それぞれの考え
精霊との契約と、神霊との戦い……全てやり終えた俺達は、最寄りの町まで戻る。時刻は夕方。宿をどうにかとり、休むことになった。
とはいえ、今後のことを話しあう必要があるとクウザが提案。よって、男性部屋に集まったのだが――
「クウザ、まだ唸っているのかよ」
椅子をソフィアとシルヴィに明け渡しベッドに座る俺は、窓際に立つクウザに言及。
「いやいや、あの戦闘を検討するのは相当価値があると思うぞ」
「何か参考にするのか?」
「さすがにそれは無理だろ……ま、色々私なりに考えていることがあるって話だよ」
なんだか気になるが……俺はふと女性陣に顔を向ける。シルヴィはいつもの調子になっているし、ソフィアも顔つきが穏やかになっているのだが……内心どう考えているかわからないため、あの戦いでどう思ったかの確認くらいはした方がいいのかな。
ま、この辺りは後だな……俺はクウザへ話し掛ける。
「それでクウザ、議題は?」
「ああ。アカデミアへ行った後の事を今のうちに決めておこうと思ってさ」
クウザが表情を戻し言う。
「別にアカデミアへ行った後でもいいが、時間がある時に決めておいた方がいいかなと思ったまでだよ」
「……とはいえアカデミアの後、次の行先は一応決まっているからな」
「聖樹コロナレシオン、ですね」
ソフィアが言う。俺は小さく頷いた――が、
「ただし、場合によっては他の場所に向かう必要がある。五大魔族との戦いだ……ここで一つ問題が」
俺は頭をかきつつ、ソフィア達へ告げる。
「現在、物語の主人公達は五大魔族に関するイベントに遭遇してはいない。だからアカデミアに立ち寄るくらいの時間はありそうだし、その辺りは最悪どうにでもなる……が、問題は五大魔族との戦いにエイナが加わった場合だ」
「確かソフィアの従妹だったな」
シルヴィの発言にソフィアが「はい」と答え、
「そこは私も気にしていましたが、もう力を結集させても意味がないことを踏まえれば、私が赴く理由はないのでは?」
「まあそうなんだけど、ベルーナとの戦いのことを考えると、できるだけ賢者の血筋を持つ人間を連れて行った方がいいかなとも思うんだよ」
「……ちなみにですがルオン様。私が同行できない場合、どうしますか?」
「当初は単独で動くのもやむなしかと思っていたんだが」
「接触して戦いに加わる口実はあったのですか?」
「あ、そういえば説明していなかったな」
俺はソフィアとシルヴィが剣を訓練している間に、エイナと関わったことを話す。
「――というわけで、エイナがいれば戦闘に加わることはできるだろ」
「なるほど……エイナとのことについてですが、これはバールクス王国解放に関連する部分ですし、微妙なところですね」
「そうだな……王国を解放したら、隠す必要もないんだけど」
「はい。あるいは人間側が優勢となったら……ですが、これは難しいのでしょうか?」
「色々と情報を集めてみると、段々情勢はよくなっているよ」
ここでクウザが話し出す。
「魔王側の最大の問題は、手足となる幹部級の魔族が少ない事。どうしたって魔物を主軸に戦わなければいけないわけだが、人間側としても魔物達なら策などを使えば十分対処できる」
「それについては物語の流れに沿っているのは間違いない。ただ……」
「ただ?」
俺の言葉に聞き返すクウザ。ソフィアやシルヴィは不穏なものを感じ取ったか、沈黙しこちらの言葉を待つ。
「五大魔族の撃破ペースと、大陸の情勢を照らし合わせると、撃破ペースの方が早い気がする。それがどういう結果をもたらすのか……少なくとも、南部侵攻や魔王の仕掛ける魔法対策の時間が限られてくるのは間違いない」
あくまで感覚的なものだが、ゲームと比べシナリオの進行ペースが早い気もする……原因が何かと考えてみた時、俺はソフィアに顔を向けた。
「……どうしましたか?」
「いや、なんでもない」
彼女のような存在が、そうしているのかもしれない……考えつつ、俺達は話し合いを続けた。
結論としては、アカデミアで色々済ませた後の状況に合わせ対応するという結論に……というか、それしか言えないのが実状か。
五大魔族に関連するイベントが起きたならば、それに協力する。もし起こっていなければ進路は西へ。精霊コロナに会いに行くことにする。
まあ西の果てであるため長旅になることは間違いなく、移動魔法を使っても結構かかる。その間にイベントが発動する可能性は高く……コロナレシオンの所へ行くのは南部侵攻などの一連のイベントが終わってからでもいいので、五大魔族関連イベントを待つというのも一つの手だな。
話し合いも終わり、俺達は解散。ソフィア達が部屋を出た後、俺はクウザに問い掛けた。
「それで、直接俺の戦いを見た感想は?」
「衝撃。その一言だな」
クウザは笑いながら感想を述べた。
「あそこまでの実力を目の当たりにすると、人というのは呆然となるしかないんだなとわかったよ」
「……そんな力を持っている俺については、どう思う?」
「魔王を倒すために尽力している以上、味方として心強く思っているさ」
当然だと言わんばかりに、クウザは発言。
「ルオンさんとしては、色々思うところはあるのか?」
「まあ……力に対し恐れ慄くようなことになるかなと思った」
「心配する必要はないさ」
笑みを浮かべるクウザ。その様子に俺は「ありがとう」と述べ、
「ソフィア達にも、その辺り訊こうかと思うけど」
「そう心配する必要はないと思うけどな……行ってくればいい」
軽快に告げると、クウザは椅子に座った。
「私は少し考え事をしているから」
「何をするんだ?」
「さっきも言った通り、戦いの検証だよ。私の分析が役に立つかどうかはわからないけど」
「いや、それはやって欲しいな。魔王に足元をすくわれないように」
「頼みとあらば」
その言葉を聞いた後、部屋を出る。まずソフィア達の部屋をノックしてみるが、反応なし。よって移動を再開し……食堂に到着。
室内を見回すと、シルヴィを発見。そちらへ向かって歩いていくと、足音で気付いたか俺へ顔を向けた。
「ボクに話か?」
「ああ……ソフィアは?」
「風に当たりたいとのことで、外に出ているよ。きっとルオンが行った戦いで一番衝撃を受けたのは、ソフィアなんだろうな」
「……シルヴィは、どうだ?」
「ボクか? 正直凄まじい力の応酬で、ピンときていない部分もある」
シルヴィは肩をすくめた後、腕を組み話し出した。
「今はあの戦いを頭の中で噛み砕いているような状態だから、感想はまた今度にしてもらえないか」
「別に構わないが……」
「しかしあの戦いを見て、一つ思ったことがある」
「何だ?」
気になって問い掛けると、シルヴィは意地悪そうな笑顔を見せた。
「あれほどの実力があれば、ボクの新技の実験台に――」
「断る」
即答した直後、シルヴィは声を上げて笑う。
「いや、すまないな。あれだけのことを成し得ても、受け答えは普通なんだな」
「当たり前だろ……別に魔物になったわけでもないんだから」
「そうだな。ルオンは人の身で強くなった。だからこそ、ボク達はあの戦いを見て呆然となったんだ」
シルヴィはそう口にした後、顔つきを戻した。
「少しでも追いつけるよう鍛錬をするさ……ソフィアの所に行くんだろ? 通りを歩くと言っていたから、すぐに見つかるはずだ」
「わかった。ありがとう」
俺は礼を述べ歩き出す。宿を出て周囲を見回す。すぐにソフィアの姿が見つかった。
「さて……」
先ほどの話し合いでは普通に受け答えしていたけど……俺はソフィアのいる場所へと足を向けた。




