目的の完遂
「確かに、お前の技について対策は立てていた」
シルヴィが言う。剣を構え直す動きは、負傷しても変わっていない。動くのに問題はない様子。
「だが、拡散する衝撃波についてはどうしようもない……なおかつ、今のボクでは障壁で全て防ぐのは難しい。しかし障壁の硬度を一瞬だけ大きく引き上げ、ダメージを最小限にすることは可能だ」
「なるほど……俺がこの技を使えば、少々の傷と引き換えに手痛い反撃が待っているというわけか……これを使えなくなったと言いたいわけだな」
ジェルガの口調には、どこか悔しさが混じっていた。おそらく『血に濡れし咎』は彼にとって自信のある技だったのだろう。それを突破され、あまつさえ反撃を――もしかすると、はらわたが煮えくり返る心情かもしれない。
「これで勝ちだと思ったか?」
「まさか」
シルヴィは相手を見据え、告げる。
「今の一撃、確実に入ったが決定打になっていないのはボクもわかっている……だが、お前を倒す技はある。決着をつけよう」
宣言と共に、シルヴィは駆ける。迎え撃つジェルガは、刀身に魔力を込め、逆に吹き飛ばしてやろうという気概を見せる。
おそらく、これで勝負がつく――俺はそう予感した。またシルヴィがどのような技を行使するかも理解できた。間違いなく『一刹那』だ。
しかし、魔力の収束はできるのか――考える間に、ジェルガが叫ぶ。
「だがこの技は、一度見切られたくらいで潰れるような技じゃねえ!」
再び『血に濡れし咎』だ。絶対の自信を持ち、放たれる剣戟。発する魔力から、先ほど以上の衝撃波が放たれるのだと俺も理解する。
シルヴィはどうするか――それでもなお、踏み込んだ。彼女の体から魔力が発せられる。障壁に魔力を注ぎ、衝撃波が触れる。
轟音。火球が炸裂したような爆発すら生じる。それにシルヴィは飲み込まれ、一時姿が見えなくなる。
「シルヴィ!」
ソフィアが叫ぶ――次の瞬間、俺は衝撃波に飲み込まれた彼女の存在を、魔力で察知する。
「――終わりだ」
彼女の姿が見える。障壁の出力を最大にしてもやはり防ぎ切れなかったか、多少なりとも負傷した彼女だが――ジェルガの連撃についてはしっかりと防ぎ、反撃に転じる。
ジェルガの方も防御しようとした。けれど、シルヴィの剣の方が圧倒的に速かった。
――復讐の相手がいるからこそ、彼女は恐るべき速度で魔力収束を果たしたのかもしれない。
俺は確信した。シルヴィだけが持つ上級固有技『一刹那』――その完成形が、放たれる。
「――おおおおおっ!」
咆哮と共に薙がれた剣は、まさしく神速と呼べるもの。力で圧殺するタイプのジェルガでは決定的に対応できず、全ての斬撃をその身に受けた。
連撃は一瞬で終わり、シルヴィは動きを止めた。対するジェルガは呻き、至るところから出血。さらにぐらりと後ろへ傾き――仰向けに、地面へと倒れ込んだ。
「……すげえ技、持ってるじゃねえか」
「ああ、そうだな……お前を倒すために、編み出した技だよ」
「はっ……どうやらこれで終わりらしいな。満足したか?」
「そんな感情はない。やっと終わった……そういう気持ちだけだ」
「寂しいねえ」
ジェルガはシルヴィを見据える。まるで、俺のことを永遠に憶えていろと言わんばかりに。
「俺を殺したら、旅は終わりか?」
「本当ならばそのつもりだった。だが、ボクには他にやることがある」
決然と告げたシルヴィは、剣についた血を素振りにより払い、鞘に収めた。
「お前を倒し、前に進む」
「頑張れよ……応援しているからよ」
皮肉気に語ったジェルガは――そのまま力を失くした。
「……終わったよ、みんな」
シルヴィは言う。その背中はどこか肩の荷が下りたようなもので……ソフィアが彼女の背後へ近寄る。
「シルヴィ……」
「――心配いらない。ソフィア達と共に戦っていく意志はある」
振り向く。優しい――それでいて、柔らかい女性的な笑みを見せていた。
「ボクのやらなければならないことは終わった。今度は、ソフィアの番だ」
「……はい」
頷くソフィア――こうして、シルヴィのイベントを完遂した。
その後、俺はジェルガが持っていた剣について処置を行う。ゲームではイベントと共に消えてなくなったのだが、現実ではそうもいかず、処置をしなければならない。
ただ、触ると色々まずいのでは……などと思っていた時、ガルクから声が。
『武器としては、使用者の精神を徐々に蝕んでいくタイプだな。瘴気を噴き出しているわけでもないため、使わなければ無害だろう』
「わかるのか?」
『うむ。ルオン殿の力ならば触っても特に問題はないはず』
「わかった」
本当は破壊したいところなのだが、下手に壊すと魔力が噴出して面倒なことになりかねない。よってひとまず召喚魔法により収納箱を呼び出し、そこに入れておくことにした。時間がある時に処置をしよう。
そして俺達は町に戻り――翌日、
「今後、どうされますか?」
宿で朝食をとっている時、ソフィアが俺に問う。
「精霊と契約し、ガーナイゼにもアカデミアにも行きました。まだ戦いがない状況ですが……」
「少し、様子を見させてくれ。正直、いつ均衡が破られるかわからないような状況だ。五大魔族との戦いも終わっていない。南部侵攻も終わっていない。今はそちらを優先するべきだ」
魔王の魔法に対する対策もどうなったか確認しないといけないな……そう思っていると、レーフィンが姿を現した。
「ルオン様、魔王に対する策を講じているノームの王からご報告が」
「丁度よかった。その辺りのことを聞こうと思っていたんだ」
「その前に確認です。以前話を聞きましたが、魔王がその魔法を使うにはとある場所へ赴かなければいけないというのは、間違いありませんね?」
シナリオがどういう流れとなるかは伝えていたので、その再確認だろう。
「物語でも語っていたから間違いない。だから魔王が動き出した時こそ、魔法を使う時だ」
「ガルク様が実験を行ったように、こちらも着々と準備を進めています。ノームの王も順調と」
「わかった……さて、ガルク」
『何だ?』
「頼むぞ。俺もできることがあれば協力する」
『わかっている。ともあれ、多少の時間があれば実現可能だ。そう心配するな』
「……で、レーフィン」
俺は再度レーフィンへ目を向ける。
「五大魔族との戦いに際し、賢者の力を宿す人物についてだけど……見極められるのか?」
「それもひとまず対策はあります。ルオン様の説明によると、五大魔族はそれぞれ賢者の力を悪用し色々行動している」
「そうだな」
「魔力を解析し、どなたに魔力が宿るのか、相性がいいかを算出します。精度については確実なことは言えませんが、おそらく大丈夫かと」
「対策は順調に進んでいる、か」
クウザが腕組みしながら話す。
「ルオンさん、使い魔で見られる各人物達の情報は?」
「ああ……カナン王は順調に兵力を集めている。そのペースは結構なものだ。これなら南部侵攻までに想定上の兵力が――」
そこまで言った時、新たな使い魔の報告が来て――
「――これは」
「ルオン様?」
突如言葉を止めた俺に、ソフィアが口を開く。
「どうしましたか?」
質問に俺は応じられず、一時沈黙する。何か悪いことが起こったのかと仲間達が見守る中……俺は、シルヴィへ顔を向けた。
「危なかったな」
「何?」
「復讐相手と決着をつけるタイミングは、どうやら時間ギリギリだったようだ」
「五大魔族との戦いが起こるんだな?」
「ああ……レーフィン」
「はい」
「魔王の魔法や、賢者の血筋の魔力解析については、今すぐに実行可能か?」
「魔法対策はまだ多少掛かりますが、魔力解析については現段階でも使用可能です。何があったんですか?」
問い掛けに、俺は仲間を一瞥した後……口を開いた。
「……五大魔族との戦いが、迫っている」
「残る三体だったな」
シルヴィの言葉に俺は頷き、
「その中で、二体は前提となるイベントがある。たぶんその兆候をどこかで聞きつけたか察して、動いたんだと思う」
「つまり、その前提となる出来事が起こったわけか。誰がやったんだ?」
「フィリと、エイナだ」
エイナと聞いて、ソフィアがピクリと反応。だが質問したのは、シルヴィ。
「二人が協力して?」
「――違う」
首を振る――レーフィンが以前懸念していた通りになったと、心の中で呟く。
「二人が、別々の五大魔族のイベントに関わった……つまり、今から起こるのは、五大魔族の同時攻略戦だ――」




