復讐の相手
シルヴィの目的について俺は当然知っていたけれど、ソフィアやクウザにはまだ話していない。その辺りをどうするかについては俺もシルヴィに任せるつもりだったのだが――
「……つまり、ボクの目的は復讐だ。故郷を焼いた人間を、ボクは追っている」
アカデミアの成果を示した後、俺達は町へ移動し夕食をとることにした。その間にシルヴィが説明を開始。自身の目的を、ソフィア達へ話した。
そんな簡単に喋っていいのかと思ったが、ここまで色々と接してきたが故に説明したのだろう。
「だから強くなるためにガーナイゼに?」
ソフィアが尋ねると、シルヴィは即座に頷いた。
「そういうことだ……さて、ルオン。事情は二人にも説明した。ボクとしてはソフィア達にも話を聞いて欲しい」
「わかった……ここからは俺が知っている物語について説明する」
気付けば、ソフィアの近くにレーフィンがいるし、テーブルの上にはいつのまにかガルクがいた。物語について、ということで興味があるのだろう。
「以前、魔物化した傭兵を倒した。それによって……シルヴィは、復讐相手の手記を手に入れたはず」
「ああ、そうだ」
「ずいぶんとまあ、物騒なものだったのか」
クウザが驚きつつ声を上げる。
「手記から居所の情報を得ることはできたのか?」
「いや、無理だった。そもそもなぜあの猟師小屋にいたのかも不明なくらいだ」
「それについては物語の中でも詳しく説明はされなかったよ……で、ここからが重要だ。簡単に言うと、あの依頼で手記を手に入れたことによって、ある出来事が発生するようになる」
「手記を得ないと、その出来事が起きないのですか? 関連性があるとは思えないのですが」
ソフィアが首を傾げる。彼女達が俺の語る『物語』をどう解釈しているかどうかわからないが、少なくともフリーシナリオのゲームなどと想像することは不可能だろう。だから疑問はもっとも。
「その辺り、詳しい説明をすると長くなるからそのうち……まったく関係なさそうな話であっても、実は関連しているというケースがある、くらいの解釈でいてもらえれば助かる」
「わかりました。それで、手記を手に入れたことによって何が?」
「ナテリーア王国内にある町……物語では王国の首都から別の場所に移動しようとした時、シルヴィとその復讐相手がニアミスする」
こちらの発言に、シルヴィは重い表情を見せる。
「遭遇して戦いが始まるというわけではないのか?」
「ああ。実を言うとその出来事が起きた後にシルヴィは同行者――この場合は物語の主人公だな。その人物に復讐相手のことを説明するんだ。それから復讐相手について調べ始めるんだが……俺はどこにそいつがいるのか知っている」
「調査などを省くことができると」
「ああ。ただし、きちんとした手順でなければ会えないかもしれない」
「どちらにせよ、町に行ってみる必要はあるな」
クウザの言葉に俺は頷いた。
「もちろん、何もないという可能性はある。物語通り進んできた場合とそうでない場合があったから、俺の説明のようにはいかないのは覚悟しておいてくれ。シルヴィ、それでいいか?」
こちらの言葉にシルヴィは頷き、しばし思考した後に俺へと告げた。
「会う会わない以前に、一つ確認しておかなければならないことがある」
「何だ?」
「ボクが勝てるのか、という話だ。どうやらルオンはボクが一定の実力を持っていると推察し、こうした話を持ちかけたようだが」
「……現状、シルヴィの能力を照らし合わせれば、勝算はあると思う。南部侵攻が発生して以降このイベントは消滅するため、五大魔族との戦い……それが二体同時に開始されるなんて可能性を考えると、確実に戦える機会は今くらいしかないと思う。ただし、シルヴィの能力が高くても厄介であることに変わりはない」
「何か理由が?」
「厄介な技を使うからな」
「なるほど、だがボクもそれを知っている。魔力によって衝撃波を生み出す技だろう?」
「ああ、そうだ」
体術の中級汎用技『虎連砲』。虎を模した青白い衝撃波を前方に放つという技。威力はそれほど高くないのだが、多段ヒットするため地味に威力がある。
現実となった今でも、その効果は健在。しかも性質が悪くなっている。
「この技だが、基本俺達は攻撃に対し回避を優先にして戦うだろ? けど、衝撃波は一度回避しただけでは終わらない……二度三度と、攻撃を防がないといけない」
「普通の回避方法では難しいと」
「そういうこと……ま、これについての対策は一応できる」
その言葉で、シルヴィも何が言いたいのか理解した様子。
「ルオンも使えるのか?」
「ああ。シルヴィのセンスなら半日もあれば対策は講じれるんじゃないかな。だからこの技についてはどうにかなる……確認だが、対策はするんだよな?」
「無策のまま突撃するほど、ボクは無鉄砲ではない。それに、準備の一つもせず凶刃に倒れることこそ……ボクがやってはならないことだ」
「なら協力する……で、厄介な技がもう一つある」
前置きした後、ゲームのことを振り返りつつ語る。
「まず名称は『血に濡れし咎』という」
「どういう技なんだ?」
「極めてシンプルな二連撃……だが『虎連砲』と同様衝撃波が拡散する。一度目で衝撃波を放出し、動きを止めたところで二撃目……という面倒な技で、威力も高く『虎連砲』よりも受ける衝撃は大きいはず」
「それはルオンも使えないと?」
「シルヴィはわかっていると思うが、その相手は特殊な剣を持っている。それがその技を可能にする。つまり、固有技だ」
俺の説明にシルヴィは「なるほど」と答える。
「なら、ボクのやるべきことは?」
「まずは『虎連砲』の対策。そして『血に濡れし咎』をどうするか……俺もその技を真似ることはできるが本物ではない以上、完全な対策を講じるのは無理だ」
「十分だ……ルオン、すまないな」
「謝る必要はないよ。俺としても、シルヴィには死んでほしくないからな」
そのイベントでもしシルヴィが敗れた場合、彼女は死に仲間から外れる。つまりイベント的にバッドエンドで終了するというわけだ。
一応イベントとしては決闘形式だが、現実となったらそんなものを無視して彼女を援護することはできる。しかし――
「ルオン、言っておくが手出しは無用だ。戦う場合は一人でやらせて欲しい」
シルヴィは言う。あくまで独力で戦うという固い意志が宿っている。
「……ああ、わかった」
「密かに魔法で援護するとかもナシだからな?」
「ああ」
俺としては、事前にどれだけ彼女に対策を施せるかだな……本当なら彼女をそのイベントに関わられないようにするというのも手だ。けど、俺が全ての事情を知っている以上シルヴィはこの話題を振って来るだろうし、彼女の心にわだかまりを残すのもまずい。
俺にできることは、イベントを最高の形で終わらせること。
「私達は、どうすれば?」
今度はソフィアが問う。シルヴィから話を聞いた以上、何かしたいのだろう。
「……俺の方から指示できることは何もないな。シルヴィ、どうだ?」
「ソフィアとクウザはいつも通りにしてもらえればいい。今回のことを話したのは二人のことを信頼しているからで、これから自身の過去を清算しに行くということを理解してほしかっただけだ」
「もしそれが終わったら、どうするんだい?」
クウザが問う。復讐を目的としているのなら、それを果たせばもう剣を握る理由だってないかもしれないが――
「それは無論」
シルヴィは即座に応じた。
「今まで以上に魔族との戦いに邁進するさ」
「なら、私達はそれをしっかりと見届けます」
ソフィアが言う。シルヴィは「すまない」と応じた後、俺へと首を向ける。
「協力してくれ」
「ああ、もちろんだ」
頷き、俺達はシルヴィのイベントをこなすべく、町へと向かうことになった。