情報収集
結局この日でソフィアの技についてはどうにもならず、ヘッダもまずは分析からということで調査してもらえることになった。
俺達は町で宿をとり、俺とクウザの部屋で作戦会議を行うことに。いつものように俺はベッドの端に腰掛け、椅子に座るソフィアやシルヴィに視線を送り、問う。
「まず、エイナ達の動きは今のところあまり変化はない。この調子だと、ある程度時間的な余裕はあると思う」
「しかし、さすがにソフィアの技が完成するまでの時間は確保できないだろ」
シルヴィが言う。俺はすぐさま頷き、
「そればっかりは、ヘッダさんに期待するしかないな……で、クウザ」
俺は部屋の壁に背を預け腕を組む彼へ視線を送る。
「気になったんだろ? この国の討伐隊と魔族の戦いが」
「……ああ。確認だがルオンさん。物語でそういう話はなかったのか?」
「一切なかった。よくよく考えてみると、ナテリーア王国内で起こることって少ないんだよな。南部侵攻には一応援軍として駆けつけたんだけど、活躍したなんて話はまったくなかった」
「可能性としては二つ考えられるな」
シルヴィが口を挟む。
「一つは、あくまでナテリーア王国自体を守るために、内にこもり戦力を外部に割かなかった」
「ああ。順当に考えるとしたらそれだけど」
「もう一つは、何かしら大きな問題が生じた。南部侵攻では援軍は出せたが、その大きな問題により、活躍できなかった」
「考え過ぎのような気もしますが」
ソフィアが言う。うん、俺もそう思うんだけど――
「一応、使い魔を飛ばして町の周囲を観察しているんだけど」
「何かわかりましたか?」
「そもそも俺は魔族討伐に関する情報がないから、討伐隊が現在どういった動きをしているのかもわからない。観察すべき人物の動向がわからなければ、使い魔も役に立たない」
「ああ、そっか。それもそうだな」
クウザは困った様子で頭をかく。
「やっぱり、気になるか?」
俺が尋ねると、クウザは小さく頷いた。
「嫌な予感がする、というのも一つだ。ナテリーア王国の武力は魔族側も身に染みているはずだ。その中で密かに活動している魔族……相当強いんじゃないかと思う」
「ボクも同意だ」
シルヴィも賛同する。その言葉にソフィアもまた同調するように頷いた。
「……ただ、これについては俺もどう動けばいいかアドバイスするのが難しいんだよな」
俺はそう零すと、クウザ達に解説する。
「まず、目的がどうかで変わってくる。例えばクウザの知り合いを助けるだけなら、そう難しくはないと思う。ただし、南部侵攻に備え宮廷魔術師達全員を救うとかになると、討伐内容もわからない以上厳しい」
「さすがにここで力を見せるという考えはないんだな?」
確認するようにシルヴィが言うと、俺は「ああ」と返事をした。
「討伐が始まった段階で犠牲者をゼロにするとなると、当然俺が全力で応じる必要があるわけだけど……それをすると、魔王に対するリスクが跳ね上がるからな……どちらを選択するかといったら、当然魔王の方だろ」
「ならば、先回りして魔族を撃破するとかはどうだ?」
「手段としては有効だとは思う。ただそのためには、居所を探らないといけないな……情報とれるのはヘッダさんくらいだけど、討伐があるという情報だけでどこにいるかまでは知らないんじゃないか?」
「明日、ノーデイルを通して城の中にいる知り合いに確認をとってみよう」
クウザが話し出す。
「協力を申し出れば、おそらく討伐内容の概要くらいは教えてもらえるはずだ」
「ま、それが一番かな。討伐に参加するかは、情報を手に入れてから判断するということで」
「私は、どうしますか?」
ソフィアの問い。そこで俺は彼女を見返し、
「ひとまず、訓練を優先してくれ。 魔王を打倒できる切り札になるかもしれないんだ。少しでも時間を掛けてほしい」
「わかりました。ルオン様、お気をつけて」
「ならボクは、ソフィアの付き添いでもやるかな」
シルヴィは俺を一瞥し、そう言った。
「情報集めにしても、右も左もわからないこの町ではどうしようもないからな。それに騎士や宮廷魔術師なんて、相性が悪そうだ」
「なら俺とクウザで情報を集めるとするか」
明日の方針が決定し――話し合いは終わった。
翌日、俺とクウザはアカデミアにいるノーデイルと話をする。彼自身も詳しい事情は知らないらしい。そこで、
「ノーデイル、私としても討伐には何かしらの形で協力したいと思っている」
「そうか……クウザとしても、やっぱりこの町に思い入れがあると」
「当たり前だろう」
答えたクウザに対し、ノーデイルは笑う。
「わかったわかった。けど参加するにしても、クウザは部外者だからな。聞き入れてもらえるかわからないぞ」
「構わないさ。ひとまず話がしたい」
「なら……そうだな、アレーテが今日アカデミアに来る予定になっているから、そこで話をしてみたらどうだ? 事情も彼女なら把握しているだろうし」
「わかった。それで頼む」
話はまとまり、俺達は待つことになる。その間に俺は一つ確認。
「クウザ、アレーテという人物は?」
「学生時代、模擬戦闘などの実技で主席をとっていた人物だ。自作の武器と魔法の組み合わせが強力で、その当時誰も敵わなかった」
ほう、それは興味深い。ちょっと詳しく聞こうかと思った時、ノーデイルの姿が。
「思ったより早く到着した。簡単に話をしたら会いたいとのことだったが、どうする?」
「ならば、行こう」
クウザは言い、歩き出す。俺も追随し……アカデミアにある中庭に辿り着いた。
そこに、白いローブを着た金髪の女性が一人。ローブ、といってもゆったりしたものではなく体にフィットするくらいのもので、宮廷魔術師に支給された装備なのだろうと想像できた。
なおかつ、その手には鉄製の杖。俺達に気付き視線を転じた彼女は、黒い瞳を向け口を開いた。
「久しいわね、クウザ」
腰くらいまで届くその髪もあってどこか幻想的に見える彼女は、子供などにすれば天使に見えたかもしれない。ただ現在見せる顔つきはどこか渋く、困惑するような態度も見え隠れする。
「ああ、久しぶりだなアレーテ……ところで、どうしてそんなに顔が険しいんだ?」
「文句を言いに来たのよ。あなたの実力があれば、国にも大きく貢献できたでしょうに」
「元々、城に入って仕事をする気はなかったからな」
眉根を寄せるアレーテ……その表情は、呆れも混じっている。
「事情は、ノーデイルから聞かせてもらったわ」
「ああ、さすがにいきなり部外者が参加するとというは難しいだろうけど、情報くらいは手に入れようと思ってね」
「何? 魔族の居所を探って自分で討伐に行こうというの?」
「そこまでする気はないけどな……何か協力できないかとは思ったんだよ」
「……いつも思うけど、クウザは突然何かやろうとするから困りものだったのよね」
はあ、とため息をつくアレーテ。アカデミア在籍時、手を焼いていたということだろうか。
なんとなくだが、アレーテは生真面目な印象を受けるので、クウザとはあまり相性がよくなかったのかもしれない。
「なおかつ、試験でも危なくなると私に頼ってくる始末……」
なんか小言を言い始めたぞ。彼女から発せられる言葉には、日ごろの恨み的な何かが宿っているようにも思える。
ノーデイルも「まあまあ」という感じでアレーテに接しているし、クウザに至っては苦笑い。きっと昔もこういうやり取りがあったんだろうと想像できる。
「……クウザの申し出自体は、まあありがたいわ。けど、二つ返事で情報を渡すわけにもいかないし、協力するからといって容易く討伐隊に加えるわけにもいかない」
――と、そこでアレーテは眼光を鋭くした。
「まずは、そうね……その実力を、拝見させてもらうとしましょうか」




