王との会話
俺とソフィアは揃って動き出す――目的地は五大魔族のイベントをこなすエイナのいる騎士団。とはいえ、その前に行かなければならない所がある。
「ルオン様、よろしくお願いします」
「わかった」
ソフィアは父親であるバールクス国王の所へ向かう――俺達は高速移動魔法を行使し、目的地へ向け動き始めた。
「そういえば、私もご挨拶しておきたいところですね」
レーフィンが言う。俺はなんとなく彼女に質問。
「魔王が侵攻する前、色々と忍んで行動していたんだろ? 王様を見たことはあるのか?」
「もちろんありますよ」
……訊いておいてあれだけど、何がもちろんなのだろうか。
「無論話をしたことはありません。こういう状況でなければ、色々と語りたいと思うのですが」
「それは全ての戦いが終わってからになりそうだな……ソフィア、疲れたなら言ってくれ。道中は長いからな。こんなところで倒れられても困る」
「わかっています」
こうして俺達は魔法を行使し、先へと急いだ。
王のいる場所への旅路は、特段語るべきこともなく順調に進んだ。五大魔族とのイベントに関わったフィリやエイナ達についても観察し続けているが、イベント自体それなりに時間を要するためか、王と話をする時間はありそうだった。
そうして辿り着いた屋敷……バールクス王国領内の端にあるその場所は、周囲を山に囲まれたまさに隠れ家と言える場所だった。
「ここが……騎士団副団長のフオレさんの兄が持つ屋敷、ですね。入りましょう」
近づくにつれ、変な緊張が全身を襲う。いや、さすがにいきなり襲い掛かられたりはしないのはわかっているのだが。
屋敷に近づく。周囲に見張りがいるのかわからないが、穏やかな景色と比べ屋敷周囲に流れる空気は硬質に思える。
さて、相手はどう反応するのか……と思った時、屋敷の扉が開いた。
中から現れたのは――
「王女……!」
フオレだった。王女の出現に、心の底から驚愕している様子。
「王女、なぜここに……!?」
「お父様は?」
質問には答えず、ソフィアが問う。フオレは次いで俺のことを見たのだが……どこか有無を言わせないソフィアを見て、返答した。
「屋敷内におります……王女の師匠であるオーダ殿のことは後に知りました。心配していたのですが――」
「その辺りの事情については説明します。お父様のところへ」
「承知致しました。それで、この方はいかがしますか?」
俺を指して問うフオレ。するとソフィアは少々黙考した後、
「ルオン様は、客室に」
「――わかりました。ではルオン様、どうぞこちらへ」
……極めて当然なのだが、王女であるソフィアに騎士は従う。しかし騎士に指示を出す彼女を見て、王女なんだなと改めて理解。
俺とソフィアは屋敷へ入る。俺についてどうソフィアは説明するか気になったが……あえて何も言及せず、待つことにした。
客室へ通された俺は、紅茶を出されただ待つことになった。屋敷の人間としても扱いに困るのか、それともソフィアに指示されたのか、部屋に通されて以降監視の一つもなく、かといって誰も訪れるような状況にない。
あるいは王女が現れて混乱しているかもしれない……およそ一時間くらいだろうか、ようやく部屋の扉が開き、騎士が姿を現した。
「……王が、お待ちです」
どうやら俺は王様と話をするらしい。頷き、騎士についていく。
屋敷二階へ通され、奥の部屋へと辿り着く。扉を開けると、正面に上等なソファに座った王がいた。
「待っていた」
一言告げ、対面のソファを指差す。
「座ってくれ」
俺は頷き部屋へと入る。騎士が扉を閉め、俺の足音だけが部屋を支配する。
ソフィアはいない。どうやら面と向かって二人で話をするらしく、なんだか緊張してきた。
「さて……まずは、貴殿に言わなければならないな」
王は言う。俺へ向け『貴殿』と言った以上、悪くない話だとは思うけど――
「ここまで娘を守ってもらったこと、感謝する」
――その言葉は、王としてではなく、父としての意味合いが強いと直感した。ただ俺としては、感謝されて困惑に近い表情を浮かべた。
「いえ、その……彼女の意向を汲んだとはいえ、様々な場所で戦ってきたのは事実ですから」
「本来なら、この屋敷へと連れてくるべきだと考えていたのだな?」
「そう思ったこともありました。しかし――」
「ソフィアを認めざるを得ない状況に持ち込まれてしまったと」
俺が試したこともソフィアは話したらしい。
「貴殿のことは説明を受けた。とはいえ、その全てを話すことはなかった。私が知ったのは、貴殿が並々ならぬ実力を持ち、その力でソフィアを守りながら戦ってきた、ということだ」
俺について詳しく話をしなかったのは、俺自身が話すタイミングを決めるべきだという判断だろう。王に対してなら話してもよさそうではあるが……この場で変に話がこじれるのもまずいし、申し訳ないがこの場では黙っておくことにしよう。
「その中で、興味深い点が一つ。賢者の力……魔族から取り戻した力を、ソフィアが宿していると」
「……王女から、どの程度聞いていますか?」
「その力は、魔王を討つ力ということだけ……賢者の末裔である以上、魔王を討つ可能性は私も考えていた。だからこそ、従妹のエイナを逃がした」
彼女を……言葉を待っていると、王はさらに続けた。
「私には、二つの力がある。これを力と言うのは憚られるくらいのものだが……それは予言めいた力と、他者の力を察するという力だ」
「予言はわかりますが……他者の力を察する?」
「うむ、私とソフィアが逃げることは難しかった。よって、王族の中で最も力があったエイナを、優先的に逃がした」
――ゲームでは、その辺りの経緯については触れられていなかった。まあ目の前の王は本来シナリオ序盤で死んでしまう人物。事情を語ることができないのも当然か。
「……一つ、よろしいでしょうか?」
その中で、俺は質問する。
「先ほど予言めいた力と言いましたが……」
「私は小さい頃からよく勘が当たっていたのだが……成人し、調べた結果、どうやらそれが予言の力によるものだったとわかった」
「王女にも、その兆候は表れています。もっとも、陛下ほどの力はないようですが」
「うむ。私は少しばかり、そうした力が大きかったということだろう。賢者そのものと比べれば微々たるもののはずだが……ともかくそれで見通し、貴殿に娘を任せても大丈夫だと考えた。その予想は、見事当たっていたわけだ」
……王が俺を見定めていたのは、そういう理由だったか。例えば賢者の末裔であるリチャルも同様に予言の力を持っていたことを考えると、末裔の中で突発的に現れる能力なのかもしれない。
「いえ、その……どれほど陛下から言及されても、私としては王女を危険な戦地へ赴かせたのは事実ですし」
「ソフィアは例え貴殿と共に行動しなくとも、いつかは戦っていただろう。むしろ、その意志が逆に災いをもたらしたかもしれん。それをしっかりと制御した貴殿に、私は感謝している」
そう言ってもらえると……俺は黙って頭を垂れた。王は改めて俺へ礼を述べ、さらに話を続ける。
「そして、今後のことだ。エイナの所へ向かおうとしているらしいな」
「はい。重要な戦いが待っているので」
「ソフィアはその辺りのことも詳しく話さなかったが、貴殿なりに考えがあるのだろう。私が言っても聞かんこともある上、最早ソフィアの力は騎士団の面々よりも高くなっている。私達が止めるようなことはできん……娘を、頼む」
「――わかりました」
頷く俺。王はこちらへ向け笑みを浮かべ――
「我々も直に動き出す。大きな戦いが控えている様子。それに対し私達も動くつもりだ。頼みごとばかりで申し訳ないが、貴殿も尽力してもらいたい」
「はい、もちろんです」
返事をして――俺は、部屋を退出した。




