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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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融合した力

 翌日、俺達は旅を再開。ソフィア達の成果を見るためにまずは行動したいのだが……町に近いと騒動の一つもありそうなので、都を出ることにした。


「次戻ってくるのは、全てが終わった時だろう」

「クウザさん、アレーテさんのことはいいんですか?」


 ソフィアが問うと、クウザは肩をすくめた。


「私が何を言っても、大した意味はないだろう。それに、今後は裏切り者のことも含め警戒するはず。同じようなことにはならないはずだ」

「そうだといいのですが……しかし、こうなると南部侵攻の戦いに参戦してきそうですね」

「それは確実なんじゃないかと思う。そうなったらそうなったで、私は共に戦うだけだ」


 クウザがそれでいいのなら俺達は文句もない……というわけで、都を出た俺達だが――


「目的地くらいは、決めないといけないな」


 俺は仲間達に言った。


「まずアカデミアにおける成果を確認するわけだけど、その後どうするか今のうちに決めておこうか」

「このまま西の最果てにある、聖樹に向かうのか?」


 シルヴィが言及。けれど俺は首を左右に振った。


「現在五大魔族との戦いは始まっていないけど、いつ何時誰かが関わってもおかしくないと思うから……現状、西の果てに行くというのは、やめた方がいいとすら思っているよ」

「ルオンがそう言うのなら……ならば、どうする?」


 問い掛けられ考えてみる。目的も無く旅を続けるというのも……と、ここで俺は一つ思い浮かぶことが。


「……そうだな、一応候補はあるんだが、それはソフィア達の成果を見てから判断してもいいか?」

「ルオン、それなりに実力が必要なのか?」

「まあね」


 シルヴィの発言に俺はそう答えると、仲間達に言う。


「まずは、検証できる場所を探すとしよう……できれば今日中に見つけたいところだな」






 都を離れ、俺達が辿り着いたのは人目の少ない山地。そう標高があるわけでもないのだが、街道から逸れているため周囲に人影はない。

 時刻は昼くらい。穏やかな気候なのでピクニックでもしたらさぞ気持ちいいだろうと思えるくらいなのだが、今からやるのは戦いである。


「で、誰から先にやる?」

「ならば、私から」


 ソフィアが手を上げる。俺は彼女と対峙すると、まとう魔力が今までと異なるものだと感じ取る。


「もう準備に入っているのか」

「はい。魔力の質が変わってしまうことで敵も何をするのかわかってしまう。実戦ではまだ使えないでしょう」

「それで、肝心の威力は?」

「どう、でしょうね」


 剣を抜く。動作は非常にゆっくりであり、練り上げた魔力の感触などを確かめている様子。


「では、ルオン様」

「ああ、いつでもこい」


 言葉と同時、ソフィアは疾駆する。精霊の力を組み合わせたことによるものか、身体強化の度合いも確実に上がっている。

 まず俺は真正面から受けた。金属音が周囲に響くと近くの木々から鳥が飛び立つ。


「単純に、力押しというわけじゃないだろ?」

「はい」


 頷いたソフィアは一度後退。おそらく身体強化でどこまでいけるかを試したのだろう。

 呼吸を整え、魔力を刀身に注ぐ。動作はひどく静かで、魔力は感じられるが波風立たないよう収束させているのがわかる。


 現状、ソフィアの言う通り特殊な魔力を感じることができてしまうので、敵に露見する可能性を考慮すると使用するのは難しい。けど、この調子なら使用可能レベルに引き上げるまでそう時間は掛からないように思える。


 やがてソフィアが発する魔力の流れが止まる。完成したらしいが、見た目それほど強い魔力を持っているようには見えない。


「……ルオン様」

「こっちも相応の力で応じる。来い」


 こちらが告げると、ソフィアは頷き駆けた。刹那、刀身から魔力が一気に発せられる。

 彼女が魔法や技を使う時と、そう変わらない魔力量だと思ったが、今回の場合は質が違う。それがどれほどの効果をもたらすのか――俺は確かめたい気持ちを抱きつつ、真正面から受けた。


 直後、重い感触がソフィアの刀身から伝わってくる。押し返されることはないが、気を抜いていると弾き飛ばされそうなくらいだった。

 そして何より、収束する魔力――四精霊の力が渦巻いており、さらに意思を持っているかのように俺の握る剣に力を加える。


 いや、おそらく四精霊の感情が刀身に宿っているのだろう――直感した時、俺の剣にピシリとヒビが入った。


 使用している剣は単なる長剣。これに魔力を注ぎ普段使用しているわけだが、当然武器にも注げる魔力の限界が存在するので、魔力を受けきることができなければヒビも入る。

 もっとも、俺としては長剣に注げる魔力の限界近くを維持しているわけだが……前ならば耐えきっていたであろう剣は、どうやら今回の技に対応できないようだった。


「おっと」


 すぐさま剣を受け流し後退する。対するソフィアは刀身に力を集中させていたためか、俺の動きに対応できず体勢を一瞬崩す。

 彼女の握る剣も、空を切った――次の瞬間、魔力が刀身から離れ地面に触れる。


 突如、足元の地面が爆ぜた。


 魔力の余波により、衝撃波となって地面に着弾した――俺は巻き上げられた土砂を後退して避けつつ、コメントした。


「爆破魔法でも使ったようだな」

「す、すいません」


 ソフィアにとっても予想外の結果だったのか、すぐさま魔力の収束を中断する。


「いや、いいさ。その技、まだ完全ではないけど俺の剣にヒビを入れ、なおかつ余波による衝撃波で地面を(えぐ)った。相当な威力だ」

「あの、剣ですけど――」

「心配いらない。ストックはあるから」


 収納箱を呼び出し剣を交換。その後、ソフィアは再度語る。


「ただ、問題が二つありまして」

「何だ?」

「一つは、ルオン様も理解されたと思いますが、四精霊の力を融合させることでずいぶんと特殊な魔力を発すること。これをきちんと解消しなければ、技に昇華することは難しいでしょう」

「気長にやるしかないな。もう一つは?」

「この剣です」


 自身の剣を俺に示すソフィア。それって――


「その剣では、この技を使うのに足りないってことか?」

「魔力が特殊過ぎて、全力でやる場合耐え切れないだろうとヘッダさんは仰っていました。さっきも、全力ではないんです」

「武器の心配はいらないだろう」


 ここでシルヴィが横槍を入れる。


「いずれ神霊や精霊の力を結集した物ができる。それなら、ソフィアの技にも対応できるんじゃないか?」

「……ま、そういうことだな。武器については、こっちも心配はしていない」


 俺はそう述べると、ソフィアに改めて告げる。


「ソフィアがやることは、精霊達の力を融合する技術をさらに高める……ただし、他の魔法や技も習得すること。そっちをおろそかにしてはいけない」

「わかっています……これで、よいのでしょうか?」

「俺の目から見ても、魔王に対抗できるいい手法だと思う。ガルクはどう思う?」

『同感だ』


 肩に出現したガルクは、ソフィアに告げる。


『ヘッダという人物も言っていた通り、誰しもできることではない。そして融合したことにより精霊の力をさらに引き上げている。間違いなく。切り札となろう』

「ありがとうございます。ルオン様やガルク様に言われると、自信が持てました」


 それはよかった。さて、次は――


「では私だな」


 ソフィアの立っていた場所に、クウザがやってきて入れ替わる。右手に握る杖に注目しつつ、俺は彼に問う。


「クウザの方はアカデミアで何をやっていたんだ?」

「まずソフィアさんのような技法ができないかを考慮してみて、やっぱり無理だとわかったので別の候補に切り替えた」

「別の候補……?」

「元々私は研究もしていた身だから、自分がどんな魔法を得意としているか……そしてどういう戦い方がいいか、ある程度わかっている。その上で、切り札をどうするか――完成にはまだまだ遠いが、現在できた範囲だけでも今から見せよう」


 自信ありそうな雰囲気。ならばと、こちらが頷いた瞬間、クウザは動いた。


「それじゃあ――始めよう」


 言葉と共に、彼は――握っていた杖を、投げ捨てた。


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