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賢者の剣  作者: 陽山純樹
動き始める物語

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現状整理

 やがてソフィアの案内により、町へと辿り着いた。ちなみに王達の進路とは逆方向である。


 都が襲撃にあったことで民は不安がり、なおかつ逃げてきた人々だっていたりしたのだが……幸い宿などの機能は果たしており、幸運にも俺達は部屋を借りることができた。


「さて……」


 俺は小さく息をつき、一人考える。さすがに同室にするわけにもいかず、状況的にもずいぶんと贅沢だったが二部屋借りた。外では右往左往する人々の姿があり……それを見つつ、現状整理を始める。


 とりあえず、王女については一般的に顔が知られているわけではないので見知った人に会わなければ大丈夫だろう。誰かに似ていると指摘されれば他人の空似だと言えばどうとでもなると思う……色々言い訳も立つのでどうにかなるレベルではある。


 懸念があるとすれば、魔族……魔族は基本、人を外見ではなく魔力で判断する。もし都を侵略した魔族に遭遇した場合、対策を行っていないとソフィア達が生きていることが知られてしまう。現状そうした魔族は都周辺にいるようだし、近寄らなければ当面問題ないはずだが……彼女が敵と戦う意志があるのなら、今後何かしら対策を施す必要があるだろう。


 で、俺は王の依頼を受けオーダという人物の所まで王女を連れていくことになった。オーダという人に釘を刺しておく必要がある……これでシナリオ的に変化はないはず。ただ王女については王の動向と同様観察する必要はあるだろう。


 なお、旅程としては三日で到着するらしいのだが……魔物と遭遇する可能性もあるし、丸腰のまま行動させるのもあまり良くない。剣くらいは渡すべきだ。あと、冒険者風の格好に変えさせるか。それなら気品も少しは紛らわすことができるだろう。


 そう思い俺は部屋から出る。そして隣の部屋の前に立ち、ノックを行った。


「はい」


 靴音が聞こえる。少しすると彼女が部屋から出てきた。


「ルオン様……どうしましたか?」


 ……まだまだ彼女の雰囲気に慣れそうにないな。とりあえず頑張るしかないと思いつつ、俺は口を開いた。


「今後、町へ向かう間に魔物と遭遇する危険性もある……俺が守るけれど、念の為剣を渡しておく。あと、できれば装備も整えよう」


 言葉に、ソフィアは俺の目を見て言う。


「あの、お代は――」

「それを全てひっくるめて、後の報酬で。それと、俺は騎士ではないけど王様やあなたに忠誠を誓う人間だから、言ってくれれば要求には応えるよ」


 とりあえず、こんな感じで言っておけば大丈夫だろう……考えているとソフィアは見る者を魅了する柔らかな微笑を伴い「ありがとうございます」と返した。

 対する俺はちょっとばかり鼓動を速くさせつつも、どうにか態度には出さず続ける。


「ひとまず、外の状況確認も含めて探してくる。戻って来るまでは部屋から出ない事」


 念を押すとソフィアは「わかりました」と答え、扉を閉めた。

 一応、ソフィアを見守る使い魔を呼び出しておき……宿を出て歩き始めた。


 物々しい雰囲気に包まれた町並みは、曇天であることもあって相当雰囲気が暗い。都が陥落した以上、この空気は至極当然だろう。

 そうした光景を見ながら――俺はソフィアの能力に関して少し考えてみる。彼女はゲーム上、エイナを主人公とした場合チュートリアル的な初回イベントでエイナと共に行動している、一応仲間キャラの一人である。


 ただ、そのイベントが終わった後に都を襲撃されパーティーから外れ、以降仲間に入ることはない。レベルは……エイナよりも少し高いくらいだったはず。そして能力だが、エイナが攻撃一辺倒なのに対しソフィアは違う。

 彼女は魔法戦士型といった感じで、剣と魔法をそつなくこなせる感じ……ゲーム上で剣技や魔法を一応少し覚えていたが、初歩的なものばかり。ただ剣や魔法を学んでいたと語っていたので、知識がある以上新たな技などを覚える可能性はある。


 ここで重要なのは、彼女が魔王を倒せる資格を持っているのか、ということだろう。賢者の血筋である以上、その可能性は極めて高いとは思う。従妹のエイナが魔王を討てる以上、彼女も当然……と考えるところだが、ゲーム上で実際魔王を討っているわけではないので、討てない可能性だってある。やり直しができない以上、確実性を求めるなら主人公の誰かに頼るべきなのだが……。


 それに彼女が魔王を討てるくらいの、エイナやフィリのような成長性を持っているのかもわからない。チュートリアル的な最初のイベントではゲーム上で敵を倒しても経験値が入らなかった。よって、他のキャラと同様成長するかどうかわからない。


 成長能力については、賢者の血筋が関与しているかどうかもわからない。血筋ではない人間……例えばフィリと共に戦っていたカティやコーリも、彼ほどではないが共に強くなっていたように見受けられたので、賢者の血筋の専売特許ではないだろう。無論成長をしない人間も数多くいるので、その違いは何なのか……仮にゲームで仲間になったキャラが強くなると仮定した場合、ソフィアは一応該当する。だが本当に成長するかどうかはゲーム上で確認できなかった――


 いかん、これ考えれば考える程ドツボにはまるぞ。俺は一度思考をリセットして、オーダとかいう人の所に行った時検証しようと思った。その人物に相談するのか、それとも何かしらイベントをこなすのか……その辺りも一緒に考えればいいと思い、通りを歩く。


 店は開いているので、冒険者風の装備を整えさせるのはできそうだった。しかし問題は武器。色々な店舗を見て回るが、売り切れも多くロクな物がない。都が襲撃されたことにより多くの人が買い求めたのか、それとも兵士や騎士達が……? ともかく、ソフィアに合いそうな物が見当たらない。


 下手な剣を渡すのもまずい――例えば防御については、魔力を利用した障壁などを生み出すことができるため、魔法が使えるソフィアならばなんとかなるだろう。無論障壁が破壊された時のために備えておくのが一番なわけだけど……問題は、攻撃面。


 ゲームと違って数値などで検証がまったくできないため、冒険者などは初見の魔物は基本手探りで戦うことになる。その中で武器攻撃力は大変重要で、効かなければ非常にまずい。エンカウントしても逃げれば敵がいなくなるわけじゃない現実世界では、攻撃が効かなければ途端絶望的な状況になる。俺も修行していた時それを痛感した。


 俺の場合は出現する魔物のデータが片っ端から頭に入っていたし、窮地に陥らないようマージンをとっていたのでどうにか対処できたわけだが……ソフィアの場合そうもいかないわけだ。


「とりあえず、手持ちから何か出すか」


 一通り見て回った後、そういう結論を出した。よって俺は一度部屋に戻る。そして召喚魔法で収納箱を呼び出し検討し始める。


「うーん、攻撃力が必要だといっても、あんまり強力過ぎると変に目立ったり本人も怪我する可能性あるよな……かといって普通の長剣では……あ、そうだ。どうせなら魔法剣の類にすればいいや」


 このゲームは武器合成により通常の剣でも特殊なマジックアイテムを利用すれば特殊能力を付与することができる。

 種類にもいくつかあり、切れ味上昇など武器能力上昇系の他、例えば剣に魔法を組み込んで魔法を使えるようにするとかも可能である。


 その中で試作でそれなりの物を作ったはず……ゴソゴソやっていると、発見した。

 素材は精銀。これはミスリルなどの素材と比べれば一般的であり、そこそこの攻撃力を持っている、女性でも扱える軽量な素材である。


 ゲーム上の特徴としては、単なる金属と比べて付加できる特殊能力の数が多いというもの。俺には全く必要ないが、仲間に持たせると結構有用な物である。

 この剣に備わっている魔法は二つ……攻撃力上昇と防御力上昇の魔法だ。複数の魔物と戦う場合でも、能力さえ上昇させれば対応できることも多いし、攻撃力もそこそこなので街道にいる魔物なら十分だろう。


 よし、これを渡そう……俺は部屋を出て隣にいるソフィアの部屋をノック。彼女はすぐさま出て俺と目を合わせる。


「はい」

「そこそこ掘り出し物を見つけてきた」


 そう言って俺は剣を差し出した。


「精銀で作られた剣だ。魔法により攻撃、防御能力を上昇させる補助魔法が組み込まれている。店も開いていたから、他の装備は明日までには用意しよう」

「そんな物を……? あの、高かったのでは」


 そこを気にするのか……俺は「大丈夫」と答え、


「これを役立てて、この大陸を平和にしてくれれば」


 くさい台詞だろうか……などと思ったが彼女は笑顔を見せ、


「はい!」


 元気よく返事をした。それが途轍もなく綺麗に見え……俺も背中に汗をかかないよう慣れないといけない、などと思った。


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