃で仕留めるための行動で間違いない。


 対する俺の動きは――放たれた剣を、まず力を込めて弾く。相手の武器は魔族の物だが、身体能力は人間のまま。全力には違いないはずだが――魔力強化によって増強された俺の剣戟に耐え切れず渾身の技は弾かれ、さらに剣を落としそうになった。


 戸惑う騎士。俺はその隙に、胴を一気に薙ぐ。斬撃を直接加えるのではなく、刀身に風をまとわせ吹き飛ばすような形。

 結果、騎士の体はあっさりと浮いた。風と衝撃波により吹き飛び、騎士は地面に倒れる。手応えはあった。間違いなく気絶しているはずだ。


 その間に他の騎士が近づいてくる。どういう状況なのか俺と騎士を交互に見る間に、こちらは口を開いた。


「その人物は魔族の力を持った剣を所持していました。捕まえておいてください」


 言い捨てるように述べると、俺は元来た道を走り――あっという間に、ソフィア達のいる民家の前に。

 先ほど使い魔が報告を行った騎士とはそこで鉢合わせとなった。抜身の剣を握る俺に対し、騎士は困惑した表情。


「――あんたも、さっきの騎士と同じように魔族から武器をもらったのか?」


 問い掛けに対し、騎士は体を震わせ――決断は早く、俺を始末するべく剣を抜いた。


「遅い」


 しかし俺は一言発し、抜き放とうとする騎士の剣を狙い斬撃を放った。


 結果、騎士の剣を大きく弾かれ上空へ。相手が硬直する中、俺は一気に間合いを詰め先ほどの騎士と同様に風の斬撃を浴びせる――吹き飛び、騎士が倒れるのと弾いた剣が地面に落ちたのは同時だった。


「――ルオン様!?」


 民家からソフィアが飛び出してくる。後方にはアルト達の姿も見え、


「……瘴気を発する武器を所持する騎士がいた」


 俺が端的に説明すると、ソフィアは衝撃を受けたのか絶句した。代わりに声を出したのはアルト。


「つまり、裏切り者が紛れ込んでいるってことかよ」

「そうみたいだ……さて、どうするか」


 地面に落ちた剣を見据えながら俺は呟く。それと同時、村の入口方向から魔物の雄叫びと、金属音が聞こえ始めた。あちらも戦闘が始まったらしい。

 使い魔で上空から状況を確認。今のところ他に怪しい動きをする者はいない。


「……ソフィア」

「はい」

「俺は他に裏切り者がいないかを確認してくる」


 こちらの言葉にソフィアは小さく頷いた。


「アルト、悪いがソフィアと共に家の中で待機していてくれ」

「いいのか?」

「ああ。こういうことは俺一人の方がやりやすいから」


 言うと同時に歩き出す。騎士は見張りをする以外にもいる。一番気になるのは、魔物と戦う騎士達。


「ガルク、接近したら魔族の武器だとわかるか?」

『大丈夫だ』

「戦いになって魔力が乱れていても?」

『問題ない』


 俺は「なら頼む」と言い、戦場へと走る。無論使い魔で周囲の状況を確認。裏切りの騎士は二人だけだったのか、他に動きはない。

 すぐに戦場に到達。まず周囲を見回し、


「ガルク、どうだ?」

『……それらしい気配はないな』

「となると、魔物は陽動で狙いは別にあったということか?」

『王女という存在から、狙ったのかもしれん』

「……その可能性もあるな」


 会話をする間に騎士達が魔物を押し返す。加勢に入ろうか考えていたのだが、連携は見事の一言で騎士達は負傷もせず対処している様子。問題ないようだし、ここは別の場所にいる騎士の検証をした方がいいだろう。


「まだ見張りをしている騎士の中に裏切り者がいるかもしれない。ガルク、調べるぞ」

『いいだろう』


 俺は村の入口を離れ駆ける――そうして戦いと共に、夜も更けていった。






 結局、裏切り者は最初の二人だけで、他に武器を所持している者はいなかった。

 とはいえ俺達はあくまで武器を所持している人間の存在を確認しただけで、他に魔族と内通している人間がいる可能性は十分ある。


「……これは、かなりまずい状況になったな」


 ソフィアのいる民家へと戻ってきたエイナ達に説明し、バルザードが懸念の声を上げた。それに同調するのか、民家へやって来たリリシャも渋い顔をしている。


「騎士達も事実を受け混乱している。明日以降魔族の居城へ踏み込むという算段を立てていたが……この状況では非常に危険だ」

「私達が魔物達を探知できなかった理由も判明しました」


 次いで発言したのはエイナ。


「魔法陣を利用した魔力探知と目視を行っていましたが、魔法については騎士二人の妨害により魔物を発見できないようにされていた。そして目視の方は幻術により確認できなかったということになります」


 ……俺が発見できたのは、相手の幻術をすり抜けたということだろう。使い魔に特別な仕掛けをしているわけではないのだが、魔法生物ということで幻術が通用しなかったのかもしれない。


 推測を行う間に、エイナはさらに語る。


「おそらく裏切った騎士と魔族達はどこかで打ち合わせを行い、襲撃の機会を探っていたのでしょう。その中で居城へ攻め込むこの状況で、奇襲を掛けようとした」

「王女がやって来たことも関係しているでしょうな」


 バルザードがソフィアに視線を送りながら言う。それに俺は頷きつつ、彼に質問。


「捕らえた騎士二人は?」

「拘束し、民家の一つに押し込んでいる。彼らの処遇についてはこちらが行う……が、彼らのような存在がいたということで、ある問題が」

「問題?」

「そう、厄介な問題があるの」


 次に声を上げたのは、リリシャ。


「この調子だと、本部の方にも間違いなく裏切り者がいるでしょう」

「そこが一番の懸念だ」


 バルザードが、重い表情を見せた。


「本部へ報告しなければならないが……それによって本部側でも裏切り者が動き出す可能性がある。どちらにせよ混乱は必至。手早く解決するには残る裏切り者が動き出さないうちに対応しなければならないが……誰が裏切り者か、判別手段がない」


 ――ゲーム上ではその辺りほとんど描写されていなかったが、見えない場所でこういう戦いをしていたのかもしれない。


 この対策としては、俺もいい案が思い浮かばないな。対処するためには、どうすれば――


「――提案があります」


 突然の声。発言の主は、姿を現したレーフィンだった。


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