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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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狂気の剣士

 ゲーム上で『戦士の丘』と呼ばれる場所は、言ってしまえばシルヴィのイベントのために用意された場所。他には何も起きない場所であるため、シルヴィを仲間にする機会が無ければ「?」となること請け合いの場所である。


 イベント専用の場所というのはゲームにいくつもあった。しかし普通そういう所はそのイベントが発動して初めて入ることができるようになるはずだが、フラグ管理とかを忘れたのかシルヴィが仲間にいなくとも入ることができる。もっとも、入ってもアイテム一つない場所なので意味はまったくないのだが。


 さて、決闘場所も把握したところで俺は単独行動を開始した。シルヴィの復讐相手はいつもとある酒場に入り浸っている。俺はそこへ真っ直ぐ向かい、店へと入った。


 店内を見回し……端の方にいるのを発見。俺は真っ直ぐそこへ向かい、話し掛ける。


「……ちょっと、いいか?」


 男性はこちらに顔を向ける。グラスを持っているが、酒臭さはまったく感じない。水でも飲んでいるのだろうか。

 目を合わせた瞬間、言い知れぬ雰囲気を感じ取る。剣の魔力を受け彼は暴走しているわけだが、その片鱗が気配に現れている。


 しかし普段演技できるくらいの理性は残っているようで、俺に向けた目は傭兵特有の鋭さはあるにしろ、特段おかしな様子は見受けられなかった。

 言葉を待っていると、相手は多少訝しげな視線を送りつつ、口を開いた。


「お前は?」

「あんたにちょっと用がある人間だよ」


 相手は剣を壁に立てかけているので、すぐに襲ってくるようなことにはならない。男性はしばし沈黙した後「構わん」と答え、正面の空いている席へ俺を促す。


 着席し、まずは名を確認。


「あんたは……ジェルガ=フルガイトでいいんだよな?」

「正解だ。名を知っているということは、俺に恨みでもあるのか?」

「俺じゃなくて、別の人間なんだけどな」

「そいつを連れてこいよ。返り討ちにしてやる」


 宣言したが、やはり剣に魅入られたような雰囲気は感じられない――彼は、理性的な殺戮者とでもいえばいいのだろうか。自身がやっていることを自覚しており、いずれ報いが来ると信じているという設定だったはず。


「その様子からすると、あんたは自分のやっていることを理解しているようだな」

「ああ、そうだ」


 すんなりと返事をするジェルガ。俺は芝居がかった感じで嘆息し、


「なぜ、それを理解していながらやめない?」

「こいつが、血を欲しているからだ」


 壁に立てかけた袋に入った剣を左手で掴み、俺へ見せる。ここで見せた瞳は、どこか輝いているように感じられた。


「こいつが語りかけている。血をくれと」

「……それだけか?」

「ああ、それだけだ」


 ――彼はまさに、剣に魅入られ剣に人生を捧げた人物と言えるだろうか。


 ここまでは、ゲームで生じた会話の流れ。とはいえこうして面と向かい合うことでわかったこともある。剣について話す様は、楽しげ。これから遊びに行く子供のような雰囲気すらも漂わせており、人によっては気味悪く感じられるかもしれない。


 ただ……ここで俺は気付く。純真とすら思える剣に対する情熱……人を殺め続ける彼の目に、狂気も宿っている。

 下手なことを言えば襲い掛かってきそうではあるが、ひとまず俺に敵意を向けてくることがないのは救いと言える……ここで俺は本題に入った。


「で、あんたに是非会いたいという人物がいる。ここから南へ行った『戦士の丘』で夜、待っている」

「おあつらえ向きな場所だな」


 感想を述べたジェルガは、握っていたグラスの中身を飲み干し、返答した。


「わかった。その言葉に従い、受けてたとう。その人間……どうせお前の仲間か何かだろうが、首を洗って待っていろと伝えろ」


 言い捨てると彼は立ち上がり、店を出て行った。しばし俺は着席したままで、彼が出て行った店の扉を眺める。

 やがて俺は息をついて立ち上がる。


「来るのは間違いないな」


 賽は投げられた。あとはシルヴィがどこまでやるかだけだ。

 ソフィア達が宿を手配しているはず。ジェルガが動き出したことを報告しなければ。


 店を出て、歩こうとした――その矢先、俺は店の横にシルヴィが立っているのに気付いた。

 驚き、こちらが声を出す前にシルヴィから質問がやってきた。


「先ほど奴が出て行ったようだが、話はまとまったのか?」

「……相手に素性がバレていないにしろ、大胆すぎるだろ」


 感想を述べると、シルヴィは肩をすくめた。


「別に構わないだろう。ボクの勝手だ」

「まさかここで奴が暴れ出したら、戦うつもりでいたのか?」

「ああ」


 正直に答えるシルヴィ。俺としてはやめてくれと言いたかったが、彼女の戦う理由を考えると、説得するのも難しいと思う。


「……町の中ではどうやら、派手なことはしないらしい」

「そうか」

「とはいえ剣について語った時、気味悪い程に嬉々とした表情をした。どこかのタイミングで彼の理性は吹き飛び、悲劇を生み出しているのかもしれない」

「なるほど……捨て置くことはできない相手であるのは間違いないな」


 彼女が発する声には暗さも混じっていた……やはり復讐相手を前にしては、感情を抑えることは難しいか。


「シルヴィ、戦いは夜だが……心の準備は?」

「大丈夫だ、ルオン」


 頷くシルヴィの表情は硬いままだったが――俺は「そうか」と応じ、話を進めることにした。


「それじゃあ夜まで休むことにしよう……ソフィア達との待ち合わせ場所へ」

「ああ」


 ――以後、俺達は無言で歩く。何か声を掛けた方がいいのかと思ったが、結局最後まで何一つ話すことなく、ソフィア達と合流。宿へと入った。


 クウザやソフィアについても、シルヴィに声を掛け辛いのか、食事をしている間なども空気がやや重かった。ただこればかりは解決するのは難しいと思っていた時、


「ルオン、少しいいか?」


 ――食事が終わり、ソフィアやクウザが席を離れた段階で、彼女は言った。


「奴の攻撃について対策は行っている。となれば今度はボク自身が奴に致命的な攻撃を与えられるかどうかだが」

「普段通りの剣技を見せれば、十分通用するはずだ」


 俺の発言にシルヴィは「そうか」と答えつつも、なんだか考え込んでいる。


「どうした?」

「……ルオンに見せた技、あれならばどうだ?」


 おそらく『一刹那』のことだ。俺は自らが受けた技を思い出し、言う。


「もし技が成功すれば、致命的な一撃を与えることはできる……が、あれはまだ開発途中で隙も大きい。狙って放つというのは厳しいんじゃないか?」

「使うかどうかはわからない。だが最後の局面となれば、その可能性があるかもしれないと考えただけだ」

「そうか……シルヴィ」

「何だ?」


 問い返され、俺は何を言おうか迷った。今更「無理するなよ」とか「頑張れ」などと言うのも変だ。


「……いや、なんでもない」

「どうした? 自分のことのように緊張でもしたか?」

「……かもしれないな。ソフィアやクウザはそんな感じかもしれないぞ」

「そうか」


 苦笑するシルヴィ。


「仲間ということで、今回の件は色々不安に思っているということか」

「当然だろ」

「……一人で剣の腕を磨いている時は、こんなことになるとは想像もしていなかったな」

「そうやって誰かに心配されることを、か?」

「ああ」


 頷いたシルヴィは――先ほどまでとは一転、自信に満ちた笑みを見せた。


「ルオン、ボクも殺されるために行くわけじゃない。勝つさ」


 その表情を見て――俺もまた、頷いた。


「わかったよ。シルヴィ、健闘を祈る」

「ああ」


 返答したシルヴィの表情は、最後の最後でいつもの調子に戻っていた。


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