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賢者の剣  作者: 陽山純樹
動き始める物語

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屋敷前の出来事

 ソフィアに武器を手渡した後、装備も整えさせた。


 白い外套に加え、中には魔法の糸で編んだ青を基調とした衣服。貫頭衣のようなタイプではなく上下に分かれた物で、一応肌を見せないよう袖や裾は長くなっている。ついでにベルトと回復アイテムなんかを入れる革製のウエストポーチも買った。


 衣服は魔法の糸で紡がれた物でそれなりに防御力もあるし、これに加え障壁が使えるようなので大丈夫だろう……ゲーム上では防御力を高めるために装備をひっきりなしに変えていたわけだが、現実世界になってみるとそんな奴はほとんどいない。お金の問題もあるんだろうけれど、魔物と戦う人間は大抵魔法を習得し障壁を持っているので、それを活用することが多いのだ。


 ゲーム上ではそうした魔法はなかったが……まあゲームとの違いの一つだと認識すればいいだろう。


 装備を整えた翌日以降、俺達はオーダが住む町へと向かう。道中通り過ぎる商人や旅人の表情は暗い。空は昨日とは一転して晴れていて旅日和という感じなのだが、さすがに暗い顔を見ているとこっちまで気分が滅入ってくる。

 しかしソフィアは違うようだった。暗い表情の人達を見て何度も顔を引き締めた。自分が戦わなければという決意を改めて抱いているのだろう。


 また道中、幾度か魔物と戦う機会もあった。それについては全部俺が対処。ここで一つ気になることが。戦闘中、ソフィアが俺のことをずっと注視しているのだ。


「……何か気になることでもあるのか?」


 途中なんとなく尋ねてみる。すると、


「いえ、その……ルオン様はどのようにお強くなられたのかと」


 ――下級魔法や剣技などを駆使しつつも、本来の実力を隠しているはずなのだが……俺が強いという明確な判断基準があるのだろうか。

 あるいは、王が俺に対し「何か」を抱いていた風に見えた――それと同じように、彼女も思う所があるということか?


「えっと、小さい頃からの努力だよ」


 嘘は言っていない。するとソフィアは「そうですか」と答え、話を切り上げた。

 俺を見るその視線は色んな感情が混じっているようにも思える……ただそれは負の感情というわけではなく、好意的なものではあるのだが。


 うーん、こちらの能力を確信したわけではなさそうだが、もしかすると俺についていくと強くなれるとか、何かしらの根拠を感じているのかもしれない……どうやら強くなり過ぎたが故に、多少ながら人を引きつける何かを手に入れたのかもしれない。ただフィリの時は何ともなかったんだよな。同じ賢者の血筋ではあるが、何か違いがあるということなのだろうか?


 疑問を抱きつつ……俺はソフィアと共に目的地へと歩き続けた。






 やがて俺達は、当該の町へと辿り着く。宿場町を繋ぐ街道からそれた先にある山を背にした町。

 到着してソフィアは通りを真っ直ぐ山方向へと歩き出す。町は奥へ行くに従って坂道となっており、オーダの住む場所は上の方にあるらしい。


 場所を憶えているのかソフィアはどんどん進む。俺は彼女の後を追いつつオーダにどう話すかを考え……やがて、到着した。


「……え?」


 けれど、屋敷の全容を見た瞬間ソフィアは呆然と立ち尽くした。俺もまた屋敷の有り様を見て、沈黙する。

 まず格子状の鉄門は固く閉じられている。隙間から石畳の道と少し先に玄関口が見えるのだが、道の左右は草が生え放題で手入れがされていなかった。


 例えば魔族の襲撃を聞きつけ都へ馳せ参じた――とかであればこんな荒れようではないはずだ。軽く見積もっても数ヶ月くらいは放置されているのではないか――俺は屋敷を見上げる。まるで生気がなくなったかのように、ずいぶんと暗い印象を受けた。


 魔族と戦いどうにかされたという感じではない。それらとは無関係だろう。


「……おや、またお客さんかい」


 屋敷を眺めていた時、後ろから声が。振り返ると杖をついた老婆が一人。直後、ソフィアが声を上げた。


「あの、これは――」

「オーダさんなら、二ヶ月も前に亡くなってしまったよ」


 その言葉に――ソフィアは目を大きく開いた。


「な、亡くなった……!?」

「昨日も鎧を着た騎士さんが来て事情を説明したら、意気消沈としていたよ。あの人は誰にも話さなかったようだからねぇ」


 亡くなった……ん、待てよ。二ヶ月も前に亡くなった……このフレーズは、ゲーム上に存在していたはずだ。

 たぶんエイナのシナリオだったと思うんだが……えっと、どういう流れだったかな。


「もうこの屋敷には人は……」

「いないねぇ。メイドさんとかも引き払ったみたいだし」

「――あ!」


 思い出した。同時に声を出したため老婆とソフィアがこちらを見る。


「どうしましたか?」

「あ、いや。ごめん。ちょっと関係ないことを思い出しただけだ」


 誤魔化しつつ、俺は改めて思い返す……そうだ、エイナの序盤のイベント。都から脱出し騎士団が集まった時、ここを訪れた騎士がエイナへ報告していたんだ。

 内容は先ほど老婆が語ったことと同じもの。同時にオーダの素性も思い出す。その人物はソフィアとエイナの剣の師匠に当たる人だ。


 この名前はゲームで出てこない。彼はあくまで師匠という呼称だった。だが名前は見覚えがあった。前世で購入したゲームの設定資料集。その中に存在していたイラストレーターのラフ画の中に、エイナの師匠として名前がつけられていたキャラがいた。けれどゲームでは未登場。さすがにこれはすぐに思い出せるわけがないって……しまったな。


 エイナも当初はオーダの所に身を寄せようとしていた。騎士の多くも彼をリーダーとして騎士団をまとめようと動いていたのだが、亡くなっていたため結局それは叶わなかったというわけだ。

 となると……ソフィアが頼る人物がいなかったということでもあり、これからどうするのか考えなければならない。


「……どう、しましょう」


 老婆が立ち去り、ソフィアは屋敷を眺め呆然と呟く。そうなってしまうのは仕方のない話なのだが、俺もまた何も答えられない。

 とはいえ……身を寄せる場がない以上、このまま彼女を放置すればどうなるかわかったものではない。一番怖いのは彼女が騎士の誰かに遭遇する事。そこからエイナに話がいくとシナリオが崩壊する可能性だって考えられる……ふむ。


「……ソフィア。確認だけど」

「はい」


 俺の言葉にソフィアは体を向けて返事をする。


「例えば王様の所に行くとかは……しないよな?」

「……私自身、それで納得がいかないのは事実です」


 戦うという意志は強いわけだから、納得いかないのはむしろ当然だろう。目当ての人物が亡くなっている以上他の選択肢もないはずだが……正直、このまま王達の所へ行かせても駄目だろうな。もしかすると独自に活動するかもしれない。


 なら、どうすればいいか――ここで俺は、旅の道中で俺のことを観察していたソフィアのことを思い出す。出会って数日くらいだが、命を助けたこともあるし、他にも何かしら信頼を抱く理由がある様子……ならば、


「……もし」


 俺が声を発する。ソフィアは目線を合わせ話を聞く構え。


「もし戦うことを望むなら……強くなる手段は知っている」

「え? ルオン様が?」


 聞き返すソフィア……ここで「お断りします」と言われるとどうしようもないのだが、声音の感触からするとずいぶんと乗り気な様子。


「ああ。方法はいくらか心当たりがある。必ずしもソフィアが望む形で強くなれるかどうかわからないけど……」

「方法が、おありなんですね?」


 ずい、と一歩寄るソフィア。こっちとしては逆に食いつき良すぎてびっくりするくらいなんだけど……まあ、それならそれで上手く利用させてもらおう。

 で、俺が頷くと彼女は強い眼差しを伴って返答する。


「わかりました。私は――」

「ただし」


 ここで彼女の言葉を遮る。


「条件がある」

「条件?」

「俺のやり方は、ある程度素質が必要だ。賢者の血筋であるソフィアは資質としては十分かもしれないが、直接確認しなければ俺は納得しない」

「つまり、私の力を確認したいと?」

「そうだ。もし俺が言う事をクリアできたら、色々教える」


 ――元々、オーダに彼女を預けた段階で検証しようかと決めていたのだ。むしろ俺が彼女の動向を制御できる分、この方がいいかもしれない。


 まずフィリのような成長性があるのかどうか……もしなかったら、可哀想ではあるが王の所へ行くよう通告するしかない。あった場合どうするかだが……彼女の力を確認する方法には心当たりがある。それを上手く利用して、彼女が独断で行動しないよう働きかけよう。


「魔族と戦う以上、生半可なことは言っていられない。厳しいテストになるが、覚悟はいいか?」

「もちろんです」


 頷くソフィア。俺は「わかった」と短く告げ、


「それじゃあここを離れよう。少し先に大きな町がある。そこで、試験のために色々と行動することにしよう」


 俺が先んじて歩き出す。ソフィアは「はい」と返事を行い――町を去る事となった。


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