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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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戦いへの介入

 気配隠しの魔法を使用し、俺は再度討伐隊へと近づく。やはり気付かれないわけだが――注意はしておこう。


「ガルク」


 小声で俺は呼び掛ける。いよいよ討伐隊は洞窟のある手前の森に到達した。


『どうした?』

「再度確認だが、大丈夫だな?」

『こちらの魔法は機能している。魔族にも露見はしていないようだ』

「わかった」


 応じた直後、先頭にいる騎士――裏切り者が、声を上げた。


「使い魔の報告によるとこの先だ。森の中には間違いなく魔物が多数いることだろう。全員、戦闘態勢に入れ!」


 素早い動きで他の面々が応じる――それと共に、森の中から討伐隊を威嚇するような唸り声が聞こえてきた。


「総員――戦闘開始だ! 魔物を一体たりとも残すな!」


 森へと入る。その直後、魔物達が討伐隊へ襲い掛かってくる。


 最初に応じたのはアレーテ達最前線の人間。どうやら彼女以外にも武器を利用した魔法攻撃を行う者がいるらしく、詠唱もなく武器から攻撃を発動。魔物はそれを連続で受け――滅んだ。


 後方にいる魔法使い達も攻撃を開始する。視界が悪く遮蔽物もある森の中の戦闘だが、それでも彼らは連携し見事に対処する。


 練度は相当高い。アレーテ以外が使用する魔法は下級魔法ではあるが、それらはしっかりと練り上げられている。また複数人が連携して魔法を放つため効果も高く、魔物を確実に撃破している。


『うむ、この調子ならば罠が無ければ容易に突破できそうだな』


 ガルクが言う――もちろん魔族側が誘い込んでいるという解釈もできるのだが、魔物を撃破する速度は中々のものであり、ガルクが言及するのも頷ける。

 進撃する討伐隊。アレーテも奮戦しており、目前に迫った魔物を鉄の杖を振って迎撃する。


 彼女の実力も、相当なものであるのは間違いなく――このまま行けば、魔族の下へ到達するのは時間の問題だと思う。


 しかし、


『――ルオン殿』


 ガルクの声。いよいよかと思った時、討伐隊の正面に、人影が。黒衣に身を包んだ、金髪の男性。キザっぽい印象を受けるその存在は、慇懃な礼を示した後口を開いた。


「ようこそ、我が領域へ」


 洞窟を拠点とする魔族で間違いない……表に出てこないかと思っていたが、罠を利用するため姿を現し、アレーテ達を森に留めるのが目的か。

 討伐隊は当然警戒を示す。後方にいる騎士や魔法使い達は周囲にいる魔物に注意を払い……気付けば、討伐隊は魔物に囲まれている状況。


「我が名はダニエレ。あなた方を倒すために派遣された存在です」

「――逆に、攻め込まれる形となっているけれど?」


 アレーテが問う。するとダニエレは醜悪な笑みを浮かべ、


「無論、これは予想通りですよ」


 ――言葉の直後、後方にいる魔法使いの幾人かが訝しげな表情を見せた。まさか、ここに誘い込んだことが罠なのか……と、疑問に思っている様子。


「仮にそうだとしても、あなたの策を食い破ればいいだけの話」


 アレーテが一歩前に出る。その時、マリオンや騎士が僅かに身じろぎした。

 ここでダニエレが倒されては叶わないといった感じか。だが当の魔族は超然としており、アレーテを迎え撃つような所作すら見せる。


「ふむ、あなたは少々痛い目を見ないとわからないかもしれませんね」


 ダニエレは発言した後、両手を左右に広げる。まだ魔法陣が発動する気配はない。タイミングを窺っているのか。


「いずれ、ここに来たことを後悔しますよ……もっとも、懺悔した後に待っているのは、死だけですが」

「試してみる?」


 強気にアレーテが問う。俺はここで物音を立てないようにしつつ、裏切り者であるマリオンや騎士に目を移す。

 おそらく、彼らも色々と指示を受けているだろう。本来味方であったはずの人物が裏切り……奇襲するには最高の状況。


 その狙いは、先頭に立つアレーテか……魔物との戦いぶりを考えると、彼女はこの討伐隊の中心戦力であることは間違いない。つまり、彼女の存在を崩すことができれば、討伐隊は大きく混乱する。


 魔法陣による攻撃は、魔力障壁などで防ごうとしても問題ないよう調整されているはずだが、狼狽え、混乱した状態となった後使えば、確実に勝負は決まる。


「――ガルク」

『どうした?』

「リチャルの時のように一時的に魔法を受け持ってくれ」

『わかったが、数分しかもたないぞ? タイミングは大丈夫か?』

「ああ……おそらく、数分も必要ないはずだ」


 アレーテが油断なく魔族を見据える様を見る。そしてマリオンや騎士もまた前に出ようとしているが……俺からすれば、彼らが何をするか一目瞭然だった。

 間違いなくアレーテを狙う……彼女の意識が完全に魔族へ向かった直後、背後からバッサリといく。


「ならば、教え込んであげましょう」


 丁寧にダニエレが語る――その直後、アレーテが口を開く。


「マリオン」

「わかっている」


 討伐隊の指揮は任せておけとでも言いたいのだろう――俺はガルクに改めて指示し、魔法を受け持ってもらう。そして詠唱を開始し、


「――どうぞ」


 ダニエレが余裕の声音を吐きだした直後、アレーテは猛然と向かった。


 刹那、マリオンと騎士が動く。マリオンの杖が発光し、さらに騎士の剣が横薙ぎを決める。その狙いは紛れもなくアレーテであり――彼女もまた、背中からの殺気に気付いたようだった。


 けど、対応が間に合わない。他の騎士や魔法使いも目で追ってはいるが、動くことはできなかった。


 つまり、彼女を救えるのはこの場で俺だけ。


「――風よ」


 そこへ俺は魔法を放った。風属性中級魔法『スピアウインド』。文字通り槍のように鋭くなった風が対象へ吹き抜ける魔法。やろうと思えば鋭く尖った風を形成し魔物の体に穴を開けることも可能だが、今回はやり方を変えた。


 風は裏切り者二人の得物を捉え、その腕ごと弾き飛ばす。横からの魔法にマリオン達は抵抗できず、その体すらも大きく横へと吹き飛んだ。


「ぐっ――!!」


 呻いた後、二人は茂みに倒れ込んだ。一方のアレーテは立ち止まり、鉄杖を構えながら吹き飛んだマリオン達を一瞥する。


「……どういう、ことよ?」

「――まったく、もう少し使えると思ったが」


 極めて冷厳な声音だった。町に落ちているゴミでも見るような目で、ダニエレは吹き飛んだ裏切り者二人を見る。


「この程度のこともできないようでは、見込み違いだったか。ただ今回の場合はどうやら、伝え聞いていた面々の他に援軍が来ていたようだが」


 まあさすがにあらぬ場所から魔法が放たれれば、バレるよな……姿を現さないという選択肢もあるにはあったが――


「……ついてきて正解だったみたいだな」


 魔法を解除する。討伐隊の面々は基本俺に対し訝しげな目を向けたのだが……一人だけ例外がいた。アレーテだ。


「あなたは、クウザの――」

「そこにいるマリオンさん、だっけ? 一目見てなんか怪しいと思ったから、ついてきたらこの有様だ」

「……魔物にも勘付かれずここまで到達したのは、褒めてやろう」


 ダニエレは俺を蔑むような目で見ながら語る。


「ちなみにだが聞こう。なぜわかった?」

「アドバイスしておいてやると、何のつもりか知らないが魔族の気配を漂わせた道具なんて渡すなって話だよ。どうやって勘付いたかは……こっちもそういうのがわかる道具があってね」

「……天使のアーティファクトか」


 理解したという顔で魔族は言う……実際のところは間違いだが、そういう解釈をしてくれればこっちとしても助かるというものだ。


「で、裏切り者の存在が露見したな。ここからどうする気だ?」

「――そうだな」


 ダニエレはマリオン達を見据える。裏切り者二人はどこか怯えた目を見せた。


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