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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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それぞれの技法

 ソフィアと合流した時、偶然休憩中であったため俺はレーフィンにガルクから言われたことを話してみる。すると、


「この期に及んでまだ強くなるおつもりですか?」

「強くなる、というのは違うんじゃないかな」

「……まあ、仰りたいことは理解できました。協力もできますが、かなり大変ですよ」

「覚悟の上だよ」


 思えば、ひたすら強くなろうと考え続けた人生。大変でも、やり切る自信はある……こちらの言葉にレーフィンは「わかりました」と応じ、改めて口を開く。


「精霊を生み出す、というのは普通のやり方では非常に厳しい。そもそも人間が人間の魔力で生み出すのは使い魔であって、それを精霊に変えるのは無理ですし」

「複雑な手順がいるのか?」

「最初にやらなければならないことは、どういった精霊を生み出すのか……そして、そのイメージに適合した魔力を外部から持ってくることですね」


 レーフィンは自身の胸に手を当てる。


「私達精霊は、普段大気などに存在する魔力を取り込んでいます。つまり、私達はこの大陸に広がる魔力の影響を受けた存在だということです」

「精霊を形作るのは、大地などに眠る魔力というわけだな」

「その通りです。しかし単に外部の魔力を取り込んだだけでは精霊にはなりません。一番いいのは、精霊の素体を私達が生み出し、それをルオン様の魔力によって取り込むこと、でしょうか」

「素体……?」


 首を傾げる俺。するとレーフィンは「説明します」と前置きしてから、話し始めた。


「私達精霊は、生まれた当初は小さな光のような存在です。それが自発的に魔力を取り込み、やがて理性などが生まれる。ただし、取り込んだ魔力によっては魔物に変じ、あるいは精霊とは似ても似つかない異形の存在となるケースもある。精霊の住処はそうしたことを避けるため、同胞が集まり同じ形になるよう魔力を満たしておくのです」

「へえ、そういうことなのか……で、その光とやらに俺の魔力を注げば、俺の力に基づいた精霊が生まれると?」

「その通りです。またルオン様の存在とほぼ同義になる事から、契約しなくとも体の中に取り込むことができますし、ルオン様が持つ『神聖魔法』の影響を受けることはないでしょう」


 ふむふむ、なるほどね。


「俺のイメージに適合した魔力……それは大陸のどこかに存在する魔力を用いて構築すると」

「はい。ちなみに、どのようなイメージを持っていますか?」

「安直だけど、俺は光属性の魔法が得意だから天使かなあ」


 天使、といっても見た目には色々種類がある。パッと思い浮かぶのは女性の姿をしていて背には白い翼という姿かもしれないけど――俺はちょっと違った。


「そうだな、全身鎧を身にまとい、背には翼。そんでもって、大剣を握る天使かな」

「……分析能力を主とするなら、戦う必要はないのでは?」

「いやそれでも、戦闘能力があるに越したことはないだろ」

『贅沢だな』


 右肩に出現したガルクが俺へと言う。


「そう言わないでくれよ。で、俺が精霊を生み出すには何をしたらいいんだ?」

「まず、どの場所に存在する魔力を取り込むか決めなければなりません。基本はルオン様の魔力によって形作られるわけですが、最初の魔力は精霊にとって核とも言える部分です。ここを失敗すると、精霊の力にも大きく影響が出ます。それに加え、ルオン様の魔力を蓄えるアーティファクトを見つける必要があります」

「了解……しかし、そんな場所すぐに見つかるのか?」

『光属性、というのならアーティファクトと同様天使の遺跡に眠る魔力を用いるべきだろう』


 ガルクの言葉。ああ、確かに。


『ルオン殿がこのアカデミアにおいてできることは、精霊に関する知識を少しでも深くし、生み出す精霊のイメージを高めておくことだろう』

「そっか……わかったよ。方針も決まったし、再度俺は図書室へ向かうぞ」

「ルオン様」


 そこでソフィアが口を挟む。


「一通り訓練が終わったら、お願いしますね」

「ああ、わかってる。ソフィアも頑張ってくれよ」

「もちろんです」


 にこやかに言うソフィア……こうして、俺は再び行動を開始した。






 その後、俺はガルクやレーフィンの教えを受けつつ精霊を生み出すために資料探しを介し。もっぱら図書館にこもることになり、ひたすら勉強に励んだ。

 その間にも、仲間達の技や魔法の開発は進んでいく。また、使い魔によればゲームにおける主人公達も五大魔族と関わってはいない。魔族との戦いは小康状態と言って差し支えないだろう。


「しかし、動き出す時は一気にいきそうだな……」


 その日の資料探しを終え、廊下を歩きながら呟く。カナンを始めとした人間側の軍勢は順調に力を盛り返し始めている。この調子でいけばソフィアのことを公にしても問題なさそうな雰囲気だが……その辺りについて、一度彼女の父親であるバールクス国王に話をするべきかもしれない。


「というか、こうしてソフィアを鍛えていること自体話していないからな……その辺りの経緯については、きちんと話す機会を設けないと」


 なんか、胃が痛くなりそうだ……そんなことを考えていた時、俺の目の前にクウザの姿が。


「あ、どうしたんだ?」

「開発途中ではあるが、ようやく形になってきた。そろそろいいかなと思ったんだよ」


 つまり、俺が実験体になる時がきたというわけか……こちらは「いいよ」と返答し、


「でも、さすがにアカデミア内でやるのはまずいよな?」

「ああ。ソフィアさん達にも確認して、アカデミアを出た後やろう」


 ま、それが無難だな。俺は承諾し、ソフィアのところへ向かおうと歩き出す。


「ちなみにクウザ、シルヴィは?」

「とある教授のところに通い詰めて唸っているよ。今日か明日くらいにはそれも終わると思う」

「だとすると、ソフィアだけか――」


 そう述べた直後、進行方向から魔力を感じ取ることができた。もしや、と思い俺とクウザは駆け出す。


 訪れた場所――ヘッダとソフィアの姿を確認し、さらに――


「よし、これでひとまず完了ね」

「はい。ありがとうございます」


 ソフィアの魔力が閉じる。俺達が近づくと、ヘッダがまず口を開いた。


「ああ、ルオンさん。丁度ソフィアさんの技法が完成したところよ」

「完成、ですか?」

「もちろんここからさらに鍛錬を積まないと『スピリットワールド』を完全なものにはできないけどね……私がやれることはやった。ソフィアさんは四精霊の力を統一することに成功したから」


 それはすごい。ソフィアを見ると、やり切った顔を見せた。


「あくまで基本的なことについてですが……どうにか技の形はできました」

「シルヴィもあと少しで終わるらしい、ここでやるべきことはひとまず終わったかな」

「とすると、旅立つのかしら?」


 ヘッダの質問に俺は「はい」と答える。


「お世話になりました」

「とんでもないわ。私としてもソフィアさんの能力には驚かされっぱなしで、色々と発見もできた。こちらが感謝したいくらいよ」


 にこやかに応じたヘッダは、俺達を見回した後、激励の言葉を述べる。


「色々と目的があるみたいだけど、あなた達ならきっとできるわ」

「ありがとうございます」


 礼を述べ、この場は解散――アカデミアで目的は成し終え、旅を再開することになりそうだった。


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