夜襲と――
魔物の群れを発見し、俺の頭に夜襲という言葉が浮かんでくる。
「居城へ向かおうとするタイミングで仕掛けたというのは……意味があるのか?」
呟きつつ使い魔からさらに報告。どうやら魔物の群れは、確実にこちらへと接近している様子。
「まずいな」
俺は寝るのを中断して装備を整え、家の外に出る。そして手近にいた騎士の一人に声を掛け、バルザードの居場所を尋ねる。
そして目的の家には――彼とさらにエイナやソフィアの姿があった。
「……作戦会議か?」
「いや、単に私が様子を見に来ただけだよ」
苦笑を伴い語るバルザード。
「それでは、失礼させてもらう……ルオン殿も二人に用か?」
「緊急事態だ」
その言葉に、家の中にいた全員の表情が引き締まる。
「実は使い魔を飛ばして周囲の様子を確認していたんだが……魔族の居城のある方角から、魔物の群れが迫っている」
「……ほう、群れが?」
「規模は、どれほどですか?」
ソフィアが問う。俺は彼女を見返し返答。
「夜だから断定したことは言えないが……少なくとも、奇襲でこの村の騎士を倒すことができる戦力はあるんじゃないか?」
「本当にこちらへ向かっているのですか?」
今度はエイナが問う。
「私達も居城を警戒していますが……」
「俺の使い魔から見て迫っているのは間違いない。偶然こちらに向かっているという可能性もゼロじゃないけど、群れは統率がとれていることや、居城のある方角から来ていることを考えると――」
「居城にいる魔族が私達に向け放った刺客だと」
「俺はそう考える……どうする? 取り越し苦労なら一番いいが」
「すぐに、対応を行うとしよう」
バルザードが言った。
「対策をしなければ相当な被害が出るだろう。ルオン殿は使い魔による偵察を継続し、何かあったら連絡を」
「わかった」
バルザードは即座に外に出て騎士に通達。それがすぐに拡散し――村全体に伝播する。俺は外に出てアルト達と合流。事情を説明。
使い魔で観察していると、魔物はどんどんと近づいてくる。ここで俺はバルザードに訊く。
「近づいてくるのは間違いないな。どう対応する?」
「ルオン殿のおかげで奇襲の心配はなくなった。この時点で相手は利を失っているものと考えていい。騎士をきちんと編成すれば、対応は難しくないだろう」
「もうあまり時間はないぞ?」
「大丈夫、既に動き出していますよ」
エイナが言う。視線を転じれば騎士達が整然とした動きで戦闘準備を始める光景が。
「それじゃあ、俺達はどうすれば?」
「ルオン殿は、王女の護衛を頼む」
バルザードの言葉に、俺は眉をひそめる。
「護衛?」
「騎士の方で対応は行う。ルオン殿はアルト殿達と共に、私達のいた家で待機及び王女の護衛を頼む。長旅で疲労しているだろ?」
気を遣ってくれているらしい。俺としては大丈夫だし、近くにいるソフィアの顔を見れば自分も戦うという意思をみなぎらせているのだが、
「ルオンさん、ここは任せようか」
ここでアルトが口を開いた。
俺は彼を見返す――言いたいことはわかる。俺達の技量が加われば魔物に対処するのは容易。しかし騎士の顔を立てるべきじゃないか、ということだ。
「……わかった。気を付けてくれ」
「うむ」
バルザードは俺に応じると、エイナと共に村の入口へと向かった。
それを見送った後、アルトは再び口を開いた。
「俺達は待機ということだな。ま、ゆっくりしようぜ」
「ずいぶんと悠長だな」
声を零しつつ、ソフィア達のいた家の中へ。
「そう心配してはいませんが……」
ソフィアは言う。俺も同意するように頷きつつ、彼女が座る横が空いていたので、そこに着席。
「別にバルザード達の実力を疑っているわけじゃないけど――」
さて、この夜襲についてはゲームの範疇なのか……とはいえ、グディースにまつわるイベントは省略していることもあって、魔物がどういう動きをしていたのかというのがまったくわからない。
単にイベントの一つとして生じた戦いならばさして怖くない。だが、もしそうでないのならば――
「……念の為、村の周囲を観察してみるか」
使い魔に指示を出し、村とその周辺を上空から観察。上から見ればはっきりとわかるが、騎士達はきびきびとした動きでいずれ来る魔物に備え準備をしている。
村の周辺にある森とかに、魔物はいない様子。仮に俺が発見した魔物が陽動だとしても、次から次へと襲い掛かってくるという感じではなさそうだ。
「何かおかしなところは?」
ソフィアが問う。俺は小さく首を振りつつ返答。
「いや、大丈夫。迫る魔物さえ倒すことができれば――」
そこまで言った時、一つおかしな点に気付いた。
「……ん?」
「どうした?」
アルトが問う。俺はそれに答えないまま、使い魔にそのおかしな場所を観察するよう指示を出す。
それは、村の端。騎士達は当然魔物と相対するために動いているが、全兵力をそこに傾けるわけじゃない。周囲の見張りのためにそれなりの数の騎士が村の周囲を見張っている。
だが、一人――上空からでないと違和感を覚えないレベルではあるのだが、他の騎士とは異なる動きをする人物が。村の外を注視しているのではなく、村の中や見張りの騎士達にずいぶん視線を送っている。似たような動きをする騎士は周囲にいない。これは――
「……まさか」
「問題があるのか? なら、すぐに解決した方が――」
アルトの言葉に、俺は彼を見返す。視線が重なった相手は訝しげにこちらの顔を覗き込む。
次いで、ソフィアに顔を向ける。俺が何も発さないため疑問を感じている彼女ではあったが、態度から不穏なものを感じているようだ。
「……アルト」
「ああ、どうした?」
「ちょっと外の様子を見てくる。ソフィアと一緒にいてくれ」
「……ルオン様?」
ソフィアはどうしたのかと俺の名を呼ぶ。だがこちらは首を左右に振り、
「確認して来るだけだ」
立ち上がり、誰の返答も聞かないまま歩き出す。アルト達は多少なりとも戸惑った様子だったが、俺は民家を出て早歩きで移動を開始。
『何があった?』
ガルクが問う。俺の体の中に存在している分身のガルクだが、俺が放った使い魔の状況を確認できるわけではないので、質問したのだろう。
「一人だけ、ずいぶん変な動きをする騎士がいる」
『裏切り者か?』
「確定したわけじゃないが……ガルクも、注意してもらえないか?」
『いいだろう』
ガルクの返事を聞いた直後、俺は当該の人物を発見した。見た目、他の騎士となんら変わらない存在。だが、
『――ふむ』
頭の中でガルクが呟く。
『ルオン殿、近くに寄ってすぐにわかったぞ。彼自身が魔族というわけではない。どうやら装備している剣に、魔族の力が宿っている』
……ガルクが接近しないと気付かないほどなので、目立たない武器なのだろう。
「あの、どうしましたか?」
騎士が問う。全身鎧で兜まで被っているので容姿についてはほとんどわからない。
どうしようか悩み……少し間を置いて、俺は発言した。
「一つご質問が」
「え? あ、はい。どうぞ」
「その剣、どこで手に入れましたか?」
僅かに眼光を鋭くして述べる――俺の言わんとしていることを理解したか、騎士は硬直する。
どう動く……こちらが沈黙していると、彼は一歩引き下がる。
「質問の意味をわかったみたいだな……事情を話せば、少なくとも命までは取らない」
俺は言う。だが騎士は硬直したまま。
「確認だが……もしや、魔物を手引きしたのはあなたなのか?」
――その言葉の瞬間、騎士は俺目掛けて剣を抜き、襲い掛かって来た。




