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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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騎士と従者

 部屋を出て、エントランスへ行くと既にソフィアが待っていた。


「お待ちしていました」

「……もう出るのか?」

「はい。急がねばならないでしょう?」


 周囲には騎士。ソフィアの行動を見て護衛の一人でもつけなければと思っている様子なのだが、誰も口にしない。

 その中で、ソフィアは近くにいるフオレへ言及する。


「フオレ。お父様のこと、頼みました」

「はい……ソフィア様も。その実力を見れば、いらぬ世話かもしれませんが」


 ソフィアは微笑を浮かべる……この場にいる誰よりも、ソフィアは強い。それを騎士達も理解している。


「では、行きましょう」


 そして彼女は俺に言う。頷き返し、俺はソフィアと共に屋敷を出た。


「……いいのか?」


 俺は外に出た直後尋ねる。すると、


「戦いはまだ終わっていませんから」


 その視線は真っ直ぐ向けられ、既に次の戦いを思い描いている様子。俺はそれ以上何も言わず、彼女へ指示した。


「なら、進もう。アルトについては動きがあったら俺が対応する。エイナの所へ行こう」

「はい」


 ソフィアは了承。こうして、俺達はさらなる移動を開始した。






 移動の間に、少しずつ情勢が変化し始める。とはいっても五大魔族との戦いに着々と進んでいる、ということだが。


 フィリとエイナは順調にイベントを消化している。シルヴィとクウザは既にラディと合流が完了し、事情を説明し、フィリのところへと向かっている。この調子なら、五大魔族と戦うタイミングでフィリと合流することになるだろう。


 こちらは魔法の発生さえ止めればいいので、周辺の被害については考慮する必要がない。イベントで出現する魔物で五大魔族の能力を推し量れるが、シルヴィ達はもちろん、フィリ達も十分なレベル。倒すことは問題なくできるだろう。


 もし、問題が発生した場合は……魔法阻止自体は止めなければまずいので、俺が全力で移動して対処するべきだろう。シルヴィ達との連絡を密にして、常に状況を把握できる態勢を整えておいた方がいい。


 そしてエイナ達だが……こちらは五大魔族の居城へ向かうくらいの段階で合流という形になりそうだ。


「ルオン様、一つご質問が」


 道中、ソフィアが尋ねてくる。言葉を待っていると、彼女は複雑な表情をしながら質問を行った。


「今回は私が姿を現すことで、様々な出来事が起こるかと思います」

「だろうな。けど魔族についてはカナン王が動きを大きく制限している上、王の周辺も兵力が集まっている……大丈夫だと思うが」

「その辺りは、屋敷でお父様と話をして問題ないとは考えています。個人的に思うのは、エイナが所属する騎士団です」

「何か問題があると?」

「はい、その……私が姿を現せば当然、エイナ自身私と共に行動すると申し出ることでしょう」

「今までのように、四人で旅をするのは難しいというわけか」

「はい、エイナも加わることになるかと……ですがそうなった場合、エイナが所属する騎士団としては好ましくないですよね」

「……面と向かって非難するようなこともないとは思うけど、納得しない人物だっているかもしれないな」


 どの道ソフィアが騎士団と関わることになれば、その実力を含めて祭り上げられるのはほぼ確定。そしてカナン王にもこのことは言ってあるから、連携を模索するのも目に見えている……となれば、


「なら、いっそ開き直ろうか」

「……はい?」


 ソフィアが聞き返すと、俺は説明を開始。


「つまり、姿を現す以上は開き直って、騎士団と共に行動するようにする」

「え、しかしそれでは――」

「五大魔族を倒した後は南部侵攻のこともあるし、なおかつ魔王との戦いが控えている。そうなれば各地を回ってなんて余裕もなくなるし、俺達だって数人でパーティーを組んで活動というのも難しくなるかもしれない。ならいっそ、騎士団と共に行動し今後の対策を立てた方が建設的だと思う」

「シルヴィや、クウザさんはどうしますか? あと、フィリさんを始めとした方々は?」

「二人と合流した際はまあ間違いなくフィリ達も同行しているだろ。なら彼らに一緒に戦ってもらうよう打診しつつ、シルヴィ達にも騎士団と共にする旨を伝えればいい。カナン王もおそらく干渉してくるだろうし、一度顔を合わせておいてもいいか。まあ戦いが終わった状況を見て考えよう」

「わかりました」


 了承するソフィア――とはいえ姿を現し活動する以上、むしろ兵力を集めるべく派手に立ち回った方がいいだろう。その方が人間側の士気も上がるし、魔族達も警戒する。


「剣の作成については俺単独でもできるから、心配はいらない。むしろソフィアは人間側の軍勢を取りまとめる役目とかをしてもらえると――」


 と、そこまで語ってあることに気付く。


「そうだな、今後のことを考えると、ソフィアの従者としての立場もそのタイミングでやめる方向に――」

「いえ、私はルオン様の従者です」


 俺の言葉を遮り語るソフィア。


「今後、私の王女としての立場が必要となれば、役目を全うしますが……ルオン様の従者であることは、変わりません」

「……元々、王女であるソフィアが従者というのも変な形だと思うんだけど」

「いえ、私はルオン様の従者です」


 固執しているなぁ……言っても聞かないのはなんとなく理解できるので、俺は頷いた。


「他者に説明するのも面倒かもしれないが……わかったよ。ただその辺りのことで混乱があったなら――」

「ご迷惑をお掛けしないよう対処します」


 ソフィアは力強く言う。そこまで明言したのなら、これ以上何も言えないな。


「……それじゃあ急ごう。エイナ達の騎士団と合流した後のことは、状況に応じて考える」

「はい」


 彼女は返事をして――俺達は、騎士団の下へと急いだ。






 移動の最中、いよいよエイナとフィリが五大魔族と戦う状況にまで至る。


 ただ、一つ朗報が。俺は使い魔である程度魔族側も監視しているが、どうも魔族としても同時攻略というのは予想外だったらしく、魔族の動きが多少混乱しているように感じられた。バールクス王国にいる魔族シェルダットも、迷っているのか動く気配がない。五大魔族と連携し攻撃を仕掛けてもよさそうな状況だが……カナンの動きがやはりそれを抑制している。


 とはいえ、この状況はさほど長く続かないのは予想できた。他の魔族達が動き出さないうちに、五大魔族との戦いを終える……そう心の中で決心し、俺達は目的地付近に辿り着いた。そこは――


「混乱、していますね」

「五大魔族の実験は、予想以上に範囲が広いらしいな」


 俺達は偶然立ち寄った村に蔓延る魔物を撃破した。ソフィアの能力なら楽に勝てるレベル――五大魔族の能力は魔物の強さに応じたものとなる。ここから考えるに、五大魔族のグディースの実力も見立てほど高くないのかもしれない。


 実験の範囲はかなり広く、使い魔で観察したところ対応に苦慮している様子。エイナも動き始めているようで、すぐに合流というのは難しいかもしれない。

 そしてこの状況で一つ予想外のことも。とはいえネガティブな話題ではない。


「アルト達もこちらに近づいている……話をする必要もなかったな」

「そうですか。まずは、彼らと合流しますか?」


 ソフィアの問い掛けに、俺は少し考え、


「……そうだな。別所の村で戦っている。そちらへ進路を向けるとしよう。もちろん、道中の敵は全部倒すぞ」

「はい」

「体力的にも大変な戦いだが……大丈夫か?」

「お任せください」


 自信をのぞかせるソフィア。俺は「頼む」と彼女に言い……アルト達と合流するべく、動き始めた。


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