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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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切り札

 討伐隊が周囲を確認する間に、アレーテが話をしたいと申し出た。俺達としては拒否する理由もないので、洞窟の手前で会話をすることになったのだが――基本はクウザが応対していたため、俺はさして口を挟むこともなかった。


 ただ、アレーテとしては気になることがあったらしい。


「あの魔族が慌てた時、何やらおかしなことを口走っていた」

「何だ?」

「奴らの魔力は大地に注がれている……推測だけれど、魔族側が大地に干渉して何かしているということだと思うわ」


 ――クウザは俺から事情を聞いているので、その理由を知っている。


「調べた方がいいのかしら」

「……ふむ、なるほどな」


 クウザは何か考え込む仕草を見せる。どう答えるか考えている。


 ここで調べるべきと言い出せば、ナテリーア王国自体が動き出す可能性も否定できない。そうなれば魔王側に警戒されるのは目に見えており、俺達の策が露見する可能性もある。

 よって、一番ベストなのは誤魔化すことだが……アレーテの様子から、納得するとは思えない――


「それについてだが、少しばかり秘密にしてもらえないか?」


 突如、クウザが語り出した。


「え? どういうこと?」

「実を言うと、私達はその辺りについて旅をしながら調べている」

「調べている……? どうして?」

「仲間の一人であるソフィアさんは、精霊と契約している身なんだが」


 と、クウザはソフィアのことを一瞥。


「契約している精霊との絡みで、色々と発見したんだ。その辺りについては精霊が動いているため、下手に手出ししない方がいい」

「精霊が……大変な事であるのは間違いなさそうね」

「ああ。既に私達の手から離れていることだから、事情を聞かれても答えることは難しい。ただ調査は進んでいるらしいから、しばらく様子を見てもらえないか?」

「いいわ。精霊が動いているのなら、私達の出番はなさそうだし」


 ある程度事情を話し、納得する方向に舵を切ったか……今回はその方がいいだろう。


「それと、お礼を言わないといけないわね」


 アレーテが改めて言うと、クウザは肩をすくめた。


「私達はあくまで首を突っ込んだ身だ。そう気にする必要はないさ」

「心配してくれたの?」


 アレーテの問いに、クウザは頭をかきつつ応じる。


「確かに、知り合いが死ぬのは寝覚めが悪いと思ったな」

「……そういうことにしておくわ。それと、ただ助けられただけではこちらの面目も立たない。お礼くらいはさせて」

「なら、アカデミアで色々と歩き回らせて欲しい。現状、下手に動くと咎められる雰囲気だからね」

「そんなのでいいの? 城側から話を通せば可能だと思うけど」


 クウザは俺達を一瞥する。それでいい、という意思表示を俺とソフィアは行った。


「それと、もう一つ……できれば私達が介入したことは、城に報告しないでもらいたい――」


 クウザ達はその後いくらか話をして、俺達は別れることになった。アカデミアに関することは話しておくとの確約はもらったので、帰って少し待てばいいだろう。


「ひとまず、精霊達の策は成功したってことでいいんだよな?」


 クウザが俺へ確認。こちらは頷き、


「ああ。問題も多少あったみたいだが、魔法を防ぐ手立てについてはきちんと機能した」

「そうか……」

「何かあるのか?」

「少し考えたんだが……今回の作戦は、精霊や神霊の力がなければどうすることもできなかった」


 クウザが語る様子は、どこか重い。


「討伐隊をこうして救うことができたのは、ルオンさんがいたからという見方でいいだろう」

「それが、どうしたんだ?」

「少し考えてみたんだよ。ああした策を用いる魔族に対し、ルオンさん以外の私達がどう戦うべきか」


 ……ソフィアやシルヴィに視線を移すと、二人も何か考え込む様子だった。俺が単独行動をしていた時、何か話したのかもしれない。


「魔族が策を発動する前に叩き潰す。あるいは魔族に気付かれないうちに攻撃……やり方は様々あるが、少なくとも確実に必要なものがある」

「どういうやり方をするにしても、力が必要って話だな」


 先読みして言うと、クウザは深く頷いた。


「そうだ。私達は確かに冒険者から見て……いや、討伐隊の面々から見ても相当な実力者だと認識される実力を有していると思う。だが魔王と戦う場合、これでも足りない」

「確実に強くはなっていると思う。そう焦る必要もないとは思うけど」

「ルオンさんがそう言うのなら、間違いはないんだろうね。しかし、こうして神霊や精霊に頼り切るのはまずいと考えたのも事実だ」


 そこまで語ったクウザは、小さく肩をすくめた。


「今回アカデミアで色々調べられることになったのは大きい……ソフィアさんだけでなく、私やシルヴィも今以上に強くなれるヒントが見つかるかもしれない」

「どうするつもりだ?」


 問いに、クウザは一拍置いて語り出す。


「人の力でやれることに限界があるのは間違いない。しかしその中で、対抗手段などを見出すことも不可能じゃないと思う」


 ……対抗手段、か。


「まずは、強力な技や魔法――切り札と呼べるものかな。それを習得するべくアカデミアで知識や技術を得る。その過程で得た力は、魔族の策を打ち破る力を入手することにもつながると考えた」

「そうだな……ソフィアには四精霊の力を収束させる方法があるから、今開発している技が切り札になるだろ」

「私もそう思います」


 ソフィアの返答を聞いた後、今度はシルヴィが言った。


「ボクも、色々とやりたい技法がある……勉強は苦手だが、アカデミアには色々と強くなれるヒントがあると感じている」

「私も、シルヴィと同様に……ここで、提案がある」


 そう言って、クウザは俺に要求する。


「新たな技に加え、色々やりたいことがある……ルオンさん、相手をしてもらえないか?」

「相手をするというのは――」

「成果を試すのに、絶好の相手だからね」


 以前シルヴィの言っていた実験体かな。ただ仲間達が俄然やる気になったというのはいいことだと思うし、拒否する理由はない。


 アカデミアで情報を手に入れることはできると思う。今回の戦いの対策を考案するというレベルに至るかどうかはわからないが、ソフィア達が考えた末そういう結論に達したのなら――


「俺でよければいくらでも力になる。それじゃあアカデミアへ戻り、各々が色々動くということで」


 こっちも、調べたいことがあるからな……内心そう呟いた後、町まで戻ることになった。






 町へ戻り、アレーテからアカデミアに関する話を聞いたのは数日後のことだった。


「まず、あなた達のことを話さず報告したわ。隊の面々にも口止めはしているから、大丈夫だと思う」

「すまない」

「けど、本当によかったの? 報告をすれば今以上のお礼だってできたのに」

「こっちはそれで構わないよ。それに、表に出たくない理由もあるから」


 ソフィアの事だな。アラスティン王国のカナンに話したとはいえ、まだ不特定多数の人に伝えるべきじゃない。


「私達としてはアカデミアで自由に調べ物ができるようになれば、それでいい」

「そう……アカデミアの教授達には伝えてあるから、快く協力してくれると思うわ」

「助かるよ」


 アレーテは申し訳なさそうな表情を示しつつも、俺達に再度礼を言って立ち去った。


「さて、それでは思い思いに動くとしようじゃないか」


 クウザの言葉にソフィア達は頷き、行動し始めた。


 ソフィアは当然ヘッダとの検証。シルヴィについてはあてがあるのかと思ったが、クウザと共に歩き出したので、事前に色々聞いていたのだと予想できる。


「さて……まず資料を調べに図書館かな」


 俺も行動を開始することにしよう。ソフィアと共にヘッダのいる部屋を訪ね、彼女に図書館の場所を教えてもらい……一人で向かった。


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