研究機関
翌日以降、俺達はアカデミアのあるナテリーア王国を目指す。最早障害と言うべき障害もなく、旅程も順調に消化していった。
その間に俺達はさらに情報を収集する。使い魔から、アラスティン王国のカナン王が魔族との戦いで戦果を上げたとの報告が。
「将軍達を助けたことにより、ずいぶん早く魔族に対処しているようだ」
ナテリーア王国の都手前にある宿場町。夕食の席で俺は仲間達に告げた。
「戦果を挙げることは悪くないし、何より人間側が優勢になる……が、あまりに勢いがあり過ぎても魔王の動きが気になるな」
「今のところ、魔族側の動きは?」
クウザが質問。俺は少々思案した後、答える。
「確認できる範囲では異常なしだ……もっとも、魔族側が派手に動き出すってケースがほとんどないからな。動きがなかったとしても、警戒は必要だ」
「南部侵攻などに影響はあるのか?」
今度はシルヴィの問い掛け。俺としては「わからない」と応じるしかない。
「物語通りと言えばそうだと思う……異常を発見したらすぐに報告するよ」
「ルオン様、エイナ達の動向は?」
ソフィアが問う。俺は「大丈夫」と前置きをしてから、答える。
「魔物の掃討に力を振り向けているみたいだ。他の主人公達も仕事の依頼を受けていたりと、五大魔族のイベントに触れる機会はなさそうだな」
「なんだか悠長だな」
シルヴィのコメント。だがそれに反論するようにクウザが口を開く。
「カナン王の出現により人間側が盛り返し始めた……王は冒険者や騎士などに魔物の掃討を呼び掛けているそうだから、それに呼応した動きじゃないか?」
「五大魔族を放っておくというのもな……」
「いや、この場合は仕方ないと思う」
シルヴィの言葉に、今度は俺が答えた。
「残る三体のうち、二体の五大魔族と戦うには前提となるイベントをこなす必要があるわけだが……その二体はイベントが発動しない限り動きがないからな。動向を監視しつつも、後回しにしているんだろう」
「放置しておいてもいいのか?」
「彼らは魔王の命により、大陸崩壊の魔法の準備をしているわけだけど……それらの対策はガルク達に任せてあるし」
『――どれだけ魔力を地中に埋め込んだとしても、対応できる手法にしてある。そう心配するな』
ガルクが突如テーブルに出現して言う。シルヴィもそこで納得した。
「彼らが魔物に注意を向ける間、ボク達は目的を遂行すると」
「ああ……ただ、今回は時間が掛かるかもしれないからな。成果がない可能性も十分ある。その辺りは覚悟しておこう」
俺の言葉に一同頷き……その日は休むこととなった。
そうして旅を続け、俺達はとうとうナテリーア王国首都――そしてクウザのいたアカデミアのある都、クレナへと辿り着いた。
俺としては修行時代に何度か足を運んだことのある都。城壁などもしっかりあって堅牢なイメージを持ってもおかしくないのだが、俺はこの都から穏やかな雰囲気と、高貴なイメージを受ける。
加え、東部最大のアカデミアを保有しているためか、学生を表す藍色のローブを着込んだ学生も多く見られる。魔王が襲来して以後もアカデミアはきちんと機能しているようで、町に入った直後ローブ姿の人物がずいぶんと多く視界に入った。
「学問の町って感じだな」
シルヴィが感想を述べる……戦士という荒くれ者の多いガーナイゼとは、対極に位置する町かもしれない。気候だって穏やかで眠くなるくらいの丁度いい気温。そんな中で俺達はアカデミアへと足を運ぶ。
「で、クウザ。アカデミアに入ってからは任せていいんだよな?」
確認の意味を込めて俺は問い掛ける。すると彼は「もちろん」と応じた。
「その辺りは上手いことやるから、信用してくれ」
「俺はアカデミアの人間と知り合いはいないし、頼みはクウザだけだからな……と、そういえばソフィア。素性を知っている人間とかはいないのか?」
「ナテリーア王国のアカデミアに知り合いはいませんから大丈夫かと」
「そっか。もし何かあったらすぐに言うように」
「わかりました」
俺達は商店に目もくれず進む……アカデミア自体は町の中と町の外側に存在しており、城壁の中にある方は研究などが中心となっている。ちなみに外にあるのは士官を目指す魔法使いなどが多くいる、言ってみれば実戦に近しいことを学ぶ場所である。俺達が行くのは町の中にある方。そちらにクウザが師事していた人物がいる上、精霊に関する研究なども行われているためだ。
「……クウザ、アカデミアの成績なんかはどうだったんだ?」
ふいに、シルヴィが前を歩く彼に疑問を投げかけた。
「その辺りのこと、話したことはなかったな?」
「話す機会もなかったからな……私の場合は、どちらかというと実戦向きだとは言われていたな」
無詠唱に近い魔法を行使できる能力をアカデミアの人間が理解していたかどうかはわからないけど、こうやって戦っている以上実戦向きというのは間違いないだろうな。
「私は研究とこうして戦う道と迷って……魔物の脅威も増え始めていたから、戦う道を選んだ」
「士官する選択はしなかったのか?」
「その選択も一つではあったが……まあなんというか、性格的に合わないだろうと思っていたからさ」
「性格的……?」
「昔から団体行動とか苦手だったんだよ」
頭をかきつつクウザは語る……まあ俺達の仲間になるまでずっと一人だったわけだから、なんとなく理解できる。
「他にも理由はあるけどさ……例えば友人がほぼ全員宮廷入りしたという状況でね。なんとなく、やり辛いだろうなと思い敬遠した」
「友人が全員? ずいぶんと優秀な人物達だな」
「一応、私も頭のいい部類には入っていたからな。話す友人も、そういう人間が多かったという話さ」
「嫌味か?」
「そんなつもりで言ったわけではないよ」
苦笑するクウザ。そういえば彼についてのことは、ゲームでもあまり語られていなかったな。
このナテリーア王国で仲間になる魔法使いもいるのだが、その人物と関係があるのだろうか? ゲームでその人物とクウザを同時に仲間にしても会話イベントの一つすらなかったので、関係ないと思った方がいいのか。
その友人の名は――少し気になって俺が問い掛けようとした矢先、目の前にアカデミアが見えた。城壁と同様石造りの壁が敷地を覆っているようだが、そう高くはないので建物を見ることはできる。
「あそこだ……都の中にあるアカデミアは訓練場もないから敷地としては少々狭いかもしれないが……中々だろ?」
建物の外観は赤――いや、茜といった方がいいかもしれない。その色合いで統一された建物は威厳もそこそこあり、敷地の中と外を繋ぐ門は、冒険者である俺達を阻んでいるかのような具合。
「……入って大丈夫なのか?」
俺が疑問を口にすると、クウザは入口付近にある建物を指差す。詰所のような場所で、通る人間をチェックしているのだろう。
「私がまず話をする。少し待っていてくれ」
言った後、彼は一人で建物へ向かう。俺達は指示に従うことにして、待機。
クウザが守衛に話をすると、建物の中から兵士らしき人物が出てきて目の前の大きな建物に入っていく。おそらく連絡をしに行ったのだろう。
「門前払いとなったら、どうする?」
ふいにシルヴィが問う。クウザがいるので大丈夫だとは思うけど、まあそういう可能性もゼロじゃないか。
「ここでの活動はあきらめるしかないかな。残念だけど」
「……心配する必要は、ないみたいですよ」
ソフィアが言うのと同時、建物から建物と同じ茜色のローブを着た男性が姿を現し、
「クウザ!」
名を叫ぶ――どうやらやって来たのは、クウザの知り合いらしかった。




