魔族の魔法
「まずは、使えない者の処分から始めないといけないな」
魔族、ダニエレが声を発する。次の瞬間、マリオンが驚愕の表情を浮かべ、
「ま、待て――」
声を発した直後、魔族が指を鳴らす――言葉の代わりにマリオンの口から絶叫が漏れた。さらに裏切った騎士も同じような反応を見せる。
何事かと思った矢先、二人が崩れ落ちる。おそらく彼らに渡していた道具に何か仕掛けがあったに違いない。
「……てっきり何か役に立つ道具だと思っていたけど」
俺は、ダニエレへ視線を移しながら言う。
「まさか、懐柔した人間を処分するためのものだったとはな」
「こいつらには、色々役に立つ道具だと言っていた。嬉々として受け取ったよ」
俺の言葉に、ダニエレは歪み切った笑みを作りながら応じる。
「結局、我ら魔族が全てなのだよ。人間の分際で取引などと対等な関係を結ぼうとする方がおかしい」
……マリオン達がどういう意図で魔族と協力したのかはわからないが、最終的にダニエレに使い捨てられる結末しかなかったというわけか。
「……言いたいことはそれだけ?」
アレーテが言う。少なからず怒気が混ざる声に、俺は忠告する。
「迂闊に攻めない方がいい。内通者がいるってことはそっちの情報は筒抜けだ。まだ罠の一つや二つ用意しているかもしれない」
「察しがよくて助かるよ」
隠す素振りなど一切ない様子で、ダニエレが応じる。
「言っておくが、死にゆく君達に伝えるつもりではいたよ。私なりの、手向けとも言えるかな」
その言葉の直後――地面が突如鳴動した。
「なっ……!?」
後方の誰かが呻いた。俺にもはっきりわかる。足元から、魔力がせり上がってくるような感覚。
「君達にバレないよう結構慎重に構築した魔法だ。一瞬で死ぬような威力じゃない。苦痛にもがくさまを、たっぷりと見させてもらうよ」
その言葉の直後、足元の魔力が一気に押し寄せる。まるで地中から大量の魔物が出現するような感じであり、もし対策をしていなかったら相当危なかっただろうと予想することができた。
だが――魔法陣の効力が発動する寸前、ガルクの声が聞こえた。
『我らの勝ちだ……当然だが』
次の瞬間、地中から押し寄せる魔力が、突如しぼんだ。
「――何?」
ダニエレが眉をひそめる。
次いで生じたのは、魔力の拡散。俺達を狙い定め突き進んできた先ほどの動きとは根本的に違う。魔力があらぬ方向によじれ、また魔力同士が激突し相殺、力が減っていく。
「馬鹿な、なぜ――」
「お前は、舐めきっていたという話なんじゃないか?」
驚くダニエレに対し、口を開いた。
「魔法は失敗だったようだな……どんな仕組みか知らないが、精霊が住まう大地ではお前達の能力も発揮できないって話なんじゃないのか?」
「馬鹿な――奴らの魔力は大地に注がれているというのに」
「大地に?」
慌てたダニエレが口走った一言に、アレーテが声を出す。
「どういうことかしら? あなた達は何かしていると?」
問い掛けたが、ダニエレは自身の発言がまずかったと思ったのか、苦りきった表情を見せた後、アレーテを見据えた。
「知る必要はないな……お前達はここで死ぬのだから!」
魔物達が一斉に咆哮を上げた。攻撃してくるのだと認識した直後、討伐隊の面々は即座に応じた。
迎撃を開始する。予想外な展開の連続で浮足立ってもおかしくないが、討伐隊の面々はしっかりと応じている。
「……情報が筒抜けだったのは、間違いないはず」
その中で、ダニエレと対峙するアレーテが語る。
「けれど、どうやらあなたは戦力分析を上手くできなかったようね……いえ、人間と同様、危機的状況になると論理的思考が働かなくなるといったところかしら?」
「――ちっ!」
舌打ちしたダニエレは即座に背を向けた。そこへアレーテが杖をかざし、光弾をいくつも放つが――気配を探っているのか、背を向けながら魔族は避ける。
周囲にいる魔物達は討伐隊の面々によって数を減らしていく。増援なども無い様子だし、このまま彼らに任せても問題はないだろう。
となれば……アレーテがダニエレを追い始めたため、俺はそれに追随する。真正面には森の出口が見えており、ダニエレはそこへと一気に駆け抜ける。
アレーテがそれに続く。その後を俺が抜けると、そこには――
「戻ってくるのが早かったじゃないか」
シルヴィの声だった。洞窟の前には彼女に加え、ソフィアとクウザがダニエレを阻むように立っていた。
当然、魔族は見知らぬ相手に動きを止めるが……すぐに察したようだ。
「姿を隠していた男の仲間か……!」
「そういうことさ。洞窟の入口付近にいる魔物はあらかた片付けた。増援はもう無理だな」
クウザが宣告。するとダニエレは殺気を滲ませ、
「貴様ら……!」
「ああ、私達に怒りの矛先をぶつけるよりも、先に対処しなければいけないことがあると思うよ」
――クウザが言った時点で遅かった。ダニエレの背後から、容赦なくアレーテが魔法を放とうとしていた。
魔族としては挟撃され対応が決定的に遅れ――そればかりではない。アレーテが放つ魔力は、周囲の空気を一変させる程に濃いものだった。
「終わりよ」
宣言と同時に鉄杖から魔力が溢れる。光弾がいくつも生じ……その数は、周囲を埋め尽くすほどになる。
「に、人間風情が!」
「その人間に敗れるあなたは、所詮馬鹿にする人間以下だったということね」
アレーテの冷徹な言葉と共に光弾が魔族へ放たれる。空間を蹂躙するがごとく埋め尽くした光はついぞダニエレに動く隙を与えることなく――無数の光弾が魔族に直撃した。
断末魔の悲鳴が聞こえる。終わってみればあっけない決着だったが、俺が介入したりガルク達が魔法陣の対策をしていなければ、討伐隊全滅だってありえた戦いだった。
やがて光弾が消えると、その場にいた魔族ダニエレは影も形もなくなっていた。滅したのは間違いなく、だからこそアレーテは息をついた。
「……まず、助かったわ」
俺達へ向けられる言葉。するとクウザは肩をすくめ、
「そちらが無事であれば、私達としては満足だ」
「……色々訊きたいことはあるけれど――」
魔物の雄叫び。ダニエレが滅されたが魔物は消えていない。しかも主人が消えたため暴走するような状態だろう。
「まずは、魔物の殲滅からね」
「私達は洞窟の中に入り込んでいる。そちらは森の中を頼む」
「大丈夫なの?」
「信用してくれ」
ソフィアとシルヴィが無言頷く。二人の様子を見て、アレーテは一時考えた様子だが、
「……わかったわ。もし危険だと判断したら、すぐ戻るように」
「ああ」
アレーテは仲間達のいる場所へ戻っていく。そうして森へ消えた彼女を見送った後、クウザは言った。
「ルオンさん、作戦は成功だな」
「ああ。ガルク、魔法の出来はどうだった?」
『上々だ。多少問題も見つかったが、今回においては何の影響も無かった』
「その問題は、魔王に対抗する場合は致命的になるのか?」
『検証する必要はある。だが、必ず修正して見せる』
「頼むぞ……さて」
俺は、仲間達を一瞥した後、言った。
「作戦の大半は終了……けど、魔物は残っている。最後まで油断はするな。行くぞ!」
声と共に俺達は洞窟へ入る。入口付近で奥に引っ込んでいたはずの魔物達が、我先にと入口へ、向かう光景が広がっていた。
それをクウザとソフィアの魔法が押し留める。俺もまた魔法により迎撃し、シルヴィも剣技によって十分に活躍する。
主人を失った魔物達の行動はひどく単純で、俺達は突撃する魔物をひたすら倒し続けるだけでよかった。真正面から相対してもソフィア達なら勝てる力がある……時間もそうかからず、洞窟内の魔物を倒すことができた。
そして、森へ戻る。そこには既に魔物を撃滅したアレーテ達の姿が。
「……さて、次はあなた達から話を聞かないといけないわね」
彼女は語る……こうして、討伐隊の戦いは終わった。




